〈間話〉訪れと黒
暗闇に灯りが揺らめく
灯りの像がぼんやりと闇を照らす
靴音が響く、トンネルの中の様に音が反響する。
そして音が突然何かに吸い込まれるように消え靴音も止まった
暗闇の中にぼんやりと人影が見える
灯りが少ないせいか姿形はぼやけている
しかし人型であることは確かで
それは蝋燭の火のようにゆっくりと揺れながら立っていた。
そんな人型の後ろにごつごつとした軽自動車程の大きさの黒い何かが
麻袋を引きずる時のような音ともに現れる
しかし人型はその事に気付いていないのか
また無視をしているのか反応を示さない。
「……」
少ししてまた靴音が聴こえる
それと同時に人型はゆっくりと歩きだす
先程の靴音は人型のものだったようだ
同時に歩き出した人型の後ろを黒い何かもついてくる。
「……」
言葉も息遣いすらさせぬまま人型は歩き続ける
生気なく歩くその姿はまるで幽霊のそれである。
トンネルの奥に進むにつれ灯りは減り先には闇が広がっていく
しかしその人型は恐れる様子もなく闇に正面から呑まれていく。
「……おぉいな」
ポツリと声が聴こえた
すぐに闇に吸い込まれたがその声はトンネル内に響いた
あどけない印象を与える声だった
それは未だ歩く人型から発せられたものだ
同時に人型にしか見えていなかった像が形をなした。
人型の正体は制服を着た女子だ
顔は長い髪に隠れ確認できないが高校生だろう
背丈は平均より少し高めの細身で先程聴こえた声の印象とは異なって感じる。
少しして女子高生の姿がまたぼやけ始めた
数秒して先程と同じくぼやけた人型にしか見えなくなり
灯りが完全に途絶えたトンネルの奥に向かって歩いていく
目の前に広がる闇の空間に
依然生気なく歩き続けぼやけた像すら吸い込まれるように消えていく。
遂にその姿は闇に完全に消えた
同じくして人型の後ろに居たはずの黒い何かも忽然と姿を消していた。
トンネル内に再び静寂が訪れ
暗闇を照らしていた灯りが徐々に点滅し出す
今度はトンネルに響き渡るケタケタと笑う声が
周囲から湧くように聴こえ始める
それはゆっくりとこちらに近づいている、そう感じさせた。
大きくなっていく笑い声と共に灯りの明滅が早くなる
限界を迎えたのか灯り達がぷつりぷつりと役目を終えて消えていき
最後の灯りが無くなったとき笑い声もピタリと止み
何事もなかった様に静寂と闇が訪れた。