前編
聖女シリーズ第三弾です。
短編にするつもりが少し長くなってしまったので4話に分けました。
四日連続で投稿する予定です。
それは幼馴染のマリアとの学校帰りの出来事だった。
いつもなら彼女は部活でこんな早い時間に帰宅は出来ないのだが、幸か不幸か今は定期テスト直前、部活動は全面禁止なのである。と言う訳で久しぶりに二人っきりでの帰宅なのだが……。
うん。甘い雰囲気なんて全くないよ。
絶賛、罵倒され中である。
「もう、こんな問題も分かんないの? 忍、マジで大丈夫? 留年とか嫌だよ」
「そこまでひどくないとは思うんだけど」
なんて言いながら頬を書いている。理数系は得意なのだが、暗記物が苦手で世界史や日本史は壊滅的。だって日本人なんだから「なんとらニュウス」、「なんとら何世」とか覚えられない。まあ、日本人でも昔の武将とか豪族とかややこしい名前で覚えられないんだけど……
ああ、藤原多すぎ!
他にも漢字とか英単語とか覚えられない。生物もマズいかも。
「ああ、憂鬱だ。どこかテストのない所に飛ばされないかなあ」
「もう、バカなこと言ってないでしっかり覚えなさいよ。出そうなところ纏めておいたから、これだけ覚えれば、とりあえず、赤点はないから」
「あざす」
そう言って頭を下げた時、視界の隅に何かが迫ってきた。
壁?
トラックだ。
気付いた時にはオレはマリアを突き飛ばしていた。
「ここはどこだ」
ラノベの冒頭に出てくるような一言を吐いてしまった。
だが、仕方がないだろう。だってラノベの冒頭によくあるシーンなのだから。
真っ白な空間にポツンと一人だけしかいない。
うん。これって神様が現れて『お前は死んだから異世界に転生します』ってパターンだ。
「マジかぁ。さっき言ったセリフでフラグが立ったの? あり得ねえ!」
思わず愚痴ってしまった。
そうこうする内に目の前に光が……
「あれ? こういう時って女神様降臨ってパターンじゃないの? もしかして不発。マジ? オレこのままここで一人っきりってこと?」
光は消えたが何の変化もなかった。思わせぶりなことしといて外してくるとは神もなかなかやるではないか。でも、マジでこのまま放置はキツイ。
そんなバカなことを考えていると
「こら。ちゃんと顕現しているのじゃ。神である妾を無視するとは不敬であるぞ!」
「あれ? 声はするけど誰もいないぞ。なるほど、神様だから普通の人間には見えないんだな。これは失礼しました。わたしは……」
「ここにいるのじゃ! 図が高いのじゃ」
「いってええええ」
思いっきり脛を蹴り上げられた。思わず足を上げて跳ねながら痛みを堪える。すると、自然と視線が下がりそこには――
「幼女?」
「誰が幼女じゃ」
もう一発蹴られてしまった。
「うおおおおお。のじゃ幼女きたあああああ」
痛みを堪えてオレは叫んでいた。
スゲエ。のじゃ幼女なんて二次元でしかお目にかかれないと思った。しかも、展開から言って神様だ。どんだけキャラ、ブッコんでんだよ。なんて思いながら
「すみません、握手してもらえますか。ついでにサインも」
そう言いながらカバンからペンとノートを取り出す。のじゃ幼女神は少し照れながらもノートにサインしてくれた。しっかりと握手もしてもらったよ。
ふむふむ、とオレはノートを見る。こうしてのじゃ幼女神の名前をGETしたわけだが……
「読めねえ」
字が汚いとかサインで字を崩しているとかそんなレベルではなかった。もう、事体すら見たことがなかった。オレには不思議な幾何学模様が並んでいるようにしか見えない。
「そりゃそうじゃ。妾は貴様が住む世界とは別の世界の神だからな。その字はその世界の文字じゃ」
おお、やっぱり異世界転生ものかあ。そう言うことに憧れたことがないかと問われれば憧れたことはある。でも、すでにオレも高校生。中二病など感知しているのだ。これからは大きなお兄さんとして末永く生きていく所存である。
そんなことを考えているとのじゃ幼女神がこちらの顔を覗き込んでいた。
「それで貴様は誰なんだ?」
「え?」
二人で首を傾げてしまう。
のじゃ幼女神の説明はこうだった。
異世界で魔王が復活し、人類は滅亡の危機に瀕している。しかし、魔王の復活は数百年、数千年に一度起こることなので神はその対処法を用意しているらしい。
それが聖女システム。
神様は下界に極力干渉してはならないというルールがある為、手が出せない。だから、天使をベースにした聖女の素体を人間に与えているのだ。これに人の魂を乗り移らせて魔王に対抗する。そして、聖女は様々な能力を持っていて今までも人類を導いて魔王を打倒してきたそうだ。
それって思いっきり干渉してるんじゃないの? と聞いてみたら
直接、手を下してないからセーフらしい。まあ、限りなくブラックに近いグレーなのだろう。
まあ、そこは置いておく。今回問題となるのはなんでオレがこんなところにいるかだ。
「うむ。聖女の素体は天使をベースにしておるでな。適合する魂を持つ者はそうおらんのじゃ。だから、毎回、ある者にお願いしておるのじゃが……」
「もしかして、間違えられたのか?」
気まずそうにコクリと頷く、のじゃ幼女神。
「マジかぁ。勘違いとかってパターンはよく見るけど。それがオレに来るかあ」
少しガクリと項垂れる。そんなオレにのじゃ幼女神が懸命に言い訳していた。
「でも、こんなことあり得ないのじゃ。いつも助けて貰っている女子が今日トラックに轢かれて死んだはずなのじゃ。その子の魂をここに転送したのは間違いないのじゃ」
そこでやっと腑に落ちた。
「ああ、もしかして、その聖女になるはずだったのってマリアのことか?」
「そうじゃ。でもなんで貴様が知っておるのじゃ」
「え? 知ってるも何もオレの幼馴染みだし。なにを隠そうトラックに轢かれそうになったのを助けたのはオレだ!」
ドヤ顔で自分の顔に親指を突き出した。
「貴様かああ。余計なことをしてくれたのは!」
スゴイ大声で怒られた。生命を掛けて人を救ったのに怒られるのなんてきっとオレくらいだろう。
「どうしよう。もう時間がないし。異世界に干渉するようなことそう何度も出来ない。ああ、世界が滅びてしまう」
自分のアイデンティティの『のじゃ』を忘れて頭を抱えいる。なんだか気まずくてポリポリと頬を掻くオレだった。
そして、しばらく、のじゃ幼女は蹲ったまま復活する様子がなかった。
仕方ないのでオレは彼女の肩を叩く。
情けない顔で顔を上げる、のじゃ幼女。
オレは満面の笑みを浮かべて歯をキランと輝かせる。
「マリアの代わりにオレが世界を救ってやんよ」
盛大に溜息を吐かれた。なんだか傷付くなあ。
そんなオレに向かってもう一度盛大に溜息を吐いたのじゃ幼女は
「はあ、お前みたいにバカっぽいのが世界を救えるわけがないのじゃ。顔を整形してから出直してくるといいのじゃ!」
「ひどい! それと顔は関係ないだろう」
「まあ、顔は冗談じゃが、さっきも言ったように聖女に適合する魂なんてそうそういないのじゃ。お前なんかに……」
唖然とオレを見上げるのじゃ幼女。なんだか照れるではないか。
「うそじゃ」
「何が?」
「貴様の魂は聖女の身体に適合しておるのじゃ」
「おお。ならオレでも世界が救えるのか?」
コクリと頷くのじゃ幼女。
だが、その顔からは不安の色がぬぐい切れない。
「じゃが、背に腹は変えられぬ。えっと、誰だっけ? まあ、名前なんてどうでも良いのじゃ。さあ、行って世界を救ってこい!」
そう言って踵落としを決められた。お子様体形なのにパンツは黒のレースだったことはオレの心に留めておこう
続く