8局 天才の片鱗
利一はイカサマ麻雀に勝利し、建物を出たが少女の身なりはあまりにも目立つ。
セシルは無言で上着を着せた。また、手は汚れていたが構わずに手を繋ぐ。
「とりあえず宿屋へ帰りましょう」
利一は軽く頷いて、宿屋へ歩みを進める。
(こう見ると兄弟みたいだな)
少女は少し安堵しているのか、足取りも軽く見えた。
利一は考えていた。アストラルに戻り、少女を保護するか、はたまた旅に連れていくのかを。
だが、アストラルに置いていくのも気が引けるだろう。この少女には拠り所がない。身を呈してまで、自分を救った利一とセシル以外に心を開くことは、容易ではないだろう。
暫く歩くと、宿屋に到着した。
外はもう暗く、人通りも非常に少なくなっていた。
宿屋の部屋に戻り、開口一番、セシルは少女を気にかけるように名前を聞く。
「お名前はなんていうのかな?」
少女はすぐに答える。
「フィーリア……お姉ちゃんは?」
「私はセシルよ。宜しくねフィーリアちゃん」
セシルは優しく、そっと頭を撫でる。フィーリアは目を細めた。
(コイツ、猫みたいだな。なんと愛くるしい)
「じゃあ、フィーリアちゃん。お姉ちゃんとお風呂に入ろっか」
フィーリアは首を縦にぶんぶん振っている。
そして、セシルは利一を睨んだ。
「あ、ああ、わかってるよ出てくよ」
安宿屋につき、水浴び程度しか出来ず、風呂などないのだが……
暫く部屋の外で待っていると、セシルから部屋に入る許可が出た。
中に戻ると、フィーリアはセシルのぶかぶかの服を着せられていた。
「お兄ちゃん、待たせてごめんね。それに有り難う……私を助けてくれて」
フィーリアの上目遣いに、利一は卒倒しそうになる。
(い、いかん。この小動物感……新たな扉を開いてしまいそうじゃねえか)
利一はなんとか心を自制した。
「まあ、なんだ。お礼はいいからよ。飯にしようか」
パンのようなものに野菜を包んだ、さながらサンドイッチを鞄から取り出した。さきほど帰りに買っておいたのだ。
フィーリアは好奇心からか、匂いを嗅いでいる。そして、小さい口で頬張る姿はリスのよう。
「おいしい!」
フィーリアの満面の笑みに、利一とセシルは顔を合わせた。
「それでだな、フィーリア。これからのことなんだがお前はどうしたい? 俺たちは旅をしている。セシルお姉ちゃんのお城へ行くか着いてくるか……」
フィーリアは不安げだ。
だが、はっきりとした意思表示をする。
「リーチ兄ちゃんとセシルお姉ちゃんと一緒がいい!」
利一とセシルは笑顔で頷いた。
「で、俺も水浴びしたいんだけど……」
「ふーん、勝手にしなさいよ。ただ裸で出てきたら殴るわよ?」
「お兄ちゃん、身体流してあげよっかぁ?」
(最高です。ぜひお願いいたします!)
と、思いつつ利一はクールな姿勢を崩さない。
「ありがとうフィーリア。気持ちだけ貰っておくよ」
フィーリアは利一に恩返しがしたいのだろう。
水浴びを終え、部屋の中は和やかであった。
利一はセシルに対して、麻雀の指南をしてフィーリアも横から眺めている。
「テンメェ馬鹿か?! そこで2m切り? ハァ? なんで? 嘘でしょ? 合理的説明をしろって言ってんだ!」
利一の煽りにセシルが怒る。
「フガァァァ! もっと言い方ってもんがあるでしょうが!」
「ねえお兄ちゃん。私にもまあじゃん教えて欲しいなー」
煽りに夢中の利一も、怒っているセシルも平常心を取り戻した。
「打ちたいのか?」
フィーリアは頷く。
「フィーリアは字は読めるのか?」
再度頷いた。
利一はルールブックを片手に、大まかな説明をしていく。フィーリアは首を縦に振りながら、何かを考えているようだ。
「覚えた!」
(エェ……)
「じゃあ平和は?」
フィーリアは即座に答えた。
「全部順子で面子を作って、じゃんとう? は役牌以外にして、えーと、待ちは両面にする!」
(うーんこの天才ぶり……)
「じゃあ、四十符二翻は?」
「2600!」
もはや疑いようのない才能。利一に勝るやもしれない。利一が努力型の天才とすれば、フィーリアは天然型の天才だ。
麻雀においては記憶力や計算力は大事なファクターである。
もう少し教えてみれば、セシル程度なら軽く捻ってしまうかもしれない。
(これでセシルも燃えてくれればな)
「フィーリアちゃん本当に凄いね! 私も負けてられないわ」
利一が想定した通りに、早速やる気を出している。
「これは5s切りね!」
セシルの渾身の回答に利一は叫んだ。
「はぁぁぁぁぁ!?」