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触る

 オフィス街から一本路地を入ったところに古い一軒家があり、「大野按摩指圧院」という看板がかかっていた。市原瑠美は、もし怪しげなオヤジが一人でやっているようだったら、そのまま帰ろうと、警戒しながらインターフォンを押す。出てきたのは、思いのほか中年の品の良さげな女性だった。その女性は、警戒から安堵へと変えた瑠美の表情を察し、申しわけなさげに言った。

「施術は私じゃないの。息子が一人でやっていまして。私は受付。息子は目は見えませんが、ちゃんとした学校で学んでいますから、上手いと思いますよ」

 案内された小部屋は、施術用の顔穴のあいたベッドが中央に置かれており、チェックのカーテンやフェルトのパッチワークなどの装飾は母親の趣味なのだろう、陽当りの良さも含めて、清潔感があった。人目を引いたのは、壁に打ち付けの棚が2段あり、いろいろな食玩が並べられていた。ベッド下に荷物置き用のカゴがあること、準備が出来たらベッドに俯けになって待っているよう説明して、中年の女性は出て行った。

 ノックの音に反応して留美が上体を起こすと、若い男が入ってきた。二十代だろう、寝癖がはねており、より幼く見せている。枕元まで、手で障害物を確認する所作が、手馴れていた。手のひらで、パッパッと肩のあたりに触れると、そこからは直線的だった。週に一度は通うほどマッサージが好きな瑠美は、驚きをもって体感した。マッサージは技術、強弱、勘の良さ、相性など施術師の腕に左右される。しかし、この盲目の若い男は、そういう差とは根本的に異なる指圧をした。蛇に巻き付かれるかのように、皮膚を素通りして身体のなかに入ってくるかのように、ねっとりと粘着質は指使いだった。自分の身体の凝りが立体的に浮き上がって感じられた。優しくも厳しくもなく、指圧の根源に触れ、それが加療なのか、ただ触れているだけなのか、わからなかった。

 「壁に食玩が並べられているのだけど、それはあなたの趣味なの?」

 「はい。自室に置ききれなくなりまして。母にもう買うなと止められているのですが、妖怪や動物に触れるのが好きなんです」

 盲目の男の指は、ふくらはぎから、足裏まで降りてきた。突然、指が止まる。

 「どうしたの?」

 「すみません。生まれて初めてモノに触れて、美しいと…。そうか、これが美しいということか。ああ、失礼ですね。しかし、これは…これが、美しいなのか…」

オットセイ主人曰く:「りんぱがー、りんぱがー」 ほんとは、触感だけで美しいと感じることができるのかどうかがテーマなのに、これじゃあ、気持ち悪いだけだわ。時期が来たら、もう少し長めにして書き直すはず。

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