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正しき親爺

作者: 高木和久


駅前は日曜日だということもあり、歩行者天国になっていた。駅の屋根では鳩が巣を作り、真っ赤に燃える太陽が雑踏の足元を照らす。アスファルトと靴音とのシンパシーから生まれた蒸気が、街頭に流れる流行歌と融合する。

駅の改札を潜っても、耳にこびりついている。プラットフォームに降りた。カップルが憎らしく映る。電車がやって来た。こんなシーンは生まれてから数百万回は観た。

だが《その数百万と、一回目》に天変地異が起こった。


 車内では大声で話す?和服会系?おばちゃんたちが平穏な空気を占領していた。

「ちょっとあんたたちさっきからうるさいよ。携帯電話も迷惑だけど、女の口も迷惑なんだよっ」

故古今亭志ん生をほうふつさせるにらみ眼とスキンヘッド、そしてガマガエル声。彼は長距離の同路線を何度も往来しているという。

「よっ。荷物置くなよ。車内トイレ入れないだろう。ちゃんと閉めるボタン押さないと男の力で開いちゃうだから。お気を付けあそばせ」

右手にはシルバーの折り畳みイス。疲れれば座りながら発言を催す。それが生き甲斐。

彼は終電間近になると帰路につき、アパート一室の電灯を付ける。昔ここの居住者の間で、屋号を『フォンテーヌ田中』に変更するという提案が出されたことがあった。だが彼の一言で完膚なきまでに却下された。せっかくだから、そのときの名文句を教えよう。

「名前変えても部屋んなか変えなければ同じなんだ。犬じゃないんだから」

彼は戦後から?正しいこと?をモットーに生きて来た。築地市場で魚を売り始めたころから、決して闇値では売らない。まさに厳しくも、優しくもある生き方だ。


風の噂はざっとこんなものである。

彼は今日も同じ路線を往復していた。彼に似たミニチュアを作り、携帯ストラップとして売れるかもしれない。今日も彼は路線を往復しながら、正しいことを口から矢のように放つ。社会へインパクトを与えられれば、商品はヒットできる。実のところ、彼はタレント志望なのかもしれない。

彼の去ったあと、車内ではおばさん連中の笑い声がたえまなく鳴り響いていた。






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