腐りかけの果実。
真剣に読まないようにシリーズ第3弾。
下ネタありなので、ご注意を!
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「…………マッチ○はいりませんか~…………」
「…………鏡よ鏡よ鏡さん。世界で一番美しいのはだあれ?」
「ねぇ……。桃太郎さん。吉備団子くださいよ~……」
相棒であるかのように巨熊に跨がる鉞を担いだおかっぱ頭の少年。
長靴を履き、騎士のような着衣を其の身に纏い威風堂々と長剣を携える猫。
類いを問わず、有りとあらゆる菓子を頬張る兄妹。
頻りに乾く頭頂部の皿に、瓢箪に貯められた水を掛けて恍惚に浸る河童。
などなど。
多種多様な者達が犇めく、色鮮やかな広大な街並みが目に映る。
やがて。
街道を歩いていたあまりにも特徴がある三人は運命的な出会いをした。
いや、正確には三人と三匹の獣であったが。
怯むことなくふたたび。
籠を携えたみすぼらしい姿の少女が初めて出会う他の二人に声をかける。
「マ……マッ○ョはいりませんか~……?」
「それはあなた様でございます」
「吉備団子……」
全く噛み合わない会話。
その雰囲気に堪えきれなくなったのか。
煌びやかな戦衣装を着込む、髷を結わう褐色の肌艶の、旗を背負った活発そうな少年が突っ込み役を買って出た。
「え~っと……。どちら様でしょうか?」
差し出された掌は、涙を瞳の端々に浮かべながらも懸命にマ○チョを売り付けようとする少女へと向けられた。
「え……。あ、アタシはアンナと申します。○ッチョはいりませんか?」
それは常に繰り返される。
まったく気にしていない様子であったが。
伺いたてる前に相手に名乗るのが筋合いかと、ようやく気付いた彼は丁寧に申し上げる。
「あ、私はこういう者です」
懐から取りだしたるは、小さな長方形に可愛らしい装飾を施された紙。
其れは所謂、名刺であった。
その名刺のど真ん中には大きく目立つように『桃太郎どえす。キャピ♡』と記されていた。
「はぁ。ありがとうございます。桃太郎さんですね。マッチ○はいりませんか?」
多分、語尾は設定なのだろう。
彼女はマッ○ョを桃太郎とやらにひとつ手渡して、僅かばかりの代金を受けとった。
そして、もうひとりの女性にも声をかけようとして、そのあまりにも光輝く美しい姿に瞼を伏せてしまった。
片手に手鏡を持つ其の女性は忌々しげに短く舌打ちをして唾を吐き、少女アンナに告げる。
「私の名は白雪姫。どうぞ、お見知りおきを……」
スカートの裾をたくし上げ恭しくも、いけしゃあしゃあと偽名を語る継母。
微笑みの端々には殺気すら感じ取られた。
しかし、それでも脅え怯むことなく、少女アンナは営業スマイルで対応するのだ。
「白雪姫さんですね。ご丁寧にありがとうございます。マ○チョはいりませんか?」
「ンま。なんですか。これは……?」
意外にも興味深く食い付く継母。
○ッチョのひとつを手に取り、少女アンナから使用方法を神妙に伺っていた。
だが、突如其れを遮るようにして前に出た猿は、差し出されたマッチ○を奪い歯で噛み締めてから、食べ物ではないことを確認すると遠くへと投げ棄ててしまう。
「ウキィィィィッ!! 吉備団子!! くれよおおおッ!!」
最早形振り構わず。
桃太郎の付き添い役であった猿は苛立ちを撒き散らかし、皆に八つ当たりをし始めた。
ビリビリと引き裂かれるアンナと継母の着衣が目に映り、猿の主である桃太郎は其の露になった異性の肌に戸惑いながらも、制止しようとした。
「エテ子ッ!! 余計な真似すんじゃあないよ!!」
悉くを避けられるも、何十本にも見える腕が、桃太郎の実力を見てとれた。
「ふんふんふんふんふんふんふんふんふんッ!!」
やがて、頑丈そうな縄で捕らえられてしまい、猿はバツが悪そうに黙りこくる。
「ざまぁないね! ケーン!!」
「そうだワン。大体前々から思ってワンだけど……。調子ノリ過ぎなんだワン! いい気味だワン!」
桃太郎に付き従う雉と犬、ならびに猿が喋ることに違和感を感じないのは、既にここが異世界だという証しだろう。
まるで、それが当然とばかりに受け取った半裸の少女アンナは彼等にも愛情を以て、マッ○ョを差し出した。
「マ○チョはいりませんか?」
しかし、返された言葉はこうだった。
「ケーン! きちゃだめー!」
?
どこかで聞いたようなフレーズを発する雉は翼をはためかせ、やがて考えるのをやめた。
次いで、興味をもったのか、自ら犬が近寄ってきた。
「ワンだ? これ?」
犬はそう言うと、すんすんと鼻を鳴らし臭いを嗅ぐ。
そして自分に用がないと分かるや否や、片足をダイナミックに持ち上げて盛大に小便をぶっかけた。
それは最早○ッチョにだけではなく、少女アンナにも。
服どころか、顔にも掛けられてしまった犬の小便が口許に垂れてきたので、アンナは思わずペロリ。
「……糖質多めですね。甘いものは控えてくださいね? マッチ○はいりませんか?」
ゾッとした。
至って冷静に装う少女アンナに。
犬と雉はその場で凍りついたかのように固まる。
その様子にようやく気づいたのか、桃太郎は然り気無く懐から布切れを取りだし、少女についた排泄物を優しく拭き取る。
「すみませんねぇ……。コラッ! キング! おすわり!!」
おすわり、と桃太郎は言った。
なのに、すくっと立ち上がり仰々しい逸物を「どうだい? スゴいだろ?」とばかりに魅せつける犬。
と、そこへ勢いよく駆け付けてきた猿。
エテ子は、何を思ったか徐にその熱り立つ逸物を掴み、こう言い放つのだ。
「バナナ! バナナはいりませんか! 栄養たっぷりな熟したバナナです!」
その勧誘に釣られ集まってきた通行人達は皆それぞれに検分し、熟れた果実ではないことにガッカリしていた。
しかし、何処からともなく現れた白い髭が似合う老人が挙手する。
「買った! いくら、じゃな?」
まさか、マッ○ョではなく、犬の下半身にキリマンジャロのように聳え立つバナナが売れるとは露知らず。
少女アンナは膝から崩れ落ち、ガックリと項垂れる。
「……。マ○チョは……。○ッチョはいりませんかぁぁぁ……」
自然と流れ落ちる大粒の涙と鼻水がそんな彼女を慰めているように見えた。
ずぶずぶと泥沼に沈みゆく少女アンナ。
その様子に、声を掛けてもよいものかと狼狽える桃太郎を余所に。
シンデレラを謳う継母がぽんっと肩に手をかけて勇気づけようとした。
「人生。甘くないわよ?」
─── 暗転。 ───
「…………。 ハッ!? …………」
私は暗闇のなか、びっしりと掻いた汗を拭い、目が覚める。
いったい、今のは……。
渇いた喉を潤すために、台所へと向かい、私は面倒臭そうに冷蔵庫を開けた。
すると、そこには…………。
キンキンに冷えた色褪せたバナナが目に映ってしまい。
私は徐に扉を閉めた。
─── 完 ───
最後までお付き合いありがとうございました。
登場人物。
マッチョ売りの少女A。
シンデレラを謳う継母。
桃太郎どえす (ドSでも可)。
猿。エテ・エテ子。
雉。鈴。
犬。マッター・キング。
通行人達。
特別ゲスト。マニア過ぎる老人。
後悔はしている。
だが、ヤッちまったものはしようがない。
運営さんに消されない事を祈るのみ……。