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冒険

 ジャック・バイが、近所の悪ガキたちと遊んでいるとき、たまたま母ちゃんがベッドの木枠と敷布団の隙間にお金をしまっているのを見かけたことから、この物語ははじまる。母ちゃんが買い物に出かけた隙に、手を突っ込んでみると、見たことのないほどの現金と預金通帳が出てきた。ちなみに、見たことのないほどというのは、バイ家の二ヶ月分の収入で、毎月の小遣いが硬貨一枚のジャックからすると、紙の紙幣は大金なのだ。これだけのお金があれば、世界中どこでも行ける、そう確信したジャックは、その日の夜、仲間たちとこの村から飛び出し大冒険する空想に、なかなか寝付かれなかった。

 翌朝、いつもつるんでいる仲間に、夢の計画を打ち明けたところ、皮肉屋でいつもは冷静なステファン・リーも「こんなクソみたいな田舎から、さっさとおさらばしようぜ」と前のめりで、デブでビビリのジョー・ワンは、二人のキラキラした瞳に気圧されて、唾をゴクリ、不安と一緒に飲み込んだ。

 冒険には非常食が必要で、普段は買えないブリキ缶に入ったシガレットチョコを一箱、悪党と戦うことになったときのため、取っ手にラメのホロフィルムが施されたパチンコを買った。意気揚々と準備を済ますと、三人は南の外れにあるバス停に向かった。この奥深い峡谷の村からは一日に一本だけ、少し大きな町行きのバスが出ている。

 出発にはまだ早く、乗客はほとんどいなかった。ジャックたち三人はバスの最後部座席を陣取った。長旅になるのだ。安全のため、軍資金の半分は、座席のシートが破れスプリングの飛び出しているところに隠した。出発間近。と、大きなリュックサックを背負った黒髪の男が乗ってきた。一目で村の人間じゃないと分かる。ジャックが声をかけた

「お兄さん、どこ行くの?」

「フィールドワークも一区切りしたからね、一度、国に戻ろうと思ってね」

「へえ。どこから来たの?」

「日本だよ」

ジャックは、興奮して両隣のジョーとステファンを交互に見た。

「おれたち、日本に行ってみるのもいいんじゃないか?、ねえ、お兄さん、日本ってバスで何時間くらいかかる?」

黒髪の男は、少し困った顔をした。

その時だった。

鬼の形相をして奇声を上げた母ちゃんが、バスに駆け込んできた。

こうして、ジャック達の冒険は唐突に、平和裡に終わりを告げた。物語の結末は現実的だが、その過程で彼らの見た夢は、確かな大冒険だった。

オットセイ主人曰く:少年が空想する冒険というのは、物語小説やテレビ映画、そして現実での経験から飛躍したもののはず。蓄積と飛躍。ゼロから何かを生み出すのは、難しい。

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