3局 転生
ふと気が付くと、男は草むらに立っていた。
脇には未舗装の道があり、馬車が往来しており、男はそこが異世界なのだとそれだけで実感した。
男の名前は緑 利一。
正に麻雀をするために生まれてきたかの名前だ。その実は親が麻雀狂で適当に名付けただけなのであるが。
利一は、8歳の頃より雀荘経営の両親より英才教育を受け、すくすくと成長した。
算数ドリルよりも麻雀の点数計算を覚え、漢字のドリルよりも麻雀の役を覚え……と、マトモな家庭環境ではない。
十歳にして雀荘でおじさん相手に打たされる始末。
利一はよくもまあ、両親が警察に逮捕されないものだと感心していた。
「さて、どうしたものかな」
利一は辺りを見渡すと、少し先には街が見えた。
「歩くか……」
暫く歩くと、街の入り口に到着した。
人が多く、さながら商店街のような風景であった。
「とりあえず麻雀を広めないと俺に生きる道はない」
利一は、街を散策する。
「珍しい格好をしたお兄さん。うちの肉はどうです?」
利一は言葉が通じることに、違和感を覚えたようだ。
神はしっかりと言語概念は日本語にしてやると言っていたはずだが……
「あんのクソジジイ。言葉の説明省きやがったな」
「え?」
利一の呟きに、肉屋の店員は驚いた様子だ。
神に転生させられたなど、誰が信じるものだろうか。
―数時間後―
「どないしろって言うんじゃー!」
利一は街の外れで叫ぶ。
「ちょっとあの人オカシイんじゃない……」
街の人のヒソヒソ話が利一の耳に入る。
「あぁ!? 見てんじゃねえぞ!」
利一は街外れの石段に座り込む。
街を散策した結果、この世界は王都を中心として領主が自治しているようであった。
麻雀を広めるにも、牌や雀卓を作らねばならない。まずは金だろうと、利一は考えているようだ。
途方もない話である……
「もしもしお兄さん?」
利一が振り返ると、一人の女性が立っている。
「あのう、お困りごとですか?」
「ええ、まあ。お金はないけど、とあるものを作りたくて旅をしてるんです」
女性は何かを考えるている様子だ。
そして、少し首を捻った後に口を開いた。
「お金がないのならうちに住み込みで働きませんか? 宿屋なんですけど」
利一は願ってもない提案だと考えたようだ。
こうして異世界フリーターが誕生したのである。
「そう、ですね。一度この街に留まるのも悪くない気がします」
女性は利一に付いてくるように促した。
先ほどの、商店が建ち並ぶ一角を抜けると宿屋街と思われる場所へ到着した。
女性が案内するその宿屋は、他の宿屋より規模が大きい。
利一は人手が足りていないことを察している様子。
ここでバイトをして、麻雀牌と雀卓の開発費を稼ごうと。
衣食住の保証はあり、行く宛のない利一には有り難い限りである。
そうして翌日から、利一の野望の第一歩が始まることとなった。