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10局 道中

 

 利一たちはグラムを出発し、次の目標である『パラ』へ向かうこととなる。


 グラムの領主に挑戦してやろうと考えていた利一だったが、どうやら領主は麻雀が打てないらしい。


 パラは王都セールとの中間地点に位置しており、馬車で二日ほどの距離にある。度量衡が利一の元居た世界とは違うため、利一は未だに感覚が掴めていない。

 八年も居るのに、それすらわからないとはこれ如何に。


 麻雀はできてもオツムはイマイチ。



「そう言えば利一はなぜ旅をしているのかしら? ちゃんと理由は聞いてなかったわね」


 セシルの疑問はもっともである。


「あ? そりゃ各街のトップ潰して行けば名も上がるだろうしな。ある奴を見返してやりてえんだわ」


 そう、それは順調であった利一から人生を奪った張本人、神以外にはいない。


 利一を浅はかだと笑った神を見返すため、唯一の特技で覇権を握る。それが八年揺らぐことの無かった決意でもある。


「利一より強い人がいるの?」


 (ここにそうなりそうな奴が一人居るんだよなぁ……)


「さあな。ただこの世界ではまだ三局しか打ってねえし、まだ負けたこともねえ」


「私にも勝ったしね」


 セシルは何気なく呟いた。


「ああ? お前に勝っても自慢にならねえんだよ」


「利一兄ちゃんはお姉ちゃんの先生だもんね」


 フィーリアが割り込んだ。

 それまでは、フィーリアは外の景色を眺め続けていた。


 (見たことなかったんだろうな)


 利一はぼんやりと考えた。



 馬車は街道を暫く進むと、馬の休憩からか停車した。


 街道の脇には、緑一色の大草原が広がっている。

 利一は草原に腰を下ろした。セシルとフィーリアが辺りを駆け回っている。


 利一はそれを眺め、日常の尊さを噛み締めた。


 (悪くないもんだな。誰かと過ごすってのも)


 セシルと出会い、フィーリアと出会い。

 利一は、二人とはまだ出会って二日なのに家族のような感覚を覚えていた。


 心中では誰の力も借りず、目標を成し遂げようと思っていたことを撤回している。


 セシルを煽らなければ、今頃はグラムに向けて"孤独"に歩いていただろう。そしてフィーリアに出会わなければ、その暖かさを感じることはなかっただろう。


 もしかすれば今頃チンピラに殺されていたかもしれない。


 アストラル家の後ろ楯がなければ、利一など只の麻雀が強いはぐれ者。暴力の前には無力なのである。



 (八年掛けて、神を見返すのも大事だがもっと大切なモノを見つけてしまったのかもな……)


 フィーリアは花を摘んで利一に駆け寄ってきた。


「ハイ! プレゼント! 利一兄ちゃんにまだ助けてくれたお礼、してなかったから」


 利一はフィーリアの頭を優しく撫でながら花を受け取った。

 普段の牌を強打する手つきからは、想像できないくらいにそうっと髪を掻き分ける。


「フィーリア。ありがとう!」


「お兄ちゃん喜んでくれてよかったね!」


「うん、セシルお姉ちゃんもありがとうね」


 セシルもフィーリアからのプレゼントは受け取ったようだ。


「なんだかこういう感覚、良いわね。お城に居たら味わえなかった……」


 セシルは利一に微笑む。


「そうだな。俺がお前をボコボコにしてやったのを有り難く思うこったな」


 セシルは何時ものように、利一の煽りに沸騰する。

 いい雰囲気が台無しである。



「お客様。出発できますよ」


 馭者が声をかけた。



 三人は再度馬車に乗り込んだ。


 車内ではセシルが問題集を解きながら、利一と答え合わせをする。本の末尾には回答が載っているのだが、人伝に解説する方が理解は早いだろう。


 フィーリアは、まだ教えていなかった副露について学習していた。


 齢十二の少女に麻雀を教える様はシュールと言う他ない。


 また、先日の雀荘での対局の反省会は無しとしたようだ。

 セシルも思ったより成長していたことと、フィーリアには反省する項目が一切見当たらなかったのである。


 そうして、馬車はぐんぐんとパラへ向けて進んで行くのであった。


 夜になると街道脇に逸れて、人目につかない場所で夜営することになる。


 空は星が煌めき、たき火を消しても回りが見えそうだ。

 神の律儀なところは、月をしっかりと残しているところだろうか。


 馭者は既に寝ており、フィーリアもセシルにもたれて寝ていた。

 フィーリアにとっては初の旅路だろう。 外の世界は新鮮そのものに違いない。


 利一はセシルに一言話し掛けた。


「セシル。ありがとな。じゃあおやすみ」


 セシルの顔は見えないが、すぐに応答がある。


「なによ気持ち悪いわね。おやすみ。また明日ね」



 それを聞いてすぐ、利一は切り株にもたれて、あっという間に寝入ることができたのであった。


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