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4局 領内選抜戦に向けて……

 

 雀荘での五十嵐 亜紀との邂逅より、一夜明けた朝。


 宮廷雀士団選抜戦の前哨戦にあたる、領内の代表選抜戦まで残り八日と差し迫っていた。


 やっとのことで、団体戦の五人目の面子を確保した利一達ではあるが、まだスタートラインに立ったにすぎず、謂わば対局前の場決めが完了したという程度であり、何かを成したという訳ではない。




「……」


 利一はうつらうつら、現実と夢の境をさ迷って微睡んでいる。


(あったけえ、布団の中はいいナァ)


 昨夜も領主に付き合わされ、丑三つ時を過ぎた頃にやっと解放された利一は、疲労困憊である。


 布団とお友達になるのも無理はない。


(?)


 ガバッ!


 利一は驚きのあまり、友達である布団をいとも簡単に裏切り、投げ飛ばした。


「てめえ早速ナニやってんだ!」


 布団を捲ったその中には、亜紀の姿が……


「あらおはよう利一。私たちの初夜…… ああ、まだ疼きが」


「出てけっ!」


 利一は乱暴に亜紀を部屋から追い出した。


 部屋の外からは、なおいかがわしい声が聞こえるが、利一は徹底的に無視している。




 利一の部屋は、城内の一室を与えられており、それはもう立派なものである。


 二十畳を優に越えそうな間取りには、中央に麻雀卓が置いてあり、本棚には利一が記した書物や、牌譜などがズラリと並ぶ。


 それと対比し、利一に似合わぬ絵画を始めとした、工芸品が壁を彩っている。


 ベッドは何故かダブルベッド。


 領主は利一に何を期待しているのだろうか……


 利一には贅沢すぎるもてなしであるが、領主に認められたからこそである。


 今や領主からも高い信頼を得ており、生粋の雀士通し毎夜のように麻雀を打ち、お酒を飲みながら語り合い、風呂にも一緒に入るという雀トモ振り。


 臣下たちのプライドもズタズタである。



 また、リーゼについては、セシルのお墨付きで居室が与えられており、城内を自由に闊歩できる。


 亜紀については行く宛もなく、仕方がないところもあり、昨日からリーゼの部屋に入る形となった。


 フィーリアは、セシルと同室であり、その扱いについては、もはや姫の妹といった扱いであった。


 城内でも天真爛漫で、人懐っこいフィーリアは人気で、使用人達からも非常に気に入られていた。



「おにいちゃん!」


 部屋の外からは、壁越しでもはっきりと分かるようなフィーリアの声が聞こえる。


「おはようフィーリア」


 利一は部屋のドアを開ける。


 フィーリアは、朝からいつもの笑顔で利一に癒しをもたらした。


(俺が求めているのはコレだよ、コ↑レ↓)


『メンヘラよりも幼女。当たり前だよなぁ』と言わんばかりである。



 利一はフィーリアを連れ、食堂へ向かう。

 食堂とはいっても、学校のような食堂ではなく、さながらパーティー会場といった具合の大食堂である。



「おはよう利一さん」


 食堂にはリーゼが先着済であった。


 麻雀の教本を片手に、トーストを噛る様はこれ如何にというものであろう。


 リーゼの学習意欲は、セシルにも比毛をとらず、麻雀の腕については利一の理を貪欲に吸収している。


 フィーリアは天才につき、問題はない。




「おはようリーゼ、朝から勉強熱心だな」


 利一の問いかけに唸りながらも返答する。


「えぇ、皆さんの足を引っ張れませんからね。利一さん、この局面ってどうしたらいいでしょうか」


 利一が作成した、実戦牌譜からその場面をどう考え、何の根拠以てその牌を切るのかを問いかけた問題である。


 リーゼのその本には、付箋であったり、メモ書きが至るところに存在し、くたびれた本からは相当の読み込みを窺うことができる。


「あぁ、それならp5切り出しだな。牌効率は出来て当然だが、状況判断からの押し引きだ。打点とリスクを考えてそこは引け。オリだよ」


 利一は一瞬にして、迷いなく答えた。


 もう一度補足するが、この世界は麻雀の歴史としては8年であり、研究が進んではいない。


 面前手役が主流であり、役が無い限りはリーチはあまり打たれない。役牌一鳴きや喰いタンでの早和了など、鼻で笑われる打ち筋なのである。


 それは当然だろう。


 日本のようにインターネットも無ければ、書籍すら高額で一般人が読める代物ではないのだから。


 その地の領主が、この打ち方と言えば、その打ち方が"正"となるのである。一度広まれば、それを覆すことは容易ではないことは、想像に容易い。



「おはよう利一。早いわね」

「利一…… 昨日は凄かったわよ」


 セシルと亜紀も食堂へ姿を現した。


「あ、アンタ早速ヤったわね?!」


 セシルは亜紀に対し怒りを露にしているが、利一が割り込む。


「なにもやってねえから! ヤってもねえよ!」


 利一の必死な弁明である。



「あぁん。利一の意地悪さん」


 亜紀の利一に対する言葉には、語尾にハートの記号がつくような口調だ。



 そうして、いつもの光景に変態メンヘラ女が加わり、更に喧しい集団となったのであった。



 ―夕方―


 利一以外の四人で卓を囲んでおり、領内選抜戦に向け、麻雀に勤しんでいる。


 今までの傾向を見ると、安定しているのはフィーリアである。

 闘牌場での平均順位:2.18、和了率は27%と驚異的な数値を誇っていた。


 セシルについては、打ち筋に甘い所は多々あるものの、安定感が増している。また当初から持ち合わせている、大胆さと教え込んだ理が上手い具合に融合していた。


 リーゼはフィーリアとセシルを足して、2で割ったといった様だ。

 後は、迷いを捨てて、自分の打ち筋に自信を持てれば良い打ち手になることであろう。



 そこに亜紀が加わったことで、どの様な影響が出るのか楽しみなものであった。



 さて、領内選抜戦及び宮廷雀士団選抜戦は5対5の団体戦である。

 先鋒~大将までで、10万点を配給原点とし、大将戦終了時の点棒が一番多いチームの勝ちである。


 そのルールは利一の元居た世界の、美少女麻雀アニメにそっくりであるが、別物だ。


 もう一度言う。別物だ。


 アストラルでは、代表候補は4団体有り、利一率いるチームか臣下アルルのチームが最有力候補と見られている。



「じゃあ、メンバー発表すっから」


 闘牌場の脇にある、タバコの煙が届かない城内のカフェで、本日の反省会が行われていた。


 そこで利一は、当日のメンバーを発表するようだ。


「先鋒、亜紀」


(亜紀ならば、無難にやってくれるだろうし適役だ)


 亜紀はニコっと笑う。


「次峰はリーゼ。大丈夫だ。お前がしくっても後はなんとかしてやる」


 リーゼには妥当だろう。プレッシャーに潰されない最適な位置である。


「中堅はフィーリア、だな」


 フィーリアは手を挙げて返事をする。


「ハイなのです! フィーリア頑張ります!」


 利一はフィーリアを撫でてやる。

 フィーリアは嬉しそうに喉を鳴らすが、その様子を直視している亜紀は、ハアハアと息を荒くしながら利一を見つめているが…… 利一は完全に無視している。



「んで、副将は俺だ」


 その言葉に一同は驚きを隠せない。


「ちょ、ちょっと、大将は一番強い利一でしょ!」


 セシルが真っ先に反応した。それに対して、利一が間髪いれずに答える。


「いいや、お前だ。オカルト的発想だが、お前は精神的にノっている方が強い! 仲間が繋いだモノをお前が決めろ」


「利一……」


 セシルはぼそっと呟くに留まり、反論といった類いの言葉は出てこない。


 利一からの期待や信頼を感じたのだろうか、利一の言葉に意を唱える隙などなかった。


「じゃあ、発表は以上! 自分の役割を考えて打て。口酸っぱく言うが状況判断だ。感情だとかなんとなくといった、"理"の無い打ち方は絶対にするな」


 利一が珍しくも立派な人間に見えるものである。



(神のクソジジイ見てやがれ…… 成り上がっていつか絶対ぶん殴ってやる)



 利一は自分の存在意義や行動理由に思いを巡らせ、決意を新たに対局に臨む。



 領内選抜戦まであと少し……


 利一は成り上がりにおける、真となるスタート地点に立ったのであった。




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