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縁切り屋は大忙し  作者: 篠宮 凜玖
1/1

一、出会い


大きな和風な家の前にたっていた。


「えっと…ここで合ってるのかな…」


今は朝の6時半。

ちょっと張り切りすぎて早く来すぎたみたいだ。


「あのー!すみませーん!!」

インターホンが見当たらずただ呼びかけてみるしかない。


しかし、数分待っても誰も来ない。


私がここに来たのには理由があった。

それは、一昨日のことだ。


路地裏で変な男の人に絡まれている女性を見かけた。


私が来たことで大事には至らなかったが、お礼をしたいから、と家の住所を渡されたのだ。


行くべきなのか、行かないべきなのか悩んだ末、今ここに立っている。




「やっぱり、早く来すぎたのかな…」



仕方がない、引き返すか…。

まぁ、礼を受けに行く、というのもおかしいものだとは思うが…。


すると、大きな扉が音を立てた。



「…遅くなってすみません。お嬢がなかなか起きなくて…」


黒髪の男性が出てきた。


その男性はくせっ毛なのか少しぼさっとした髪で首あたりで小さく結っている。

黒メガネと前髪でよく顔は見えないが、絶対にイケメンの部類に入るはずだ。


「あっ、すみません、こんな朝早くに…」


「いえ、大丈夫です。どうぞ」


お言葉に甘えて1歩門の中に入れば別世界だった。



綺麗にされた庭。

鯉が泳いでいる池。

そして、定期的に聞こえる鹿威しの音。


「うわぁ…っ。凄いですね!」

「お褒めいただき光栄です」

嬉しそうに目を細める男性。


そのまま庭を突っ切り、玄関へと案内される。


「少しお待ちしていただいてもよろしいですか?」

「あ、はい!全然待ちます!」


案内された部屋の隅には金魚鉢が置かれており、縁側と繋がっている。


縁側からは先程見た池や鹿威しが見える。


「こんな家に住めたら幸せだろうなぁ」


すると、何かが倒れると音がした。

隣の部屋なのだろうか。



だ、大丈夫かな…。

誰か倒れたり…。

こんなに伝統がありそうな家だからお婆ちゃんの1人や2人くらい…っ。


心配になり立ち上がる。


「見に行かなくちゃ!」


そう思い、隣室の入口まで行った。


「だ、大丈夫ですか!?」


すると、中には先程の男性と不機嫌そうな女性が床に倒れていた。


「あ…」


「あ…」


沈黙の間にちょうど鹿威しの音が響く。


「し、失礼しました」


これは見てはいけないものだったのかもしれない。うん、きっとそうだ。


私は自分にそう言い聞かせ待つよう言われた部屋で大人しく待つことにした。


十数分後。



「先刻はすみませんでした」


黒髪の男性と頭を下げる女性。


「え、べ、別に平気です!こちらこそなんかすみません…」


すると、頭をあげる女性。


「えっと…貴方は…来てくださったんですね」


ゆっくり微笑む女性。


女性は白シャツにフレアスカートを履いて、赤茶色の髪をふんわりと胸元あたりまで伸ばした小柄な女性だった。


「少しお待ちくださいね」


ゆっくりと立ち上がって小走りに駆けて行く女性。



女性が出ていくと同時に男性がもう一度頭を下げる。


「あの、本当にすみませんでした」


「え、あの!気にしなくて大丈夫です」


「お嬢、朝に弱くて……でも、貴方だと気づいて嬉しそうでした」


そう言って微笑む男性はとても優しそうだった。


「私も、こんな素敵なところに来れて嬉しいです。……ところで、お名前伺ってもいいですか?私は早乙女 聖那、19歳です」


すると、男性もそうですね、と頷いた。


「俺は時雨です。お嬢は…」


「桜坂 奏、22歳です」


扉の前には女性が立っていた。


「お嬢、何持ってきたんですか…?」


時雨さんが顔を顰める。

帰ってきた女性、奏さんの右手には小皿とフォーク、左手には白い箱がかかっている。


「ケーキ、食べませんか?」





「わざわざありがとうございました!あんな美味しいケーキ初めてです…」


「そんな…助けていただいたお礼です」


微笑む奏さんには幼さが残っている。




すると、室内に電話の音が鳴り響いた。


「あ、失礼しますね」


申し訳なさそうに奏さんは、部屋の隅の電話に手をかけた。


「はい、もしもし……。あぁ、わざわざありがとうございます。え、今からですか?えぇっと……」


今から?

もしかしたら私は邪魔になるかもしれない。


「えっと……私そろそろ帰りますね」


そう言って立ち上がると手首を掴まれた。


「えっ」

「突然すみません。お嬢!早乙女さん……高いですよ」


「えっ、本当っ!?」

目を丸くして驚く奏さん。


た、高い…?何が?


内容がわからないまま、私はこの家に残ることになった。






「この間は本当にありがとうございました」

優しそうな老婆が奏さんに何度も頭を下げている。


「貴女たちのおかげで全て吹っ切れたの、これで私も…」


そこまで言って涙を流す老婆。



本当にありがとう、ありがとう_______________。



あぁ、なんだろう。

見ているだけで私も目頭が熱くなる。


「あら、貴女…新入りさん…?」


老婆は私を見つめて首を傾げる。

「あっ、いえ…」

「貴女も色々な人を助けてあげてね」


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