第6話 初めて殺されてムカつきました
※ご注意
残酷なシーンがあります。
ソリシアの街を出発してから9日目。
僕たちは、トッドムート王国とフレンディル王国の国境まで来ていた。
ここまでの行程は特に何事もなく順調に進んだ。
余りにもすることが無くて暇だったから、僕は乗馬の練習をしてなんとか一人で馬を乗りこなせるようになったし、ルーシャは僕の指導の下、料理の腕を着実に上げている。
ライザは・・・、うん、いつも通りマイペースな感じだ。
一応、旅の途中では魔物の襲撃なんかもあったんだけどね。
関係の悪い国家間を結ぶ街道のせいか、道は荒れ放題で、ソリシアの街から離れるに従って、魔物が出始めたんだ。
魔物、魔獣、モンスター。
この世界でもいろいろな呼ばれ方をするらしいけど、僕の世界にはいなかった恐ろしい異形の化け物たち。
定番のゴブリンもいたし、炎を吐く熊みたいのもいた。
元の世界で出会っていたら、僕なんか一撃で殺されてたろうね。
でも、心配ご無用。
出現した魔物たちは、ライザの剣とルーシャの魔法により一瞬で倒された。
本当に、一瞬で、だ。
二人の話じゃ、ここら辺の魔物は下級モンスターに位置づけられるらしい。
ライザは冒険者志望とのことだったから、強いだろうとは思っていたけど、ルーシャの魔法もかなり強力だった。
僕の出る幕なんて一切無し。
いや、凄い二人を奴隷にしちゃったよね。
それ以外は、実に平穏無事だった。
ソリシアの街から追手がかかる様なこともなかったしさ。
食堂の件は、怪奇事件として処理でもされたのかな?
そう言えば、食堂で僕を酒のボトルから守ってくれたライザの腕だけど、あとで確認したら傷一つ無かった。
それを見たときは、流石に驚いたね。
ライザの少し日に焼けた肌には、痣一つ無かったんだから。
「ライザ、凄いですね。これはライザだからですか?それとも獣人の能力?」
「獣人のかな?ボクも鍛えているつもりだけど、小さいころから身体は頑丈だったから」
流石は戦闘民族、獣人族だ。
獣人の方々とはあまり事を構えたくないな。
僕のあの能力を使っても、下手したら負けるかもしれない。
「素晴らしいですね。僕はあの能力以外は一般人と変わりませんから。だから、あのボトルが頭に直撃してたら死んでいたかもしれません。本当にありがとうございました。・・・お二人には申し訳ないですが、今後も可能な範囲で僕を守って貰えると助かります」
女の子に自分を守ってと頼むなんて、情けない話だけどね。
でも、背伸びして出来ないことを出来るって言っちゃう年頃でもないしさ。
出来ることは出来る人に任せよう。
「うん、いいよ」
「シュウ様、申し訳ないなどと、滅相もないことです。私たちはシュウ様のもの。命に代えてもシュウ様をお守りします」
ライザが軽く返してくる一方で、ルーシャは相変わらず生真面目に答えてくる。
気持ちは嬉しいけど、僕はもう一つの能力もあるから、最悪死んでも問題はないんだよね。
既に命のストックは38人分(奴隷商で10人、ソリシアで28人)貯まってるし。
「いえ、あくまで可能な範囲内でいいですよ。貴方たちの命を懸けるほど価値がある命じゃありません、僕のはね」
そんな会話をしたのが9日前。
僕がお願いしたからか、二人は常に僕を守ってくれている。
その力は鬼神の如くとでも表現すればいいかな。
街道で出会った魔物たちには同情しちゃうくらいだね。
そして今、僕たちの前には、警備兵の詰め所が併設された検問が二つ。
手前のがトッドムートのもので、奥のがフレンディルのものなんだろう。
犬猿の仲らしいけど、戦争中ではないからか、物々しいと言えるほどの警備体制じゃない。
お互いの国の警備兵はそれぞれの詰め所に籠っている様だ。
僕たちは早速、トッドムート王国側の検問へ向かう。
そしてその検問での手続きの際、僕はルーシャの過去の一端を垣間見ることになった。
「トッドムートの貴重な財産である馬を持ち出そうとしているんだぞ!この関税は正当なものだ!」
僕の後ろに立つルーシャに対して、声を荒げる国境の警備兵。
終始威圧的で、兵隊というよりもいけ好かない役人と言った風情だ。
しかしその一方で、ソリシアの警備兵とは違って、そこまで亜人を見下した感じはしない。
トッドムート王国全体にも亜人差別はあるらしいけど、ソリシア程異常なものじゃないんだろう。
「ほう?それでは貴方は、馬1頭につき金貨10枚という法外な税金を、正当だと主張するのですね?・・・ちなみに私、こういったものを持っているのですが、ご確認頂けますか?」
ルーシャがストレージバッグから金色に輝く金属の板を出す。
パスポート程度のサイズの板だ。僕も初めて見る。
それを手に取って確認した警備兵の顔が一気に青ざめた。
「こ、これはまさかクォータム帝国の・・・。で、では、おま、いや貴方は・・・」
「流石に国境警備兵はこれの意味が分かりますか。・・・私はその関係者です。私のほうからクォータムの上層部に、ここでの出来事をお話ししてもよろしいのですが?」
ルーシャが僕には見せたこともないような冷たい表情で、警備兵を睨み付ける。
うん、怖い。
美少女のこういった表情って、本当に怖いよ。
「い、いえ、申し訳ありませんでした。クォータム政府の方なら、関税は不要です。出国税も頂きませんので、どうぞお通り下さい」
金属板とルーシャの言葉に、態度を180度変えた警備兵が、頭を下げて来た。
高貴な相手に差し出すかのような姿勢で、金属板も返してくる。
ルーシャがそれを受け取りながら、大仰に頷いた。
「いいでしょう、その心掛けがあれば、私も面倒な報告をする必要が無くて助かります」
え?何このやり取り?
印籠?黄門様の印籠的なやつなの?
僕は興味津々でその金属板を覗いたけど、書いてある内容は良く分からなかった。
ルーシャはそれをそそくさとバッグに仕舞いながら、僕には笑って誤魔化してくるし。
まあ、言いたくないことを無理に聞くつもりはないけどさ。
まだ顔を青くしているトッドムートの警備兵をしり目に、僕たちはフレンディル王国側の検問へと向かう。
もちろん、馬もちゃんと4頭引き連れている。
「あれはクォータム帝国で発行された通行手形のようなものなんです。もうあれは失効しているので、本当は使うと違法なんですけどね」
僕が先ほどの金属板を気にしてるのが分かったんだろう。
歩きながらも、ルーシャが申し訳程度に説明してくる。
通行手形のようなもの、か。
つまり、通行手形そのものじゃないってことだよな。
説明して貰ったけど、謎は謎のままだ。
まあ、ルーシャにもいろいろ事情があるんだろうしね。
「通行手形ですか・・・それにしても凄い効力ですね」
一発で警備兵が態度を変えてたし。
正に印籠って感じの効果。
となると、あれを出したルーシャが格さんで、剣の得意なライザが助さん、僕はご隠居か?
いや、うっかりの方かもしれない・・・。
「クォータム帝国は大国なので、トッドムート王国の様な中堅国家だとその威光は無視できないんですよ」
クォータムってルーシャの出身地って言ってたところだよな。
クォータム帝国か・・・なんか怖そうな国だね。
帝国って響きは、どうも悪役な感じがするから。
子供の頃テレビで見ていた某宇宙映画の影響かな?
そんなことを考えていた僕の前には、フレンディル王国の警備兵。
高圧的だったトッドムートの警備兵と違って、気さくな感じのお兄さんだ。
「やあやあ、綺麗なお嬢さん、フレンディル王国へようこそ。エルフと狼人、人間が一人ずつか。トッドムートからにしては珍しい組み合わせだね」
警備兵のお兄さんは、僕たちの顔を見回しながら不思議そうに言う。
トッドムートにはやはり亜人は少ないのかな?
まあ、わざわざ差別があるところに好んで住むような人はいないよね。
その警備兵は僕たちを観察する振りをしながらも、チラチラとルーシャとライザ、特にルーシャを見て少し顔を赤くしている様だ。
分かるよ、彼女はとんでもない美少女だしね。
美少女って言う点ではライザも負けてないけど、ルーシャみたいな儚げな乙女が好きっていう男も多いだろうし。
「それにしても、馬を引き連れて来るなんて、どんな魔法使ったんだい?トッドムートが馬の国外持ち出しを許可するなんて。あいつらが馬を独り占めしてるせいで、我が国は建国から80年経っても、まだまだ馬の数が足りてないからね」
警備兵はわざとらしくトッドムートの詰め所に目をやりながら、肩をすくめる。
詰所同士は結構離れてるから、あっちには聞こえてないだろうけど。
でも、馬が輸出禁止か。
自動車が無い世界じゃ、馬は軍事兵器的な側面もあるしね。
トッドムートが輸出規制を掛ける気持ちも分かるけど。
僕は入国手続きを進めるルーシャの後ろで、ぼーっとそんなことを考える。
トッドムートと違ってフレンディルでは亜人差別があまりないとのことだ。
その為、こちらの検問ではルーシャが率先して手続きを進めてくれていた。
僕は特にすることもなく、ただ立ってるだけ。
ルーシャは商業組合で働いていたって言ってたし、書類関係はお手の物なんだろうね。
ルーシャは僕だったらイライラしちゃいそうな大量の書類に、黙々と何かを書き込んでいる。
一方でライザは、僕の横に立って、僕が今朝作ってあげた焼きリンゴ(ハチミツ付き)を美味しそうに齧っていた。
本人曰く、これでも僕の警護中らしい。
うん、頼りにしてますよ。
そんな手持無沙汰な状況が暫く続いた後、ルーシャから受け取った書類を見ていた警備兵のお兄さんが、突然大声を上げた。
「な、なに!?君たちは奴隷なのかい?何で君たちみたいな綺麗な子が。・・・君たち、この男に無理やり奴隷にされたんじゃないだろうね?」
そう言いながら、僕を睨み付けてくる警備兵。
その視線に籠ってる感情は嫉妬?
いや、奴隷を連れている僕に対する義憤かな?
ルーシャの話では、フレンディル王国では奴隷は犯罪奴隷しか認められていないそうだ。
軽い犯罪を犯した者は、懲役代わりに奴隷として働かされ、重い犯罪を犯した者は、鉱山等の過酷な労働環境で死ぬまで働かされる。
一方で身売り奴隷の様な行為は許されておらず、国が関与しない形で奴隷を売買すると犯罪になるらしい。
ただし唯一の例外として、国外で手に入れた奴隷については、その主人の所有物として認められるとのことだ。
そうしておかないと、国外から奴隷の使用人を連れた外国人がやって来た時にトラブルになってしまうからね。
でも、犯罪奴隷以外許されていないお国柄か、奴隷制そのものを忌避している人も多いらしく、海外からの持ち込み奴隷を連れていると白い目で見られることもあるらしい。
この警備兵もそんな奴隷制反対派なのだろうか?
「ご安心ください。私たちは正規の手続きを経て、シュウ様の奴隷となりました」
僕を睨み付けている警備兵に対して、ルーシャが笑顔で答える。
でも、ちょっと頬がピクピクしてるな。
もしかして、この警備兵の僕に対する態度に怒ってるのか?
「本当かい?そいつに言わされているんじゃなくて?・・・君たちが違法奴隷だった場合は、警備兵の権限ですぐに解放してあげられるよ?」
すぐに解放って、つまり僕を殺すってことか。
容赦ないな。
それだけ奴隷所持が厳しく制限されている国なのかね?
「私たちは正規の奴隷ですっ。私たちはシュウ様にお仕えすることを誇りに思っておりますっ」
答えるルーシャの口調が固い。
僕の殺害を匂わせた警備兵にかなりお冠らしい。
「そうか・・・期間は?」
「あと、5年です」
ルーシャと相談して、対外的には奴隷期間5年と言うことにしてある。
無期限ですとか言ったら、一発で逮捕されちゃうしね。
「それは長いな。・・・二人とも、何かあったら、いつでも警備兵に掛け合いなさい。海外からの奴隷の持ち込みが一応認められているとは言え、この国で奴隷の虐待はご法度だ。・・・いいか、お前。この二人に暴力を振るってみろ、今度はお前が犯罪者として奴隷に落とされる番だからな!」
警備兵が僕に噛み付かんばかりの勢いで言ってくる。
うん、分かった。落ち着こう、お兄さん。
せっかく爽やかな感じだったのに、ちょっと目が血走ってて怖いよ。
それに、貴方のその目付きを見て、ライザが段々と剣呑な雰囲気を醸し出し始めてるからさ。
「ご心配なく。自分に従順な女性に暴力をふるう趣味は、僕にはありません」
警備兵を落ち着かせようとそう答えた僕だったけど、従順という単語が気に障ったのか、警備兵は更に怒りの籠った目付きで僕を睨んで来た
言葉のチョイスを間違えたかな?
それにしても、随分と嫌われたもんだね。
でも正直言うと、僕にとってはこれくらい嫌われている方が普通な感じなんだけど。
ずっと一人で生きて来たからかな?
ルーシャとライザは僕に優しいからさ、偶に調子狂っちゃうんだよね。
それに、この警備兵の態度は、この国では亜人差別が少ないということの証明でもあるし。
ルーシャとライザにとって過ごし易い国であることは、間違いない様だね。
「書類は全て記入しました。3人分の入国税もこちらに。それでは、行ってもよろしいでしょうか?」
未だ僕に向かって怒りの表情を浮かべている警備兵に、ルーシャが声を掛ける。
ルーシャは既に笑顔をやめて、炎すら凍りそうな冷たい視線で警備兵を見つめていた。
うん、滅茶苦茶怖いな。でも怒らないであげて、ルーシャ。
この人はルーシャたちを心配してるだけなんだよ。
「ん?ああ・・・、書類は問題ないね。君たちはアニシスに向かうのかい?」
「はい、差し当たっての目的地はアニシスを考えております」
アニシスってどこだろう?
もう旅の目的地は完全にルーシャ任せになってるからね。
でも、何も知らない僕が決めるより、そっちの方が効率がいいだろ?
「そうか。ここからアニシスは馬で2日の距離だ。私たち警備兵もアニシスから交代要員が通っている。だから、街道は比較的安全と思ってくれていいよ。・・・では、道中気を付けて」
警備兵がルーシャとライザに声を掛ける。
僕は当然無視だ。いいけどね。
僕はこちらを見向きもしなくなった警備兵に軽く頭を下げつつ、検問を通過する。
そして僕たちは、晴れてフレンディルの土を踏むこととなった。
「シュウ様、不快な思いをさせてしまい申し訳御座いません。警備兵がシュウ様にあのようなことを言ってくるとは」
検問から離れてすぐ、ルーシャが僕に謝ってくる。
やはり、あの警備兵の僕への態度が腹に据えかねていたようだ。
でも、ルーシャが謝るようなことじゃないし、そもそも僕は全く気にしていない。
「いいんですよ。僕としても、あれが奴隷を持っている人への普通の対応だと思いますしね。それだけこの国が健全ということでしょう」
もしここが奴隷制のない元の世界だったなら、奴隷を持っている僕はもっと酷い言葉を浴びせられたに違いないし。
いや、それ以前に、即逮捕だろうけどさ。
「だからこそ、シュウ様が危険」
ライザがボソッと言ってくる。
確かに、奴隷反対という信念を持ってる人からすれば、僕は敵だからね。
でも、まさかそれを理由に突然襲われたりはしないだろうし、睨まれたり罵倒されたりするくらいなら全然問題ない。
それを気に病む様な精神構造はしていないんだよね、僕は。
「そうですね、シュウ様の警護をより強化しましょう」
ルーシャがライザの言葉に深く頷き返す。
二人が心配してくれる気持ちは嬉しいけどさ、既に魔物を瞬殺する様な万全の警備体制を敷いてくれているのに、これ以上どこをどう強化するって言うんだろうね。
元の世界で言えば、大統領以上の警備体制を敷いて貰ってる気がするけど。
「ところで、最初の目的地はアニシスでしたっけ?」
僕の警護について熱く語られても困るので、違う話題を振ってみる。
ルーシャのことだから、そのアニシスという街に行くのには、何か明確な目的があるのだろう。
「はい。ここから南に2日ほどのところに、辺境都市アニシスがあります。・・・シュウ様は以前、冒険者になって見聞を広めたいと仰ってましたよね?」
ここまでの旅の途中で、僕は二人に簡単な素性を語ってある。
と言っても、ほぼ嘘しか言ってないんだけど。
本当のことを言えるわけもないし。
僕が二人に伝えたのは、こんな内容。
僕はある遠方の国の出身で、箱入りのボンボン。
そのせいで世間知らずに育ったんだけど、異能を持っていたことがきっかけで、ある試練を課せられることとなった。
そして、その試練を自らの力で乗り越えるために、自らの能力を磨く旅に。
今までは一人で旅をしながら修行していたが、独力で鍛えるのは限界があるので、冒険者になって実戦を経験したい。
ついでに世間知らずも治したい。
・・・こんな感じだ。
「うん、取り敢えず冒険者にはなってみたいね」
「それでしたら、アニシスは最適です。アニシスは別名冒険者の街と呼ばれるほど、冒険者が多い都市です。ここで冒険者として活動すれば、様々な経験が積めるでしょう」
ルーシャの説明では、アニシスの領地内には魔物の森やダンジョンが数多く存在しており、一攫千金目指して世界各地から人が集まっているらしい。
そもそも、冒険者の一番の収入源は、魔物討伐による魔核の収集だ。
魔核とは魔物だけが持っている魔力の発生器官で、魔道具を作ったり使用したりするのに必要とされる素材。
実際、二人が旅の途中で倒した魔物の魔核は回収してあり、僕も見せて貰った。
一見半透明の白い石だったけど、使用するときは赤く光るらしい。
ちなみに魔道具って言うのは、読んで字のごとく魔力を使用する道具、元の世界で言う機械のことだね。
っと、話が逸れたけど、確かにルーシャの話通り、そんなアニシスの街なら冒険者としての仕事も多そうだ。
「そうですか、面白い経験が出来るといいんですが」
「ボクも楽しみ」
そう言えば、ライザは冒険者志望だしね。
村を出てすぐにあの奴隷商に捕まっちゃったから、まだ冒険者にはなれていないけど。
でもあの剣の腕前なら、間違いなくすぐに活躍出来るだろうね。
「それと、アニシスは私とライザにとっても居心地の良い街かと思います。人が各地から集まっている関係で、人種も雑多ですし、当然亜人差別などもありません」
「今度こそ食堂でご飯が食べれるね、シュウ様」
僕と同じで食い意地が張っているライザが、笑顔で言う。
「ええ、人が各地から集まっているなら、いろいろな国の料理もありそうですね」
今度は、ソリシアみたいなことは無いだろう。
取り敢えず、これから暫くは無駄な争い事は避けられそうだ。
そんなことを考えていた僕だったけど、そんな楽観的な考えは次の日の朝早々に打ち砕かれることになった。
次の日の朝。
いつも通り街道沿いでキャンプをしていた僕たちは、早めに起きて朝食の準備をしていた。
アニシスまではあと半日はかかる。
暗くなる前には着きたいし、朝食を食べたらすぐに出発するつもりだった。
朝食のメニューはアップルパイ。
前にライザに作ってあげたら大好物になったらしく、最近の定番メニューだ。
夕食にも作って欲しいとせがまれた時は流石に困ったけどね。
夕食がアップルパイ。いくら美味しくても、僕はちょっと嫌だ。
と言うことで、アップルパイの夕食を避けるためにも、最近は毎日朝食にアップルパイを作ってあげている。
ルーシャにはまだ難しいらしく、アップルパイ調理担当は僕だ。
煮たリンゴは収納魔法に大量にストックしてある。
それを取り出しパイ生地に包んで黙々と焼いていた僕に、ライザが声を掛けて来た。
「シュウ様、馬の足音。誰か近付いて来る」
ライザの獣人としての鋭敏な聴覚で捉えたのだろう。
耳が小刻みにピクピクしている。
暫くするとエルフの耳でも捉えられる距離まで来たのか、ルーシャも僕たちが来た街道の方を振り返って見つめている。
まだ朝靄が出ている早朝。
こんな国境に続くような辺鄙な街道に人とは珍しいね、と完全に自分たちを棚に上げたことを考える。
警戒態勢に入りつつも(僕は料理を続けていたけど)、相手が近付いて来るのを待っていた僕たち。
そして、そこに現れたのは、昨日の気さくな国境警備兵だった。
「やあ、皆さん、おはよう」
馬に乗ったまま、明るく声を掛けてくる。
昨日とは違って、僕に対しても笑顔だ。
「いやー、追い付いて良かったよ。君たちに、と言うか君に、謝りたいことがあったんだ」
警備兵はそう言いながら馬を降りて、手綱を近くの木に結ぶ。
そして、僕の目の前まで歩いて来た。
「・・・昨日は済まなかった、私は余り奴隷制というものが好きじゃなくてね、君に八つ当たりみたいなことをしてしまった」
警備兵のお兄さんが、頭を掻きながら謝ってくる。
少し困った様な笑顔を浮かべ、申し訳なさそうな表情だ。
「いえ、気にしないでください。お気持ちは分かりますし」
謝ってくる警備兵に、僕も笑顔を見せる。
僕としては本当に気にしていないし、内容が内容だけに、この警備兵を責める気にもなれない。
それにしても、自らの行為を反省して、わざわざ追いかけてきてくれるとは、随分良い人のようだね。
「そうか、そう言って貰えると嬉しいよ。・・・じゃあ、仲直りの握手といこう」
右手を差し出してくる警備兵。
何かこういう風に握手を求められるのっていうのも、照れくさいよね。
でも、このお兄さんの気持ちを無下にも出来ないし、僕は素直にその手を取る。
お兄さんは僕の手をギュッと握って来た。
うん、流石は軍人だ。凄い握力でちょっと痛いね。
横を見ると、少し離れた場所からルーシャとライザが微笑ましそうに僕たちを見つめている。
男って単純ね、とでも思ってるのかな?
照れ隠しにそんなことを考えていた僕だったんだけど、いつの間にかこちらを見つめていたルーシャとライザの顔が、驚愕に彩られているのに気付いた。
その瞬間、首筋に軽い衝撃。
何かと思って、警備兵の方を見ると、警備兵は左手を僕に向かって突き出していた。
その左手に握られているのは、ナイフ。
剣先は僕の喉へ突き刺さっている。
「ご、ごればぁ?」
僕は声を出そうとするけど、まともに出ない。
当然だよね、喉に刃物が刺さってるんだから。
口の中に広がる鉄錆びの味。
口や喉からダラダラと血が流れだし、僕のローブを濡らしていくのが分かる。
「はははは、お前が戦士か魔法使いか分からなかったからな。騙し討ちみたいになったが、恨むなよ。・・・奴隷を持って喜んでる下種な自分自身を恨むんだな!」
警備兵が勝ち誇ったように僕に言う。
なるほど、そう言うことか。
喉を潰されちゃ、呪文は唱えられないしね。
まあ、僕はそもそも呪文を必要とする様な魔法なんて使えないけどさ。
突然の攻撃に、鍛えていない僕の身体は全く反応が出来ない。
警備兵が話は終わりだとでも言わんばかりに、更にナイフを押し込んでくる。
切っ先が脊髄まで達したのか、僕の身体は力を失って地面に崩れ落ちた。
「シュウ様ぁぁぁぁ!!!」
これはルーシャの声か、ライザの声か。
どっちだろう?
もう耳もよく聞こえない。
そのまま僕の意識は、暗転するように闇に沈んでいった。
次話予約登録済みです。
・28日土曜日23時 第7話
・29日日曜日23時 第8話
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