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後編


 騎士団が返ってきた。

 城門前にやってくるとそこにはそこら中にケガ人が寝転がっていた。

 トリアージなんて概念がない世界では偉い人から順に治療を受けている。

 それが助かる見込みが無さそうでも最優先らしい。


 なんだかいやな気分になった。

 が、騎士団長は第三王子でもあるのでそうなるのも仕方がないことかもしれない。


 ちなみにオレが殴ったイケメンは第二王子だったらしい。

 おうふ。ちょっと、マズかったかもしれない。

 寝起きだったし、聖女だからと一応不問になったが、王子は不満そうだった。


 まあ、微笑んで上目遣いで「申しわけありませんでした」って言ったら許して貰えた。

 少しウルウルしてあげたのが効果的だったのだろう。

 決して神官たちが殺気立っていたからだとは思いたくない。


 それで第三皇子なのだが……


 ふな○しーの溶解液をまともに喰らってしまったようで顔は半分ただれており、右腕は二の腕のあたりから右足は膝から下が溶けてなくなっていた。

 幸いなことに溶けて血管も潰れたようで出血多量で死ぬことはなかったようだ。


 まあ、それも時間の問題だろう。


 と言う訳で、オレはそんな王子は無視して兵士たちの治療に当たっていた。


 王子の治療? 

 なんでオレがそんなことしないといけないの? 

 だって、あの人、勝ち目がないのに突撃していったんだよ。そんな無能な上司はいない方がマシだ。

 これから何かあるたびに猪突猛進して被害を拡大されたらたまらない。

 自業自得ってもんだ。


 と言う訳で


「エリアヒール」


「「「「「「おおおおおおおおおお」」」」」」


 とりあえず、重傷者が多い区画に治癒魔法をかける。

 聖女なので治癒系の魔法はデフォルトで持っている。

 しかも、素体が天使なので魔法の詠唱なんていらない。

 掛け声一つでオート回復だ。マジでチートだね。


 本当は治療魔法は難しい物らしい。

 治癒魔法を使える者は意外に多いのだけど、安易な治癒魔法は時に害悪となる。

 魔法はイメージが大切らしく、医学の知識がない者が治癒魔法を使うとかえって状態を悪化させるのだ。

 切り傷や状態異常の回復なんかは原因とどうやれば治るかわかっているので問題ない。

 だが、骨折なんかは骨の向きや長さ、神経や血管なんかの関係を知っていないと変な形にくっついてしまう。

 そして、一度治療した傷は普通の治癒魔法では回復しなくなるのだ。


 そして、病気や内臓系の損傷になるとさらに複雑な要件が絡み合う。

 だから、高ランクの治癒魔法は資格制となっており、勝手に使うと厳罰に処される。


 うん、話が逸れちゃったね。

 そんな風にオレが兵士たちを治療していると一人の神官さんがこちらに走ってきた。


「聖女様。王子様の状態が悪化しています。何卒ご慈悲を」


「わたしは現在、勇敢に戦ってくれた兵士様の治療中です。こちらにも一刻を争う患者が大勢います」


 内心は面倒くせぇと思っただけなのだが、ここは建前くらい言っておく。

 イケメンの次にオレは無能な権力者が嫌いなのだ。


 そんなことを考えていると


「聖女様。わたし達のことは構いませんから、王子様を救ってください。王子はこの国に必要な方なんです。魔族に勇敢に真っ向から立ち向かう。王子様はわたし達の希望なんです」


 なぜか、この王子は兵士たちに慕われている。

 オレにとっては考えのないイノシシ武者でも、彼等にとっては最前線に立ち真っ先に敵に突っ込んでいく英雄なのだろう。


 オレは少し悩んだ後、王子の元に足を向けた。

 その間にもエリアヒールを連発して死にそうな人は助けておく。

 オレは存外慈悲深いのだ。


 そして、テントの中に入る。

 既に施すことがないのか、神官たちは項垂れている。

 いまは大司教が一人、治癒魔法を使っていた。

 あれも痛み止めくらいしか効果がないものだろう。

 聖女の能力なのかそれが何となくわかった。


「聖女様。王子様に慈悲を与えてください」


「それは安らかに眠らせてあげろということですか?」


 オレの冷たい口調に全員が凍り付いた。

 流石に聖女だとしても王族相手に言って良いことと悪いことがあった。

 表だって文句を口にしないが、周りの反応は明らかだ。

 半分がこちらを気遣っているがもう半分はあからさまに敵意を向けている。


 だが、そんな物は関係なかった。

 どうやら、オレは怒っているらしい。

 あのケガ人たちを見て、それをもたらしたこのバカ王子に憎しみに近い憤りを感じているようだ。


 オレは王子を冷たい眼差しで見下す。

 そんなオレに王子は真っ直ぐな視線を向けてきた。

 死を間際に向かえてもその覇気は衰えていない様子だ。


 そして、呻くように口を開く。


「聖女様を悪く言うな。今回の件はわたしが聖女様の復活を信じられなくて先走った結果だ。危うく無駄に将兵を死なせて反撃の機会を失うところだった。この責任は死んでわたしがとる。お前たちも行け。そして、一人でも多くの兵を救うのだ」


 あれ? なんか思ってたような人と違うよ?


 そこに全身鎧の男が前に出た。

 顔や腕には包帯が巻かれて血がにじんでいる。


「聖女様。貴方が兵達を憐れんでお怒りになられているのはわかります。しかし、王子の決断は仕方がなかったのです。ゴブリンたちは増える一方で情勢は悪くなるばかりです。神官たちは聖女様がいずれ復活するから待てと言いますが、王都が包囲されている為、国境は孤立無援状態です。時間がなかったのです」


「それで負けるとわかっているのに討って出たのですか? 兵士を巻き込んで」


「勝算がなかったわけではありません。あの軍は形だけの軍です。魔物使役の能力を持つピーチボーイさえ倒せば軍は瓦解します」


「ですが、彼の周りにはゆるキャラ~んが召喚したゴーレムがいるのはわかっていたでしょう。勝ち目はなかったのではないですか」


「そんなことはありません。我々が一人だけでもピーチボーイに手が届けば」


「もうよせ。聖女様の言い分の方が正しい。わたしは無謀な賭けに出て、そして、負けたのだ。わたしは我慢が出来なかった。そして、兵たちに無用な血を流させたその責任は何よりも重い」


 傷が疼いたのか顔を顰めて目を閉じる。呼吸が荒い。

 本当にもう限界が来ているようだ。


「エクストラヒール!」


 王子の身体から光が立ち上る。そして、光が消えると王子の身体は元通りになっていた。

 ただれた顔も、失くした手足も戻っている。


「「「「「「おおおおおおおおおお」」」」」」


 一瞬の出来事にどよめきが上がっている。それは治療された王子も同じで自分の手を見て信じられないといった表情をしていた。


 そんな彼に


「わたしは王子であるから助けたのではありません。死にそうな人間がいたから助けただけです」


 そう言って踵を返した。


「聖女様の御慈悲感謝します」


 そう言って王子は泣いていた。

 周りにいる人間もこちらをキラキラとした目で見てくる。

 うん。なんか勢いで言ってみたけど信仰が上がっている。

 結果オーライかな。


 そんなことを思いながらテントから出て次の治療に向かっていた。

 まあ、柄にもないことを言ってしまって恥ずかしいってのが本当のところなんだけどね。





 翌日。


「王位継承権は返上してきました。これよりわたしはタダの一騎士です。これからは聖女様を守る為だけにこの生命を捧げる所存です」


 なんか晴れ晴れとした表情でイケメンが跪いている。

 なんだかこいつ犬っぽい。尻尾があったら盛大に降っていることだろう。

 オレは盛大に溜息を吐いている。


「本当にいいのですか? 王位継承権の返上だなんて」


「この生命は聖女様に与えられたものです。だから、聖女様の為に使うのは当たり前のことです」


 そう言う王子は澄んだ目でこちらを真っ直ぐ見ている。

 オレはもう溜息しか出ないが、何とかそれを堪えた。


「わかりました。ただし、条件があります」


「条件ですか?」


 何を言われるか不安なのか瞳が揺れている。

 そんな王子にオレは


「あなたの生命はわたしのものです。ですから、粗末に扱わないでください。決して死ぬことを許しません。それが誓えますか?」


「はい」


 そう言うと跪いて剣をこちらに差し出す。

 オレはそれに対して


「わたしに剣は必要ありません。あなたはわたしとこの国を守る盾になるのです」


 そう言って王子が脇に置いていた盾を手に取り授ける。

 王子はそれを恭しく受け取った。

 その時である。

 光が彼を包みこんだ。


「「「「「「おおおおおおおお」」」」」」


 周りにいた人達からどよめきが起こる。

 何が起こったのか分からないのか王子が自分の両の掌を見ながら


「なにか力が漲ってくる」


 呟くようにそう言っていた。

 どうやら、聖女の加護を授けることが出来たようだ。


 聖女の加護

 それは聖女を崇める者の能力を飛躍的に高めるものである。

 そして、その効果は聖女に対する想いに比例するのだ。


 うん。どうやら上手く行ったようだ。

 って、全部計算してたわけではないよ。


 ふう、とりあえず、肉壁ゲットだぜ!

 心の中でオレはそう叫んでおいた。

 

前中後編の三話で王都解放まで書いて終わらそうと思ったのですが終わらなかった。

もう一話だけ続きます。

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