中編
中編
えっとここは?
今日二度目の目覚めだ。目の前にあるのは長椅子が並んでいる広い部屋だった。どうやらオレはそれを見下ろしているらしい。
のじゃ幼女曰く、聖女に転生して世界を救うはずだったんだけど……
あれ? 身体が動かねえ。声も出せねえ。
マジかあ。あいつまたミスったんじゃねえのか。
そんなことを考えていると視界がひび割れた。いや違う。オレの周りをガラスのようなクリスタル? が覆っていたようだ。それが崩壊していく。
そして、オレも落ちていく。
「うわああああああ」
悲鳴を上げていると背中を柔らかく受け止められた。
どうやら床への激突は避けられたらしい。
そして、オレをお姫様抱っこしているのは金髪のイケメンだった。
とりあえず、右ストレートを頬にぶち込む。
「ぶへらああ」
叫びながら錐揉みして飛んでいくイケメン。
そんか彼をオレは冷たい視線で見送っていた。
オレはイケメンには容赦しないのだ。
って、違う!
オレは周囲を見渡すと白いローブを着たおっさんが沢山いた。
なんだか金で刺繍されている高そうなローブを着ている。
多分、宗教系のお偉いさんなのだろう。
やっちまったかなあ、と思いながらもオレはとりあえず目を閉じ、そして、何事も無かったかのように目を開いた。
「わたしは聖女マリアです。神の命によりこの世界を救うために復活しました」
「「「「「「おおおおおおおおおお」」」」」」」
うん、台本通りだ。
のじゃ幼女から復活したら偉いさんにそう言えばあとは何とかなると教えられたのだ。
マジ行き当たりばったりなんですけど。
そんなことを思わなくもなかったが、ひれ伏したおっさんたちを見るとなんとかなっているのだろう。
向こうの壁のところでひくひくしているイケメンに関してはこの際、知らんぷりしておく。
しばらくすると一人のおっさんが立ち上がった。
多分、一番上等な服を着ているので責任者なのだろう。
「わたくしはサウザンド王国 聖教会で大司教を務めさせていただいています。フレデリックと申します。早速で申し訳ないのですが、いま我が国は魔王軍に囲まれて風前の灯です。どうか我らを救ってください」
土下座だ。この国の宗教のトップが土下座している。
それは見事な土下座だった。日本人もビックリである。
オレは頭をグリグリと踏みつけたくなるのを懸命に堪えながらフレデリックの肩に手を置く。
「顔を上げてください。わたしはその為にここに来たのですから」
天使の微笑みを浮かべておく。
うん。スマイルゼロ円だからね。笑うだけならタダなんだよ。
そんなオレの考えなど見抜けないフレデリックは涙ながらに縋り付いてきた。
おっさんに縋り付かれてダレトクだよ!
と思わないでもなかったが振り解ける状態じゃないのでそのままにさせておく。
教会内は嗚咽と神への感謝の言葉であふれていた。
しばらくして落ち着くと現状の確認に移る。
魔王に侵略されているというが一体どの程度のことなのか知っとかないといけない。
と言う訳で案内されたのは城壁の上
え? 城壁?
見下ろすと、そこには……
「これ全部が魔王の手先ですか?」
「はい。現在、第三魔王軍の先兵に囲まれています」
額の汗を拭きながら大司教のおっさんが教えてくれた。
ないわあ。マジでないわあ。
城の周りは異形の魔物に囲まれていた。
よく見ると、RPGで登場する雑魚キャラ、コボルトとコブリンが殆どみたいだ。
「コボとゴブってこの世界では強いのですか?」
「いいえ、普通の村人でも武器を持っていれば一対一なら勝てます。騎士なら十対一でも勝てます」
「なら蹴散らせばいいのでは?」
「あまりにも数が多くて対処できないのです。十体一では勝てますが流石に五万対五千では勝てません」
ああ、数の暴力は怖いのね。
でも、なんでこんなに多くのゴブコボがいるの?
それになんで王都の周りにこんな数の魔物がいるの?
そんな疑問をオレの表情から読み取ったのか説明してくれた。
まず、まだ戦争は始まったばかりで魔王軍の本体は国境にいること。
国境にある砦はまだ健在で、今でも魔王軍と孤軍奮闘しているらしいこと。
だったら、ここになんで大軍がいるのか?
それは第三魔王軍の特色の所為だった。
第三魔王軍は軍と呼ばれているが正規の兵は十人くらいしかいない。
だが、軍団長と副団長が破格の能力を持っているそうだ。
軍団長ピーチボーイの能力は魔物使役。
奴は王国に少数で潜入し国中のゴブコボを集めて回って王都を包囲したそうだ。
うん。防衛側としては非常に厄介だ。
それに奴が使役しているのはゴブコボだけではない。
ドーン、ドーン
断続的に何かがぶつかる音が響いている。
その度に微かな光が飛んでいる。
「えっと、あれは?」
「ピーチボーイが使役しているワイバーンです。飛行能力があるのでこうして城壁を飛び越えてやってきます。いまは城壁に施されている特殊な結界で防げているのですがいつまで持つやら」
そう言って大司教は頭を抱えていた。
うん。ワイバーンに当たられるたびに弱弱しく光っているところを見るといつパリーンと割れるか不安になる光景だ。
ちょっと、待てよ。敵の総大将ってピーチボーイって言ったよな。
ピーチは桃でボーイは男の子。
お供がコボルトとゴブリンとワイバーン。
犬と猿とキジって……
いくらなんでも無理があるだろうがああ!
百歩譲ってコボルトが犬ってのはわかる。顔が犬だし毛むくじゃらだし。
でも、ゴブリンが猿っておかしいだろう!
見た目は人型だから猿っぽいって言えば猿っぽいけど。あれ分類すると鬼だよ。
鬼って桃太郎が討伐する側だよね。
それにキジがワイバーンってなに!
格差あり過ぎでしょう。犬と猿に謝って。
なんで犬と猿の代わりが雑魚で、キジだけ中ボスクラスなんだよ!
頭の中だけで激しくツッコんでいたらクラっと立眩みがした。
ふらりとよろめき縋るように城壁にもたれかかる。
すると……
城壁がいきなり光りだした。あたりが真っ白に染まる。
その光景に驚いているとワイバーンが一匹こちらに向かって突っ込んできた。
きゃっと悲鳴を上げて後ろに下がり目を瞑るオレだったが……
「おおお。結界が強化されている。流石、聖女様だ」
哀れワイバーンは黒焦げになって地面に落下していった。
ふむふむ。スゴイなあ、聖女って……
こめかみからタラリと汗を掻きながらそんな風に考えていたのだが、表情には出さない。
ただ
「これも神の思し召しです。わたくしの力ではありません」
うん。ここは謙遜しておくよ。
そんなオレの態度を見て大司祭以下神官一同はこちらに尊敬の眼差しを向けてくる。
こいつ等意外とちょろいなあ。
そんなことを考えながら内心でほくそ笑んでいた。
そんな時だった。
「なしなしなっし~~~~!」
なんかどこかで聞き覚えのある声が戦場に響いていた。
視線を向けると黄色いあいつが縦横無尽に飛び跳ねている。テレビでキレのある動きを見せてくれたのだが、異世界にいる奴はもっとすごかった。軽く10mくらいはジャンプしている。
「なし汁ぶしゃああああ」
かと思ったら何かを吐き出した。敵味方関係なく降り注がれている。
そして、哀れなゴブリンは奴の攻撃に巻き込まれてグズグズと溶けていた。
「なし汁って溶解液だったのか……」
呆然と呟く、オレ。
そんなオレの声が聞こえたのか大司教が説明してくれた。
「奴は黄色い悪魔。ふな「言わせないよ」です」
いきなり声をかぶせられた大司教は何事かとこちらを見ていたがそんなことはどうでも良いのだ。
本当に危ない所だった。ちょっとはこっちのことも考えて欲しい。
だからとりあえず睨み付けておく。
大司教は訳が分からない様子だったがとりあえず謝ってくれた。
とりあえず、話を戻す。
「あの黄色い悪魔は副団長ゆるキャラ~んが呼び出した。ゴレームです。なんでも奴は異世界の物品を召喚しそれを依り代にして強いゴレームを作り出すらしいです」
あの黄色い人、最近見ないと思ったらガワをこちらの世界に奪われていたようだ。
そして、ちょっと気になることを
「あの、中の人は無事なのですか?」
「中の人とは?」
中の人と言われても大司教たちにはわからないようだ。
どうやら、こちらに飛ばされてくるのはキグルミだけらしい。そのことにホッとしている。
よく見ると大阪弁をしゃべるおっさんや横になると新幹線その物になる人、鹿の角が生えたタダの坊さんまでいる。
ここってゆるキャラの墓場なの?
って言うか、ゆるキャラ盗難事件とか日本で大問題になってないだろうなあ。
なんて場違いなことを考えていた。
そこで一つ疑問が
「あのお。なんか戦闘が起こっているのですが、誰か攻め入ったのですか?」
確か、今は絶賛、籠城中という話だった。
敵が城壁や結界の破壊工作をしてるだけでこちらから攻めなければ戦闘にはならないはずなのだ。
そのことに気付いたのか大司教たちの表情が蒼褪める。
「あれは第二騎士団。あれほど攻めてはならぬと言ったのに先走り追って!」
大司教が怒りから叫んでいた。
そう言う間にも、騎士団の上には溶解液が雨のように降り注いでいる。
新幹線が縦横無尽に走って騎士を吹き飛ばし、鹿の角を持った坊さんが錫杖を振り回して無双状態だ。
うん。騎士よりゴブコボの方に被害が甚大だけど、見ないふりをしておこう。
これって仲間割れなんじゃないの? って思えるような光景だった。
ちなみにゴブコボはいくらでも湧いてくるので問題はないらしい。
「これはまずいですねえ。第二騎士団を失ったらこの国はお終いです」
いきなりのバッドエンド予告にオレも頭を抱えたくなった。
何か手はないのか……
その時、オレに天啓が舞い降りた。
オレは城壁から思いっきり身体を乗り出して力の限り叫ぶ。
「今年のグランプリはしんじょう君だ。お前等なんて忘れ去られた過去の人だぞ!!!」
うん。黄色いあの人以外は元々知名度も人気も微妙な人たちだ。
この言葉は効くだろう。
なんてバカな思い付きだったが効果は抜群だった。
どうやら能力どころか魂もキグルミに宿っていたようでガクリと項垂れしばらくすると動かなくなってしまった。
動揺する魔王軍の面々だったが今がチャンスだ。
「いまの内に撤退させてください」
そう言うと神官たちは慌てて空に魔法を撃ちだす。
それが合図だったのか出陣していた面々が脱兎のごとく逃げ帰ってきた。
いまが反撃のチャンスだったかもしれないが、こちらの被害も甚大だったのだ。
逃げるのが正解だっただろう。
そして、オレ達は第二騎士団の元に向かうのだった。