4局 美少女にも容赦はしません
小説内の表現について。
全てを挿し絵で対応は厳しいので、文字で表現する場合のルールを記載。
m=萬子
p=筒子
s=索子とします。
『例』
打1s = イーソーを打つ。
(長かった……)
利一はついにやり遂げたのである。
"麻雀"を最もポピュラーな遊戯とすることを。
宿屋でのアルバイトの給料は、全額を麻雀牌や自動麻雀卓の開発とルールブックの作成に回した。
時には異国の商人を装い王都に麻雀を広め、時には小さな街の暇をもて余した老人に広め……
小さな街の宿屋でのアルバイトを八年である。
すでに二十八歳だ。
「ここから俺のターンだぜあのクソジジイ」
利一は神への反骨心を捨ててはいない。寧ろそれがあったからこそ、ここまでやってこれたのであった。
「お世話になりました。また旅を続けたいと思います」
利一と宿屋で働いていた人間は、皆感慨深そうである。
「この街に寄ったときはぜひうちを使ってね」
街は初めて訪れた頃からあまり変化は見られない。
ただ一つ違うこと。それは、生前親しんだ雀荘なるものが点在し、人で賑わっていたことである。
「これで、これで名を上げてヌルゲー人生を送ってやる」
利一はそう呟き、街を出た。
ゲームの開発者として名を上げるのも良いが、それでは強くて当たり前だ。彗星の如く現れた謎の男が麻雀会を席巻する。利一の描くビジョンである。
働いていた街から、数kmの所には大都市である『アストラル』が存在する。
利一は野望の第一歩として、アストラルへ向かう。
麻雀は利一が考えていたよりも、民衆に受け入れられているが、貴族の間でも最も重要視するゲームとなっていた。
そう、この世界はロクな遊戯がなかったのである。そこへ一見知的な遊びが異国から入ってこれば、普及して当然だった。
また、政治的な係争においても麻雀が用いられるケースが多々あり、各領主は強力な打ち手を渇望していたのである。
「フヒヒ、俺から見れば全員が素人同然。俺には生前の莫大なセオリーや統計データが頭に入ってるんだ、負ける訳ねえだろ」
そう、利一は曲がりなりにも生前に麻雀会で絶大な力を誇っていた者。こと麻雀に至ればこの世界で一番強いと自信を持っていた。
妄想を垂れ流しながら、アストラルに到着した。
アストラルは王都『セール』からは、南に位置する都市である。
また、交易都市であり兵士も多数が駐留している。
レンガ造りの家や領主の城を見ていると、ここが異世界だと再度認識できる光景だ。
「早速この街から粛清してやるぜ、フヒヒ」
ヒソヒソ
「なにあの人、やばくない?」
「一人でボソボソと、頭おかしいんじゃない?」
利一は煽り耐性が皆無であり、そこが唯一の欠点だろう。
「ああ? やんのかこらあ」
「ヒ、ヒィー」
早速アストラルの雀荘へ向かう。
「あそこにするか」
早速入店した。
「いらっしゃい」
「どうも」
利一は店内を見回す。
自分がからくり技師に頼み、製作した自動麻雀卓の普及には感嘆してしまう。
店内は人で賑わっており、発声や打牌音が絶えず鳴り響いていた。
利一はどの卓へ入ろうか吟味する。
(皆打ち筋が緩いな。場況判断や牌効率もまるでなってない)
麻雀とは四面子、一雀頭の十四牌をいかに早く手作りし、和了るかというゲームである。
面子とは同じ牌を三つ集めた刻子と123などの牌を並べたものを順子と呼ぶ。
その牌の組み合わせにより、役の高さが決まるのである。
利一がふと、ある卓へ目を向けた。
「私に勝てる人はいらっしゃらなくて?」
身長こそ小さいが、歳は16歳前後だろうか、銀色のミディアムヘアに気品が漂うドレス。言うまでもなく美少女だ。
店内にいる全ての人間と比べて、身なりや風体など明らかに旗色が違う。
利一の目線に気づいたのか、その少女は利一を睨んでいるように見える。
「そこの殿方。こちらに空きができたの。暇潰しの相手になってくださらない?」
「は? 後悔するぜ。おじょうさん」
利一は目一杯煽っていく。
少女はアテが外れたという表情だ。また、回りから声が漏れる。
「あの男マジかよ。領主の娘になんて口のきき方だ……頭のネジが飛んでやがる」
回りがざわついている。
だが利一の煽り耐性の無さは筋金入りである。逃げる訳がなかった。
「後悔するのはどちらかしらねえ。私は父上から英才教育を受けているの。この店は本当にだらしない方ばかりね」
なめられて当然だろう。なにしろ利一は中身は最強の雀士だが、見た目は貧乏な町人。その見た目から、強さを推し量るなど通常は無理だ。
「関係ねえ。で、何を賭ける? 生憎と金はそう持ってねえ」
利一の言葉に少女はすぐに応答する。
「半荘2回の合計点が多い方の勝ち。貴方が負けたら、そうねえ、奴隷にでもなってもらおうかしら」
少女は可憐な見た目とは裏腹に、厳しいことを言う。
「で? あんたは何を賭けるんだ?」
少女は負ける気がしないのだろう。利一を完全に舐めてかかっている。
「なんでも聞いてあげるわ。あなたが勝てたら、ね」
「では早速始めよう。ルールはアリアリ25000点持ちの30000点返し。それでいいな?」
少女は不敵な笑みを浮かべている。
場決めが終わり、メンバーは利一と少女の他は公平を期すため、店員が入ることとなった。
また。店内にいるほとんどの人間が、戦いの行方を見届けようとギャラリーと化していた。
東一局 北家
(悪くは、ないか……)
利一の初の異世界麻雀注目の配牌は、面子二つに両嵌が一つ。
悪くはない。
初巡打南。
対面の少女は打9s。
暫くは様子見と言った具合だが、六巡目のこと。
下家の店員が先制リーチを打つ。
それを受けて利一は現物を切っていく。
一切の危険牌は打たない。
所謂ベタオリである。
「あらあら、随分気の弱い男ね」
少女は無筋の6mを強打する。
「麻雀は攻めのゲームよ。こんなに牌があるのにそうそう当たらないのよ?」
(――所詮は中世。ネットで麻雀を打てる訳でもなければ統計も取れない。こんな緩い打ち手が、強いとされる世界……控えめに言って天国です)
十巡目
「ツモ! 満貫2000-4000」
少女は暴牌の末に、満貫をツモ和了る。
いや、この世界では暴牌ではなく常識なのであろうな。
東2局、東3局は流局する。
利一 20000点
少女 29000点
その差は9000点である。
そして迎えた利一の親番。
牌を取る手が、牌に触れた瞬間。
「ッ!」
利一は牌が熱を帯びていると思い、手を引っ込める。
(――確かに熱い……)
利一は再度牌に手を触れる。
先ほどの熱はなんだったのだろうか。
そして、配牌を終えて手牌を開ける。
神か悪魔か、利一はそれが乗り移ったかの配牌を手にする。
よくよく考えれば、麻雀は運が七割、腕が三割と揶揄されるゲーム。生前に二十歳にして名人になるには、相応の運が必要となる。
もともと運のある人間に"運気上昇"など、本来は与えてはならぬ力だと気付かされる。
四巡目
「リーチ!」
次巡、利一はツモって当然と言った具合に、牌を強打する。
「ツモ。リー即ヅモ、ダブ東 ホンイツ チャンタ ドラドラ」
「ッ!?」
少女はさながら悪魔を目にした表情である。
利一は裏ドラを静かにめくる。
「裏は、乗らずか。一本足らず、親のトリプルだ」
「さあ、続けようか。おじょうちゃん」




