表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/20

5局 対局前夜

 

 領内選抜戦まで後一日となった、前日の夜のこと。

 毎日麻雀の対局に励み、利一達は準備万端といったとこだろうか。


 夕食後は各々が自由な時間を過ごし、明日の対局に備えている。

 そんなひとときの緩んだ時間に利一は、庭園の一角で椅子に座り物思いに耽っている。


(明日勝たないと全てがオジャン…… か。)


 こんなとき、喫煙者ならサマになるというか、絵になる風景だが、一見ぼうっとしているようにしか見えない。



「利一、こんなところで何をしてるの?」


 何者かが利一の背後から忍び寄り、利一の両目を塞いだ。


「亜紀か。ちょっと考え事をな」


 一瞬で正体を見破られた亜紀は、目隠しを解いて利一の横へ座った。


「明日のことかしら?」


 利一はその質問に対し、頷くにとどまった。


「神様を見返したいんだったかしら。貴方はよくやったと思うわよ? 異世界に麻雀を広めるなんて……」


 亜紀は城壁から覗く、かろうじて沈まぬ夕焼けを見ながら囁いた。


「本当にきつかったんだぜ? 八年もかかっちまったがな」


 利一は同じ光景を見つめながら、苦笑した。


「そう言えばまだ言ってなかったわ。二つの世界では時間の流れが違うのね。私は今19歳で貴方とは2歳違いの筈なのに」


 亜紀は夕焼けから目線を外し、利一に目をやる。


「そっか。日本にいたら若手どうし対局の機会とかも、あったかもな。随分とおっさんになっちまったわ」


 数秒の沈黙が二人の場を包む。


「私にとっての貴方は光。八年経っても貴方は私が憧れた緑利一プロ…… 変わらないわ」


 亜紀は立ち上がり、利一の頭を軽く撫でる。


「私は貴方を裏切らないし、例え神が相手だろうが、成り上がれなかろうが、貴方の味方であり続けるわ。だから……」


 亜紀は、紡いだ言の葉の余韻が消えぬうちに立ち上がり、三歩ほど夕焼けに向かってゆっくり歩き静止した。


 太陽はほぼ沈み、混じり合う赤と黒がコントラストが、亜紀の言葉のシリアスさを助長している。


 もしカメラがあれば、最高の一枚が撮れることは間違いない。



「だから、明日は頑張りましょ」


 亜紀は話すと同時に振り向き、いつもの茶化すような笑顔ではない視線を利一に向けた。


「期待してるぜ。女流プロの五十嵐亜紀さん」


 二人の目線が交錯し、多くは語るまでもないといった様子である。


「戻るか」


 利一のその言葉に、亜紀は頷き庭園を後にする。

 夕日は沈み、城内には松明の火が灯り始め、二人の雰囲気から、まるで空気を読むようなタイミングだ。



 利一は城内に戻り、自室へ戻った。

 特にやることはなさそうで、いつも通りの日課である自らの著作書籍を手書きで執筆していく。


 PCのようなモノなど存在しないので、全てがアナログ作業であり、過去の偉人が書いた大作本には、敬意を払おうという気になってしまうだろう。


 執筆中の書物のタイトルは『リーチの有効性』著者:緑利一


 ギャグだろうか。


 そして、執筆作業を始めて三十分ほど経った頃、利一の部屋のドアを叩く音がした。


「どうぞ!」


 利一は執筆作業を継続しながらも、ノックに対して返答した。

 ドアを開け、姿を現したのはセシルであった。


「なに、また本書いてるの?」


「ああ、お前みたいな下手クソに読んでもらう為にな」


 隙あらばセシル煽り。お約束となったこのやり取りも見慣れたものだ。


「今日亜紀と何を話してたの? バルコニーから二人が見えたから……」


 利一はペンを置き、セシルを見つめた。


「まあ、ちょっと昔の話をな」


 利一は取り立てては表情を変えず、セシルへ回答した。


「この選抜戦が終わったら私にも聞かせてよね!」


「あぁ? 前に言った通り、頂点(てっぺん)取ったら色々話してやる。あとなんだ俺に気でもあるのか?」


 利一はニヤニヤしながらセシルを煽る。


「べ、べつにアンタのことなんて興味ないだから! ただ領主の娘として、利一のことを知っておいた方が良いと思っただけ! 勘違いしないでよね」


 分かりやすい女である。


 そして、利一はそれを聞いて吹き出した。


「いや、やっぱお前見てると安心するわ。その調子なら明日は大丈夫だな」


 セシルは腕を組み、にこやかな微笑は上手い具合に、普段の気品や姫らしい振る舞いを緩和している。


 まがりなりにもセシルは姫であり、日頃の振る舞いは相応の品位を要求されるわけである。


 しかしながら、利一達といる間は、麻雀好きの可憐な美少女としていられること、それはセシルにとって居心地の良いものなのだろう。


「なんにせよ、私はアストラル代表の地位を譲るつもりも無ければ、利一と一番になりたい!」


 セシルの真っ直ぐな眼差しが、利一に向けられた。


「……ああ、そうだな。それにお前に会えたことは俺にとって本当の幸運だったのかもな」


 利一は心中で過去を回想した。


 この楽しい居場所を得られたこと。頂点への具体的な道筋を描けること。豊かな生活を送れること……


 全てはセシルが利一を見込んだことがきっかけであり、また互いの信頼関係も非常に厚い。


 セシルを大将に抜擢したことも、信頼の裏返しであり利一の期待でもある。


 期待とは一見して無責任ではあるが、相互信頼があってこそ成り立つものだ。



「何よ気持ち悪いわね。利一が私を誉めるなんて」


 セシルは笑いながら利一に問いかけた。


「ありがとな。明日、勝とうぜ」


 その言葉にセシルは、即座に頷いた。


「じゃあ私は部屋に戻るわ。フィーリアも待ってるし」


「おう。フィーリアにも頑張ろうなって伝えといてくれ」


「じゃあまた明日ね利一」


 セシルは手を振りながら部屋を出ていき、利一の部屋は、先ほどまでの静寂に戻った。


(リーゼは大丈夫だろうか…… アイツ最近空回りしてるからな)


 そんな静寂の中で、利一はふとリーゼの心配をしていた。自信が無いなりに実力をつけ、確実に強くはなっているものの、他の面子の才覚に比しては、明らかに見劣りすることは否めない。


 リーゼは皆の足を引っ張りたくないと、日頃から口にはしているがそれもまた心配であった。


 領内代表選抜戦は、明日の13時に対局が開始となる。


 それぞれの想いが交錯するその対局の結果は如何に……



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ