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11局 新たな仲間?

 

 馬車はパラの街へ到着した。


 パラは王都より、南方都市アストラルへ向かう際に立ち寄る二つの街の一つである。


 グラムは主に宿屋が多かったが、パラは商業も非常に栄えた街だ。


 街は風情漂う住宅街、宿屋街、商業スペースと効率よく分離されている。


「さて、今日はどうしたものか」


 利一たち一行はぶらぶらと街を歩き、目についた雀荘へ行くことにした。


 今日はセシルとフィーリアはお休みとなり、利一が打つようだ。


「そういえば利一のを見るのはパパとの対局以来ね」


 セシルはそう話す。フィーリアを助けた際の麻雀は、明らかなイカサマで対局の内に入らないということだろう。


 早速利一はフリーの卓へ入る。

 当然だが、利一はお金を賭ける。レートは千点10セル。

 利一はセシルに比してお金がない。生活費くらいは稼がなければ、といった思いはあるのだった。


 セルは円の価値と比較すると、五分の一程度といったイメージである。いわば"テンゴ"といったレートに近いだろう。


 利一の相手は呑んだくれのオヤジ三人。

 卓上には酒の臭いが漂う。


 利一は序盤から速攻をかける。


「チー」

「ポン」

「ロン、3900」


 セシルは利一の手牌から目を離さない。フィーリアはニコニコ応援している。


「興味深いです……」


 セシルとフィーリアの横には、一人の眼鏡をかけた女性が突然に座る。


 容姿は"地味"と一言で形容できる。世が世ならば特定層にはウケそうな見た目ではあった。


 利一もその女性の視線には、気付かない訳はなかった。


 このむさ苦しい雰囲気の中、女性三人が並んで座ると、目立たない方が無理があるもの。


 (悪意は感じないが気になるな……)


 四半荘で四連続トップ。


「ラス半で」


 利一の声が響き、その最後の半荘は二着となった。

 ラス半とはその半荘を最後に、卓を離れるという意思表示のことだ。利一はそんな単語までもきっちり広めていたのである。



 その女性は利一の打ち筋を最後まで眺め続けていた。


「おいアンタ何か用か?」


 女性はしどろもどろになりながら答える。


「あ、いえ、あの初めて見るような打ち方で……雰囲気も今まで見た人の中であの、一番サマになっていたといいますか……」


 確かに利一の手つきや打牌方法、理牌の速さ。どれをとってもあまりに速いし玄人に見える。

 ツモる際には盲牌で牌を特定しているため、牌を捨てるのも異常に速い。


 もうとにかく全ての速さが、この世界の常識では有り得ないレベルなのだ。


「そうか、まあ頑張れ」


 利一はセシルとフィーリアに目配せをして店を出ようとする。


「あ、あの……」


「なんだ」


「あ、いえ」


 利一はその女性から目線を外し、店を出た。


「利一、よかったの? 何か言いたそうだったけど」


 利一は、関係ないことだと言わんばかりに首を横に振った。



「それより飯だ」


「やったぁ」


 フィーリアは微笑みながら喜んでいる。


 (マイエンジェル・フィーリア。おじさんがおいしいご飯を食べさせてやろう)


「もちろん麻雀最強の利一様の奢りなのよね?」


「ん? ああ勿論だとも。お前らに美味しいご飯を食べさせてやろうとな」


 (って、ちぃぃ。嵌められた……何故セシルにも奢らねばならない。コイツ、麻雀の読みはゴミのくせに俺の心理は的確に読んできやがる……)


「利一兄ちゃん、あの店すごく美味しそう!」


「え、あ……」


 するとセシルはフィーリアの手を引き、店に向けて歩き出す。

 少し振り返り、利一の日頃の煽りに対する反撃であろうか。会心のドヤ顔を披露した。



 数十分後。


「お会計は4000セルになります」


 利一は目玉が飛び出そうになった。


 たかがランチに4000セル。

 日本の貨幣価値に換算すると約二万円である


 (このクソアマがぁ!)


 利一の握り拳に力が入る。


「お兄ちゃんすごく美味しかったよ!」


 (たはぁ。そんな笑顔を向けないでくれぇ……)



「利一アンタ本当に気持ち悪いわよ」


 セシルの発言と表情に、利一は緩んだ口角を戻して我に帰る。


 そして、大してお金の入っていない財布からは、紳士らしく4000セルを取り出し、会計を済ませた。


 そして店を出ると、先ほどの地味っ子が入り口の脇に立っていた。


「あ、あの」


「なんだ、まだ何か用か?」


 利一の冷たい目線に、眼鏡の女性は目線が右往左往している。


「麻雀を教えてください……」


「断る」


「はぅぅ……」


 利一の即答にダメージを負ったようだ。


 (まあこれで引くだろうな)


 利一がそう思った矢先のこと。まだ食い下がる。


「お願いします! どうしても強くなりたいんです」


「なんだ、ワケアリか?」


 地味っ子は頷いた。


 とりあえず付近の原っぱへ向かい、草むらに腰を下ろした。


「話してみろ」


 名前はリーゼ・フォルスト。

 歳は十八歳で、生まれはこの街であるパラ。

 麻雀歴は六年だが、伸び悩みどうしたら良いかわからない。


 この世界にはネットやマトモな書籍は存在していない。書店へ行くと無駄に高い本に「とにかく鳴くな。打点を重視しろ」と、書いてあるような程度。


 一人で成長していくのは、土台無理な話である。


 日本の現代麻雀は先制リーチ主流のデジタル麻雀である。利一から見れば、手役派が次々に破れていくのは、実に気持ちの良いものだった。


 また、貴族のセシルでさえ利一に教わり始めるまでは、全ツッパ型の無秩序麻雀だ。リーゼの言い分にも一定の理解はできよう。


「伸び悩んでいるからと俺が教える理由にはならないが」


 利一は厳しい言葉を投げた。


「実は一週間後にとある対局を控えています」


 リーゼは真剣な眼差しで続ける。


「領主のファン・パラから姉を賭けての対局を無理矢理に求められております。ただフォルスト家で麻雀を打てるのは私と、辛うじて父が打てる程度……」


 リーゼは素早く息継ぎをして更に話していく。


「姉の美貌に惚れ込んだ領主は負けたら姉を差し出すこと。私たちが勝てば二十万セルを渡すと書状にサインさせました……」


 胸糞の悪い話である。


 話を聞くと、麻雀のルールは二対二の麻雀で、二人のトータル点数が多い陣営の勝ちとなる。


 一見公平に見えるが、大概の領主は城内に卓を用意し、麻雀の打ち手育成に励んでいる。


 町人などの烏合の集に付け入る隙はないだろう。


 だが、そこで出会ったのが利一というわけだ。


 (ここで手を差し伸べればアストラル家とパラ家の争いとなってしまう……他家の内政に干渉するのはさすがにな)


 利一はふと、フィーリアがこちらを見ていることに気づいた。


「お兄ちゃん、助けてあげようよ。私、利一兄ちゃんが助けてくれた時、本当に嬉しかった……」


「お願いします!」


 そのタイミングでリーゼは土下座を敢行した。


 利一はセシルに目をやる。それと同時にセシルが笑顔で口を開く。


「やりましょう利一。アストラル家には私から書状で伝えるわ」


 その言葉を聞いてリーゼが飛び起きた。


「へ? アストラル家?」


「ああ、言い忘れていたな。こいつはセシル・アストラル。俺はこのヘタクソ姫様の麻雀の先生なんだ」


 リーゼは一気に顔面が蒼白となった。


「ままま誠に申し訳ございません。ご無礼を申し上げました」


「いいのよ、顔を上げて」


 セシルの発言に、リーゼはおそるおそる顔を上げた。


「ま、姫様の許しも出たこったし、俺に任せとけや」


 リーゼはその瞬間に涙が零れ、水滴はリーゼの顔を等分に割った。


「ありがとう……ございます……」



 こうして、他家領内における係争に、利一は初めてアストラル家の打ち手として、麻雀で介入する運びとなったのである。






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