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13局 炸裂!W役満

 

「ではこれにて対局を始めます。僭越ながら立ち会い人は私、ミラーダ・グラムが務めます」


 一週間の特訓も終わり、ついに対局の日となった。

 場所は公平性を期すとのことから、街の雀荘を借りきっての対局となる。


 アストラル家は時間の無さから、道中に立ち寄るグラムの領主を立ち会い人として連れてきたようだ。


 また、本日の騒ぎを聞きつけた者が、ギャラリーとして押し寄せていた。


「フォルストさんよ。自分の娘が賭かってるというのに代打ちかよ」


 勿論だが、リーゼの両親も観戦に訪れている。領主はリーゼの姉を見て舌舐めずりをした。


 (下衆野郎が)


 領主の『ファン・パラ』はおよそ貴族や領主といった風貌ではない。強いて言えば、浪人と形容した方が適切だと思われる。


 その下劣な振る舞いたるや、アストラル家領主も不快な表情を隠せない様子だ。


「つまらねえな。アストラル家が相手と聞いたが貧相な男と糞餓鬼の女とはな……」


 利一は挑発に対しては、無言を貫いた。リーゼの様子は明らかな動揺と不安が入り交じる表情だ。


「リーゼ、自分を信じろ」


 その言葉にも表情は虚ろであった。


 (リーゼ、完全に呑まれてやがるな……)


 打ち手の緊張感とギャラリーの高揚感のアンマッチさが、場の雰囲気のカオスを演出している。


「では、東一局。パラ殿の親番で対局を開始してください」


 東家 ファン・パラ

 南家 リーゼ

 西家 利一

 北家 パラの配下


 東一局、利一の注目の配牌は……


 m1558s267p122東北白


 (ゴミ手……リーゼのアシストに回るか字牌の重なり次第でってとこだな)


 だが、肝心のリーゼも3シャンテン。幸先が良いとはお世辞にも言えないだろう。


 特に動きはなく各家不要牌の整理が続く。


 ―12巡目―


「ツモ!」


 パラのツモ和了。すかさず手牌を倒す。

 手牌を見た利一は目が飛び出すかの如く衝撃と同時に絶句した。


 m345345345s555m6 ツモm6


 ―四暗刻親のダブル役満じゃねえか……しかもなんだこの理牌は……ツいてねえ。


 東一局から親の役満が炸裂する。利一が32000点を支払おうとした刹那、パラの一言に手が止まった。


「うむ、ツモタンヤオイーペーコーかな。2000オールだ。ガハハどうだ見たか!」


 (うーむ、アレだ。これネットで見たことあるぞ。アスキーアートの……)


挿絵(By みてみん)


 利一の頭の中で氷解す。同時にこの一週間の特訓の時間と気苦労を考えると、心中お察し致しますというものである。


 補足すると、麻雀の点数計算においては最大点数になるよう申告する。先ほどの和了は確かに親の四暗刻単騎で96000点である。

 しかし当の本人がタンヤオであると言い切り、誰も異を唱えずに支払いを完了し、場が流れてしまえば、先ほどの手はタンヤオなのである。


 そして案ずることもなく、利一たちの勝利で対局が終了したことは言うまでもない。



 ―対局後―


 立ち会いに来ていたアストラル家領主が利一に話しかける。


「リーチ殿。初戦からアストラルを背負っての対局、よくやってくれた」


「はあ、さすがにあれには負けませんよ。チョンボとかもありましたし。ただあのダブル役満が決まってれば多分負けてましたよ」


 東一局の衝撃の和了に始まり、その後も少牌やフリテン状態でロン和了など滅茶苦茶であった。


 もはや苦笑う気も起きないお粗末さである。おそらくは利一とリーゼの雀力を過小評価していたのだろうか。


 ただ、ある意味では今後のことはわからないが、利一を一番追い詰めた男となるかもしれない。


 そして、対局前の約束事が粛々と履行されていく。

 リーゼの姉を諦めることや、領主パラからフォルスト家への金銭の支払いが行われている。


 場末の雀荘などであれば、パラ家の力でなんとかなるだろうが、立ち会い人の居る公式対局となれば話は別である。


 暴力を背景に迫るようなことがあれば、王都より即座に爵位や領地剥奪の知らせが飛んでくるであろう。

 それだけ対局結果での取り決めは重要視されるのだ。


「利一さん。本当にありがとうございました!」


 領主が利一の前から去ってすぐ、フォルスト家全員で利一に駆け寄る。


「あ、いえ。リーゼが頑張ったからですから」


 (いやいや、お前だけでも多分勝ってたからね)


 社交辞令と相反して利一の脳内は鼻クソをほじるくらいにどうでも良さそうだ。


「それで、パラ領主から受け取った金額の半分は利一さんにと思っています」


 (50万セルキター!!)


 利一の脳内に電流走る。


「いえ、これはリーゼの頑張りですからお金なんて貰えませんよ。フォルスト家で使ってください」


 利一はここぞとばかりに謙虚さをアピール。本来のズル賢く、イキりで守銭奴の利一を知る者には見え見えの芝居をうつ。


 後ろで見ていたセシルは、利一の思惑を察してドン引きしている。


「なんと慈悲深い……よし利一さんの良心に免じて旨いものでもパーッと食べにいくか!」

「そうね、あなた!」

「パパ太っ腹~!」


 フォルスト家はそそくさと去って行った。


 (そ、そんなことが……)


「あんた馬鹿でしょ。素直に受けとれば良いものを」


 セシルが嘲笑しつつ、愕然と立ち尽くす利一の肩を叩く。リーゼもすかさずフォローを入れた。


「ま、まあうちの家族はあんな感じですから」


「いやいやいやいやいや、あの流れなら普通は渡すよな!?  な!?  いやだってさぁ……  お金欲しかったんだもん」


 利一は息継ぎをしてさらにまくし立てる。


「よし今からでも土下座して貰いに行こう。謙虚なフリをすれば60万でも70万でも貰えると思ってました。10万でも良いです。本当はお金欲しかったですってな!」


 セシルとリーゼは物を言わずとも「うわぁ……」と言いたげな表情だ。


 セシルとリーゼが宥めるもなかなか収まらないが、フィーリアの一言によって流れが変わる。


「りぃちにいちゃん。怒らないで。怒る悪い人には、メッ! デス」


 (か、可愛い。可愛いは正義なんだ。なんということだ。俺は大事なモノを見失っていたのか……)


 利一の思考、貰える筈のお金を逸失した哀しみとフィーリアの可愛さでエラー。崩壊する。一種の思考停止である。


「そうだな。可愛さはプライスレス。お金なんてフィーリアがいれば不要さ。ハハッ、フハハハハ」


「利一が壊れたわよ!」

「利一さん大丈夫ですか?」

「利一にいちゃん変なの~」


 かくして、利一の公式戦初戦は無事?勝利で終わったのである。





久しぶりの投稿です。家庭環境の激変に筆を置いてましたが近々完全復活して執筆中のものは完結させて一段落させる予定です。

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