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3局 メンヘラ雀士、異世界に立つ

 

 フィーリアの和了で弛緩した場は、緊張感を取り戻し、局は進んでいく。


 東3局 雀荘店員の親番。


 ここでは利一が仕掛ける。


 7巡目

 m1234555p567788 ツモp9


 m1,3,4,6待ちのテンパイ。


「リーチ」


 利一は何のためらいもなく打p8。


 しかし利一がリーチ棒を供託するかしないかのタイミング。


「ロンよ。1000点」


 間の悪いことに謎の女に放銃。

 だが、淡々と点棒を渡す利一に動揺といったものは見受けられず、至って冷静である。



 そして、対局は進み大きな動きがないまま南4局のオーラス、利一の親番へ……


 フィーリア:32700点

 謎の女:27900点

 雀荘店員:14700点

 利一:24700点


 場況は、利一が満貫もしくは、ツモなら40符3翻以上を和了れば文句なくトップ。2000オールのツモでは、フィーリアと同着にはなるが、起家がフィーリアなので、差しきらない。


 非常に厳しい状況に追い込まれていた。


 利一はサイコロを振る。


 そして、配牌……


(神に祈るのは滅茶苦茶に癪だが、あの感覚…… 頼む!)


 が、ダメ。利一の祈り通じず。


 信心の足らない者には、そう簡単に神は微笑まぬということだろうか。


 m33569p58s68東西白撥中


 和了に賭けなければいけないこの場面、ドラのm3が対子なのは救いだがなにぶん手が重い、そして厳しい……


 そう言わざるを得ない牌姿である。


(せめてあのクソアマよりも上回らなければ……)



 だが、非情な現実が利一に襲いかかる。


「リーチだ。ガハハ。一回くらいはアガらないとなあ」


 4巡目、上家の雀荘店員がリーチ。


 とんでもないお邪魔虫振りである。


 さぞやトップを狙える大物手なのだろう。


 ちなみに嫌味である。


(くっ…… 大人しくしとけクソオヤジがッ!)


 利一がこの対局で焦りを感じている。


 この状況を整理する。


 利一以外が和了→利一の敗北

 利一がテンパイ出来ずに流局→利一の敗北


 謎の女が放銃する可能性もあるが、まず見込めぬ算段。諦め絶望からくる他力本願に他ならない。


 この状況にあっては、危険を顧みず攻めるしかない。


 謎の女はおそらくオリ。それも徹底的にオリるだろう。


 利一は上家のリーチの一発目に生牌(ションパイ)の撥を強打。


 次巡以降、更に打m9、p3と強引に通していく。


 攻めると決めた以上、最短でテンパイへの打牌以外に道はない。


 当たるか、潜り抜けるか……


 さながら剣林弾雨の様相を呈し、死地と隣り合わせの決死の打ち筋でもがく。


 運良く当たらず、13巡目。


 利一が追い付く。


 m333567p678s68西西


 二枚切れのs7待ちと、待ちは悪いが意地のテンパイであった。


「リーチ!」


 発声と同時にリーチ棒を乱暴に投げ込む。


 元プロ雀士と思えぬマナーの悪さである。

  ※点棒は静かに、丁寧に供託しましょう!


 ここで利一は感じていた。


(手が熱くなって来やがった! フッ……)


 オカルトだが、先制リーチを潜ってのテンパイ即リー。


 アニメの世界なら「ご無礼、一発ツモの裏ドラ2つの跳満です」が、定番であり、定石。


 また神託された運気上昇の発動……


 ここしかないといったタイミングだ。



 そして上家がツモるが、どうやら和了ではないようだ。


「ちっ、おかしいなあ、全然アガれねえ!」


 雀荘店員は残念そうにm1を打った。



 利一が微笑を浮かべ、人体には有り得ないであろう熱を帯びた手で、牌山へ手を伸ばす……


(……終わりだよ)








「ポン」


 先ツモとはいかずとも、気が逸る利一の手が止まる。


(――なん……だと……)


 利一はにこやかに、それでいて見下すような女の視線を受け止め、利一は異世界に来て初めて、言い様のない恐怖すら感じる存在に気圧される。


 謎の女の副露により妨害……おそらくはそのm1鳴きは、状況を鑑みると自身の和了の為ではない。


 それは、明確に利一への妨害の意思を孕んでいるだろう。


 いつしか利一の手の熱は、常温に溶けて昇華した。


 次巡、利一のツモはp1。


 岐路…… 最高の瞬間を逸する……


 そして無情、その時は訪れる。


「ツモなのです!」


 なんとフィーリアが七対子をツモ和了。オリながら偶然にもテンパイしたといった所だろうか。


 フィーリアのトップで終局し、利一は3着となった。


 そして、利一が視線を謎の女に移動させると、女は右端の一牌をコツンと倒した。


 ――緑の装飾が6本に、赤が1本…… ソウズの7……


 利一は女を睨み付け、目を離さないが、女は乳房を両手で包むかのように腕を組み、利一と正対する。


 また女は余裕の表情を崩そうとせず、束の間見つめ合う。



「……俺の敗けだ。行くぞフィーリア」


 不意に口を開き、利一はフィーリアの手を取り、その場を去ろうと歩きだした。


 フィーリアは呆気にとられ、利一の手を取り着いていく。


「待ってくださらないかしら」


 利一は、女の声に足を止めるも振り向かないが、女は構わず続ける。


「私に勝ったら全て話すとは言ったけど、話さないなんて一言も言ってないですよ?」


 ようやく利一が振り返った。


「二人で話がしたい」


 利一のその言葉を聞き、フィーリアが不安そうである。


 それに気づいた利一は、先ほどまでの眉間の皺は何処へやら……


「フィーリアはちょっと店の中で待っててくれ。店員さんにこのお金でジュースでも貰っておいで。ぜーったい迎えにくるから」


 女は僅かに頷き、構わない旨を利一に伝達する。


「ぜーったいだからね! お兄ちゃん!」



 利一は手を振りフィーリアを送り出した。


 そして即座に口を開いたのは利一だった。


「お前が日本から来たのは理解した。目的はなんだ?」


 女は答を用意していたかのように話し出した。


「あなたが行方不明になって麻雀界は騒然となったわ。そりゃそうよ、『割れ目でカン』の生放送中に、古賀正子さんから大三元を和了った瞬間に消えたのよ?」


(……えぇ。俺大女優に役満ブチ当てて死んだのか……全然覚えてないぞ)


 その対局動画は五千万回再生され、陰謀論や様々な憶測が飛び交い大変な騒ぎになったと、女は語る。


「私は……五十嵐 亜紀(いがらしあき)。貴方のファンだった…… 16歳で麻雀を始め、女流プロになろうと決めたのも貴方への憧れから。麻雀を続ければいつか貴方と会えると信じていた……」



 女は表情を変えず淡々と話を進めていく。


「で、でもなんでお前がこんなところに?」


「さあ? 神に祈りが通じたんじゃないかしら?」


 女はウィンクする。


「それじゃあ何か、お前も間違えて殺されたクチか?」


 女は即答する。


「さあどうかしら。私は貴方のいない世界に興味などないわ。 死のうと思ったときに声が聞こえたの…… "会わせてやろうか?" と」


 女は一呼吸置いて続ける。


「そしたら貴方がこの世界で、間違えて殺された挙げ句に、なにやら下らない企みをしてると聞いて私も来たわ。当然特典は"運気上昇"を選んだわ」


(な、なにコノオンナコワイ)


「で、やっと出会えたの。もうぜーったいに離さない! ここで一つに。貴方の初めて…… もう、待ちきれない……」


「ヤ、ヤメロー! しかも、どどどどど童貞ちゃうわ!」


 利一は精一杯強がった。


「貴方のことなら何でも知ってるわ。もうそれはなぁんでも、ね? ☆♯%のサイズまで…… ほら、緊張しないで? 二人で神話になりましょう」


 亜紀は利一の体に抱き付き、わざとらしく胸を押し当て、利一の耳には女の吐息がかかる。

  ※ここは雀荘です。


「アヒィ」


 利一が童貞と見抜かれ、情けない声をあげたときである。


「コーラァ! りーいーち!」


 凄まじい速さで助走をつけ、利一に飛び蹴りをかます女の姿が。


 さらに、倒れた利一に追い討ちのビンタが二発……


 ダブルリーチ一発ツモ、裏ドラ二つの跳満である。



 蹴りを入れたのはセシルであった。


「あんたって奴は! この麻雀の面子が足らない大事なときに何をやってるのよ! それにこの女は誰よ!?」


 ぜえぜえ息を切らしているのを見ると、城内から猛ダッシュしてきたに違いない。


 どうやらフィーリアが呼びにいったようだ。


 利一は床でノビており、雀荘は騒ぎとなっている。


 セシルは亜紀に対して、睨みを効かせつつ、利一を足蹴にする。


「あんた誰よ!」


 女は明らかに苛立った様子でセシルを口撃する。


「あらあら、まるでテンプレみたいなツンデレ娘なこと。私の利一から離れてくれるかしら?」


 セシルは激昂する。


「だだだだ誰があんたの利一なのよ。利一は私たちの仲間よ!」


 やはりセシルは感情的になるが、亜紀は正反対に冷静そのもの。

 恋路?を邪魔されたことを気に食わない筈が、先ほどの苛立ちは表情から消えている。


 そのタイミングで利一が起き上がった。


「なーにしやがんだクソ女!」


 セシルの首根っこを掴み、セシルがジタバタしている。

 そして利一は、異世界から来たことを秘密にしながら事情を話していく。


 もちろん嘘八百の事情ではあるが……


「お、俺が前に麻雀を教えた奴でよ。偶然出会ったんだよ、なあ? 亜紀」


「違うわ。利一は私の男よ」


 利一は最速を以て亜紀に壁に追い込む。


「いいか? 話をややこしくするな。お前の麻雀の腕は買って面子には入れてやる。だからおとなしくしてくれ?」


 利一のその言葉を聞いて、亜紀は頬を赤らめる。


「あぁん。利一ったら私を壁に追い込んでナニをするつもりかしらぁ?」


(嗚呼、ダメだコイツ。人の話を聞かない系ダァ)


 そこへ、フィーリアとリーゼが息を切らしてやってきた。


「おにいちゃんなんか危なそうだったから、セシルお姉ちゃん読んできたよ?」


「利一さん大丈夫ですか?」


 散らかった雀荘内を見て二人が心配している様子だ。


「あのぅお客様。ちょっとこれ以上は…… ね?」


 当然のことである!



 一行は店から叩き出された。


「それより利一、本気なの? この女を仲間にするって」


 セシルが開口一番、利一を糾弾した。


「あ、あぁ。コイツ麻雀はマジで強えぞ」


 そこへフィーリアも割り込む。


「そう、あきお姉ちゃん? すごい強かったよ。 フィーリアすごい楽しかった!」


 亜紀の顔が少し綻んだ気がした。


「あらフィーリアちゃんいい子ね? 私は血の繋がりなんて気にしないわ。私のことはママって呼んでいいわよ?」


 ブレない女である。


 セシルは相変わらず、お怒りモードだ。


「ま、まあ麻雀が打てるっていうなら仲間に入れてあげてもいいわ! でも城内で変なコトしてみなさい、叩き出してやるわ!」


 亜紀はニコニコしながら頷いた。


(この人絶対なんかする気だわ……)


 利一の危険予知感覚がそう告げている。





 何はともあれ、団体戦の五人目が見つかった。


 はたして、この五人で勝ち抜くことはできるのであろうか……


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