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1局 面子が足りねえじゃねえか

 

 PM2時、本日も晴れ時々曇り。

 卓上は煙草の煙で視界不良。絶好の麻雀日和でございます。


 先日発表された宮廷雀士団の選抜大会のため、日夜雀士達が凌ぎを削っている。


 そんな中で、アストラルでは選抜大会への出場メンバーの選定が、あと残すところ一ヶ月と迫るなか、利一達は重大な問題を抱えていたのでした。



「五人目どうすんの~!?」


 利一は絶叫した。


 そうなのだ。選抜戦は団体戦である。利一、セシル、リーゼ、フィーリアの四人しか面子がいない時点で参加資格を満たしていない。


 では、アストラルのメンバーで他に腕の立つ打ち手となると、領主以外なら、利一とは犬猿の仲であるアルルだろうか。

 ちなみに領主と初めて出会った際に、利一と揉めたあの臣下である。


 正に危機的な状況であることは間違いない。


 利一としても面子については妥協したくないとの考えから、アストラルの臣下を引き込もうとはしなかった。


 だが、セシルは妥協を勧める。


「そんなこと言ったって仕方ないじゃない。アルルに頭を下げなさいよ」


 利一は嵌チャン即リーの如く即答する。


「それだけは断じて否。断る!」


 曲げられないのだ。


 牌はすぐにクルクル曲げてリーチを打つ癖に、自分の考えは曲げない頑固者である。


「かといって要求水準を下げないと出られないわよ?」


 利一は俯く。


「ちょっと考えさせてくれ……」


 (フィーリアは秘密兵器の天才だ。問題はない。セシルは地獄の特訓もあって上手くなってきている。リーゼも飲み込みと情熱はある、あと一歩なんだ……)


 考えが纏まらないまま、時だけが無為に過ぎていく。




 ―10日後―


「りーいーち! いい加減にしなさいよ。もうほとんどの人が領内の団体戦メンバーを固めてるのよ! 後は初心者しかいないじゃないの」


 セシルの怒号が響き渡る。


「なんだ、良い声出るじゃん。オメーの発声、無駄に上品ぶって聞き取り辛いから対局中そのスタンスでいけよ」


 利一はそれに対して、皮肉で返してケラケラ笑っている。


「お兄ちゃん、お姉ちゃん喧嘩はダメですよ。もぅ」


 それを見たフィーリアは仲裁に入った。だが、リーゼに至っては私は関知しませんとばかりに、牌効率の勉強をしている。


「ったく、どっかの姫様がうるせーから街でもぶらついてくるわ。行こうぜフィーリア」


 無邪気なフィーリアは、街と聞いて途端に目を輝かせ、プンスカ怒り心頭のセシルを横目に、二人は街に繰り出すのであった。



 アストラルは言うまでもなく大都市であり、商業も盛んであるが故に何をするにしても困らない。


「フィーリアはどこか行きたいところ、あるか?」


 フィーリアは猫のように喉をゴロゴロ鳴らしながら、街の全てをインプットするかの如く、右往左往している。


 商店が立ち並び、呼び込みの声がこだまする。飲食店には人が溢れ、女性がランチを楽しむ。そして、真っ昼間だというのに雀荘は満席である。


 その光景全てが新鮮なのだろう。


 その時、フィーリアの視線が一点を見つめ停止する。見たところは雑貨屋のようだ。


「なんだ、あの店に行きたいのか?」


 フィーリアを目一杯に、首を縦にブンブン振る。


 (これ、前の世界なら通報モンだよなぁ多分……)


 店内は雑貨屋というだけあって、値段は控えめだが、家具から食器、アクセサリーなど様々なモノが販売されている。


 貧乏人の利一が、幼女相手にギリギリ格好をつけられる程度の店と考えて、全く差し支えないだろう。


 店内をぐるぐる回るフィーリアを見て、それを見る利一の目は、対局中のそれとは全く別の優しい表情を見せる。


 フィーリアは髪飾りを二つ、利一の元へ持ってきた。


「どっちが似合うかなぁ?」


 (か、か、かわえ~)


 利一は悶絶する。


「コホン、そ、そうだな、こっちのちょうちょさんのが可愛いゾ」



 ヒソヒソ

「ちょうちょさんだって」

「あれ、誘拐なんじゃないの?」

「いい年したおっさんが……」


 当然である。


 利一は会計を済ませ、フィーリアへ蝶の髪飾りを着けてやった。


「ありがとうお兄ちゃん。大事にする! まあじゃんの時もずっと着けてる」


 フィーリアが今までで最高の表情をした瞬間であった。


「良かったなフィーリア。にいちゃん嬉しいわ」


「うん、本当にあり……」


 フィーリアが再度お礼を言いかけようとした瞬間、フィーリアは通り沿いの裏路地へ目を向けた。


「誰かがずっとこっち見てるよ?」


 フィーリアの記憶力や認識能力は半端ではない。目に写る風景の中から、違和感を覚えたのだろう。


「フィーリア。店の中に戻ってちょっと待ってろ」


 利一はすかさず裏路地に向けて駆け出した。


(小さいな……子どもか? それとも女?)


 利一と正体不明の者もの距離はみるみる内に詰まっていった。

 追いついた瞬間、利一はその者を掴み壁に押し付ける。


「オメー何モンだ!?」


 利一は声を荒げた。


「もう……見つかっちゃった」


 (やはり女か?)


 その女は頭に被っていたマントを地面に投げ捨てた。

 容姿は二十歳前後だろうか。茶髪の長い髪、整えられた前髪からから覗く顔は非常に整っており、冷たい目線が利一を見つめる。


「で、なんの用だよ」


 女は即座に答える。


「やあっと見つけたわ。緑 り、い、ちさん?」


 利一はさっと女から距離を取った。全く以て目的も正体もわからない女からは、不気味さしか感じないのだろうか。


「おれの名をどこで……」


 女はニコッと笑った。


「よーく知ってるわよ。むかーしから、ね♪」


 (え、なに? ストーカー? マジで怖いんですけどコイツ)


 女は追撃する。利一に近付きそうっと腕を背中に回し、首筋をサラッと撫で上げる。


「ヒィ! ゆ、許してください、な、なんでもしますからぁ」


 この男、28歳にして童貞である。魔法使い寸前の男が女に迫られればこうも簡単に堕ちるのである。


 女は利一の耳元で囁いた。




「やっと見つけた。緑利一名人……」



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