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東京

 村役場の吾郎が、東京への出張が決まったと話をすると、食卓は沸いた。といっても、鼻息を荒くしたのは妻の佳子と十歳の長男義雄で、小学二年の多江は、兄と母が興奮している姿に喜び、箸で茶碗を叩き祖母に怒られた。その日の食事は、東京土産は何がいいかが議論され、それぞれ自分のほしいものを父に伝えることで結着した。

 吾郎は、東京の通行人の足の速さに驚き、地下鉄乗り換えに戸惑い、人いきれに酔い、用件を済ませると、そうそうに役場で予約してもらった旅館に退避した。東京のグルメを楽しむ余裕もなく、駅の案内所でもらった地下鉄地図で、与えられたお土産任務の予習をした。

 秋葉原駅を降りたら、すぐのところに、「ラジオ会館」というのがある、そこに好きなアニメの人形があるから、それが欲しいと。義雄は、どこで調べたのか。東京はさすが国際都市、外国人が多い。映画や小説の世界に入り込んだ気分になる。「ラジオ会館」は電気屋のことだと思ったが、どうやら違った。アニメの広告が至るところに飾られ、お手伝いさんの服を着た女性がたくさんいる。不思議なところだ。

 ロボットじゃないのか。おい、水着の女の子の人形じゃないか。三十路をすぎた中年が買うには恥ずかしすぎるだろ。胸を丸出しの女性キャラクターの布が吊るされてる、抱き枕カバー?なにこれ?子ども用なのか大人用なのか、わからない。しかし、客層、同じくらいの年齢の男が多いな。


「いやー、これ私のではないんです」

「そうなんですか」

「息子に頼まれましてね」

「大変ですね」

「ラッピングをお願いします」

「別料金いただきますが、よろしいですか?」

「おねがいします」

何故か、若い店員が白々しい笑顔を浮かべている。


 ローカル線最寄りの無人駅まで車で迎えにきた聖子ちゃんカットの佳子からの質問攻めを上の空で返事しながら、車外に広がる青空に、そういえば東京の空がどんな色をしていたか、全く覚えていないことに気がついた。

オットセイ主人曰く:閉じられた空間だからこそ、扉を開けた時の感動が高まる。昭和と平成を入れたかった。

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