君は僕のラストダンジョン
目に留めていただいて、ありがとうございます。短いお話ですが、ホンワカとして頂けたらと思ってます。
「私、結婚するの…」
目の前に座った僕の彼女は、ミルクティーに口をつけながら言った。
まるで、世間話や天気か何かの話をするように…
誰と?
いつ?
僕とじゃないよね?
だって、一度もそんな話したことがない。
いつもの悪戯?
違う。
伏せられた長い睫毛が、ゆっくりと開き、僕を見る。
真っ直ぐな眼差しが、それは事実だと言っていた。
喉がヒリヒリして、情けない事に一言も言葉が出てこなかった。
君は僕の予想を超える地下迷路だ。
僕たちは小学校の頃から隣同士に住んでいて、当たり前のようにずっと一緒に居た。
隣と言っても彼女の家は僕の家の何十倍の大きな家だったけど…
町の名家とただのサラリーマンの家庭。
家柄を気にして、ずっと隣に居られるように、仲の良い幼ななじみを演じてきた。
大学を卒業して、少し有名な会社に運良く就職できた。
初恋という名のダンジョンに20年囚われてきた。
君に彼氏ができたと聞いた時、苦しくて、自暴自棄になって、毎週のように飲み歩いていた。
心配して迎えにきてくれた君の小さな可愛い唇から、僕のことが好きと聞いた時は天にも登るような気持ちだった。
その日は無我夢中で、幸せすぎて、殆ど覚えていない。君と迎えた朝がどんなに幸せだったか。
面倒見が良い幼ななじみから、彼氏になったつもりでいた。そう思っていたのは、僕だけだった。
「……」
彼女はまっすぐ僕を見ていた。
僕は震える手を隠すのに必死で、下ばかりを向いていた。
彼女がいない未来なんて考えられない。
でも、僕には彼女を幸せにするだけの力も財力もない。
行かないで。
結婚なんてしないで。
そう言えたら、どんなに良かったか…
でも、これで良かったんだ。
君が幸せになるのなら、君の幸せを願おう。
「ゆう君、今までありがとう」
静かに席を立ち、彼女は片隅に置いてあった会計伝票を手に取ろうとしたが、そっと僕は掌を重ねそれを遮った。
最後ぐらいカッコつけさせてほしい。
これで最後だ。
もう君に触れられない。
………そんなの嫌だ。
「結婚しないで。君が好きなんだ」
重ねた掌に、僕の目から涙が滴り落ちた。
「……結婚しないなんて無理よ」
彼女は悲しそうに笑って、もう一方の手で優しく僕の頰をつねった。
「ずっと一緒に居たいから、ゆう君と結婚しないなんて無理」
このような稚拙な文章を読んでいただきありがとうございました。
1,000文字…難しかったです。
次回もう少し頑張ります!