第5話 殺人ショーにムカつきました
※ご注意
残酷なシーンがあります。
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作品名を一部修正しました。
違法奴隷商と出会ってから5日目。
僕たちはトッドムート王国の都市の一つ、ソリシアの街に着いていた。
街は大きな壁で囲まれており、街の入り口には小さな門。
100年前にあった虎人の襲撃の教訓を活かして造ったのだろうか。
それとも単に魔物の侵入を防ぐ目的なのかな(ルーシャの話では、この世界には魔物がいるとのことだった。まだ見てないけど)。
その小さな門には警備兵の詰め所が併設されており、街に入る人から税金を取っている様だ。
門の前には街に入る人の列が出来ており、僕たちもそこに並ぶ。
そして、30分ほど待った後、僕たちの番が来た。
「次!・・・ん?3人か、おい、後ろの二人、フードを取れ」
警備兵に呼ばれ、詰所に入った僕たち。
亜人差別が激しい街とのことだったので、街に近付いてからずっとルーシャとライザはフードを被っている。
コンテナの中で使っていたローブはボロボロだったので、二人が着ているのは僕の予備のローブだ。
僕は後ろに立つ二人を振り返り、頷いて見せる。
それを見た二人が、警備兵の指示通りフードを脱いだ。
「・・・ああん?お前ら、亜人じゃねえか。ソリシアに来るとは、自殺願望でもあんのか、おい」
二人が亜人と気付いた警備兵が、呆れたように言う。
街の安全を守っている警備兵がこう言うくらいだから、本当にこの街じゃ亜人に人権は無さそうだね。
「この二人は僕の奴隷です」
僕が警備兵ににこやかに言う。
ルーシャのアドバイスで、ソリシアの街では二人が僕の奴隷であることを強調することにしてある。
流石に他人の所有物には手を出さないだろうという、希望的観測からだ
「奴隷だと?・・・じゃあ、しゃあねえか。・・・言っとくが、この街じゃ亜人に人権なんて全くねえからな?お前の奴隷が殺されたりしても、警備兵に掛け合ったりするなよ。邪魔くせえから」
なるほど、殺されたとしても事件として取り合ってすら貰えないか。
本当に亜人排斥に走ってるんだな、この街は。
「承知しました、気を付けます。街に入る税金はお幾らですか?」
「人間のお前は銀貨25枚、亜人どもは一人銀貨50枚、合計銀貨125枚だ」
亜人は倍か。
お金を使うのは初めてだから、それが高いのかどうか分からないな。
僕は懐から(実際は収納魔法から)銀貨を取り出し、入街税を支払う。
「これが滞在許可証だ、街を出る時にここで返却しろ。亜人を連れてるから、滞在期限は2日だな。それを超えると、牢屋行きだからな」
2日とは随分短いね。
まあ、こんな街に長期滞在する予定はないからいいけどさ。
「・・・次!」
僕が許可証らしき木片を受け取ると、警備兵はもう用は済んだとばかりに、次の人へと声を掛ける。
「では、行きましょうか」
僕ももうここに用はない。
フードを被り直している二人を促して、街の中へと入っていった。
正門からすぐの場所にある広場に立つ僕たち。
そこから見渡すソリシアの街並みは西洋風だった。
レンガ造りの家が立ち並び、道は石畳で固められている。
街に来る人目当てなのか、広場には露店もいくつか出ており、その前では荷物を背負った男や、馬を連れている女性が商品を手に取って、店主と何か交渉をしている。
亜人差別の街と聞いて想像していたのとは違って、街は意外なほど多くの人で賑わっていた。
人間からの評判は悪くない街なのかもしれない。
しかし当然の如く、街行く人は人間一色だ。
僕の元の世界のことを考えれば、何の不思議もない光景だけど、ここは異世界。
何となく、外国人が日本に来て感じる違和感って言う奴が分かった気がするよ。
この世界には他にも雑多な人種がいるはずなのに、ここには人間だけ。
ちょっと気持ち悪いね。
「では、早速食料品店を探しましょうかね」
「はい。この街に来るのは初めてですが、そういった店は街の中央通り沿いにあるのが普通です。今くぐった門が街の正門ですので、この道をそのまま行けば、そう言った商店が集中している地域があると思われます」
僕はルーシャの言葉を受けて、門から続く大通りを眺める。
馬や馬車が通っても問題ないように、広々と造られた街の中央通り。
確かに遠くの方に買い物客らしき人が集まっている場所がある。
あそこまで行けば八百屋がありそうだ。
でも、その前に。
「馬はどうしましょう?1頭は売ってしまいますか?」
今僕たちは馬を4頭引き連れている。
僕が単独で乗れるようになったとしても、1頭余る計算だ。
何かあったときの予備として連れていてもいいが、エサ代もかかるし、効率的とは言えないよね。
「そうですね・・・、私としては馬はフレンディルに着いてから売った方が良いと思います。この国で売るよりも高値で売れますから。この国では馬を含む畜産業が比較的盛んですが、フレンディルでは馬は貴重な家畜ですので」
「へえ、ルーシャは各地域の産業についても詳しいんですね」
ここに来るまでの旅の途中でも思ったけど、ルーシャは知識が本当に豊富だ。
僕のどんな質問にも、スラスラと答えてくる。
流石は年の功だね。
うん、こっちの感想を声には出さないくらいの分別は、僕にもあるよ。
「昔の仕事の関係で、少し勉強しましたので」
少しはにかむ様にルーシャが笑う。
知的な美少女の笑顔ってのは、素敵だね。
中央通りを暫く進むと、八百屋らしき商店は簡単に発見できた。
時間は午後をだいぶ回っている。
店先では夕食の買い物中らしきおば様たちが、喧々囂々と店主と値段のやり取りをしていた。
余りの迫力に市場の競りかと思ったよ。
一方、そんな空間でフードを被った女性を二人も連れている僕は、周りからじろじろと見られた。
でも、八百屋の主人は意外に愛想が良くて、目的の野菜と果物の方は問題ない値段で仕入れることが出来たよ。
ルーシャに言わせれば、他の街の適正価格より高いとのことだったけど、僕以外の客もその値段で買っていたから。僕だけが足元を見られたんじゃなさそうだ。
そもそもの話になるけど、街をあげて亜人排斥を掲げているってことは、亜人と言う貴重な労働力を街から追い出しているってことを意味するよね。
労働力が少なければ、生産量も少ない。
生産量が少なければ、供給が需要に追い付かず、値段が上がる。
当然の理屈だね。
人類皆仲良くしよう、なんて実現不可能なことは言わないけど、せめてビジネスライクに亜人とも付き合っていけばいいのにね。
まあ、僕もあの母親とビジネスライクに付き合えたかって聞かれると、無理と答えるしかないけどさ。
そして買い物を終えた僕たちは、一軒の食堂の前に立っていた。
愛想のよかった八百屋の主人にお勧めの食堂を聞いたら、ここを紹介されたんだ。
僕たちはこの街で宿を取るつもりはないし、今夜中に街を出て行くつもりだったけど、せめて食堂でご飯くらいは食べてみたいしね。
「紹介されたのはこのお店ですね。中央通りから随分離れたところにあるし、窓が無くて中も見えませんね。本当に営業しているんでしょうか?」
ルーシャの言う通り、お店はちょっと分かりづらい所にあった。
その外観も、大きめの普通の民家といった感じだ。
でも、一応小さく看板が出ていて、八百屋の主人が教えてくれた店と分かる。
裏手には店専用の厩舎があったので、僕たちの馬はそこに繋いだ。
「隠れ家的なお店なんですかね?取り敢えず、入ってみましょう」
僕はその店のドアノブを掴みゆっくりと開ける。
入り口から食堂内部は見えないが、中は明るく、奥から人の話す声も聞こえて来た。
僕は入り口から奥への廊下を進む。
フードを被ったままのルーシャとライザもそれに続いた。
廊下の先の店の奥から響くのは、男の大きな声。
どうも何らかの見世物をやっている様だ。
日本じゃあまり見ないけど、ショー会場が併設されているタイプのレストランみたいだね。
そのまま食堂らしき空間に入る僕たち。
入り口から見渡すと、食堂内には20人ほどの客がテーブルに座っているのが分かる。
全員が同じ方向に顔を向ける形で座っており、その前には小さな壇上。
そのステージ上には太った男が立っていて、客に大きな声で話しかけていた。
「さあさあ、本日も始まりました、お待ちかねのメインイベント、フィーディングショー!皆さま、この檻に捕らわれた哀れな少女に、是非慈悲の心を持って、食べ物をお与えください!」
太った男の横、そこには1メートル四方の檻があり、中にはガリガリにやせ細った少女が入っている。
髪の毛がボサボサで詳しい種族は分からないが、頭頂部に耳があり獣人の様だ。
「ほら、これでも食えよ、犬っころ」
客の一人が、自分の皿から野菜の切れ端らしきものを檻に投げ込む。
やせ細った少女は、それを必死に掴み、貪るように食べる。
余程空腹なのだろう。
「おお!なんと慈悲深いお客様!さあ、他にはいらっしゃいませんか?」
「犬には肉だろ。ほら、これを食え」
別の客が手に持った骨つき肉を投げ込む。
肉と言っているが、肉は食べ切ったらしく、ほぼ骨だけしか残っていない。
しかし、少女はそれもガリガリと骨を削る様に食べる。
「ぎゃははは、本当に犬だな!じゃあ、これはどうだ!」
次々に、自分の食事の残りを檻へと放り投げ入れていく客たち。
少女はゴミの様な食べかすを一生懸命咀嚼している。
それを見ながら、客はゲラゲラと笑っていた。
・・・何とも気分の悪いショーだ。
あの少女を見ていると、子供の頃の僕を思い出す。
僕もああだった。
野菜くずだろうが、骨だろうが、ご馳走だった。
食べれるものは全て、ご馳走だったんだ。
「シュウ様・・・」
僕の表情の変化に気付いたのか、ルーシャが心配そうに声を掛けてくる。
うん、そうだね。
このお店は気分が悪い、出よう。
僕がそう思って、二人と一緒に食堂を出ようとした時、ステージ上に動きがあった。
「お優しい皆様に、この私、涙が出そうです。・・・それでは、皆さまの海よりも深い慈悲の心を見習って、私からも取って置きをこの少女に分け与えましょう!」
司会をしていた太った男が、懐から赤い実を取り出すと、少女の檻の中へ入れる。
少女は急いでその実を掴み、かぶりつく・・・が、同時にルーシャが叫んだ。
「それを食べてはいけませんっ!」
食堂に響くルーシャの叫び声。
司会の男や客たちが、一斉に食堂入り口に立っていた僕たちを振り向く。
しかし、やせ細った少女はルーシャの声に聞く耳など持たない様に、一心不乱に実に噛り付いている。
すると、その少女が突然赤いものを吐き始めた。
食べた実じゃない、血だ。
大量の血を吐いた少女は痙攣しながら倒れ、暫くか細い声を出していたが、そのうち静かになった。
「おい、何だ、テメエは!ショーの邪魔しやがって!」
太った男が壇上を降りてこちらに近付いてくる。
顔を真っ赤にして、かなり怒っている様だ。
しかし、怒っているという点ではルーシャも負けていない。
「今のはロロイドの実ですよね!何で猛毒のロロイドの実をその子に与えたんですか!」
ルーシャの怒りの声。
しかし、その太った男は小馬鹿にしたようにルーシャに返す。
「はあ?そりゃ、殺すために決まってんだろうが。・・・ったくよ、一番盛り上がるところに、茶々入れやがって。どうしてくれるんだ!」
なるほど、飢えた亜人をいたぶるためのショーじゃなくて、殺人ショーだったのか。
文化的に未熟な世界では良くあることらしいね、人の死を娯楽に供するというのは。
いや、こいつらにとって、亜人はそもそも人じゃないのかな?
肩を怒らせながらも近寄ってきた男が、フード越しにルーシャの顔を覗き込む。
そして、一瞬息をのんだ。
「ああ?その顔・・・お前まさかエルフか?」
ルーシャの儚げな美貌に、エルフと気付いたらしい男。
まあ、今日街で見た限りでは、こんなに美しい女性はここにはいないだろうしね。
公言したら、この街の女性からリンチされそうだけどさ。
「亜人ごときが俺のショーを邪魔しやがって!テメエもぶっ殺してやる!」
男がルーシャに掴みかかろうとするが、僕が間に入ってそれを止めた。
「待ってください、この子は僕の奴隷ですよ。僕の所有物に手は出さないでください」
僕はルーシャが所有物であることを強調する。
うん、自分で言っててあんまり気分のいいものじゃないね。
「奴隷だぁ?じゃあ、テメエの監督責任じゃねえか!どう落とし前着けてくれるんだ!?亜人が苦しみながら死ぬ瞬間は、お客様が一番楽しみにしているシーンなんだぞ!」
なに、そのクズ集団。
趣味悪すぎでしょ。生きてる価値あるの?
「落とし前と言われましてもね・・・」
僕が、何言ってるんだこの豚野郎って目で男を見ていると、男は何かを思いついた様に嫌らしい笑顔で言ってくる。
「そうだ、どうせそっちのフードも亜人奴隷なんだろ。じゃあ、ショーの続きやるから、どっちか俺に渡せ」
いきなり意味不明なこと言って来るな、この豚。
お前のものは俺のもの、俺のものは俺のもの、って感じなのか?
「仰ってることが良く分かりませんが?ショーの続きって、この二人のどちらかを殺すってことですか?」
「そうだよ、お客様がお待ちなんだよ。亜人が苦しんで死ぬ姿を見るためにな!」
何でそんなクズ集団のために、二人の内どちらかを差し出さなきゃいけないのさ。
馬鹿なのかな、この人?
「嫌だと言ったら?」
僕がそう答えると、いつの間にか厨房から出て来ていたらしい男たちが僕たちを取り囲む。
どう見てもシェフには見えないゴロツキたちだ。全員ナイフを持っている。
て言うか、包丁なのかな?あれは。
「拒否したらどうなるかは・・・分かってんだろう?」
太った男、恐らくこの店の店主なのだろう、がにやけながら言ってくる。
拒否すれば、僕を殺してでも二人を奪うということらしい。
「・・・そうですか。ちなみに聞いておきたいんですが、食堂の客である皆さんも同意見ですか?僕の連れの死ぬ瞬間が見たいと?」
「うるせぇ、さっさと引き渡せ、小僧!」
僕の問いかけに、年配の男性が唾を飛ばして叫ぶ。
うん、老い先短いのに元気だね。
「もう、せっかく楽しみにしてたショーが台無しだわ!一人と言わず二人とも殺しなさいよ!」
若い女性が血走った目をルーシャとライザに向けてくる。
ええ、二人の美貌に嫉妬してるんですね、分かります。
貴方、どう見てもブスですもんね。
「亜人趣味の変態が、これでも食らえ!」
酔ってるのか顔を真っ赤にした若い男が、酒のボトルを僕に向かって投げつけてきた。
その軌道は明らかに顔面直撃コースだ。
しかしそれが僕にぶつかる前に、横に立っていたライザが腕を振り抜く。
パリンッと音を立て、ボトルが粉々に砕け散った。
おお、格好いい。
でもライザ、痛くないだろうか?
後でルーシャに回復魔法を掛けるようお願いしないと。
僕が食堂を見回すと、客は全員ギラギラとした目でこちらを見ている。
店主の要望に対する反対意見は無さそうだ。
これだけ意思の統一が図られているなんて、ある意味素晴らしいね。
「なるほど・・・では、しょうがないですね。そのロロイドの実というのは十分な数ありますか?」
その言葉に僕が諦めたと思ったのか、壇上に置いてある木箱を指差しながら、主人が満面の笑顔を浮かべる。
「ああ、あれを見ろ。今朝八百屋から木箱いっぱい仕入れたやつだ。新鮮なのが100個以上はあるから、安心しな!・・・じゃあ、どっちを差し出す?それとも両方か?」
うーん、どうしようかな。
迷うところだよね。
え?もちろん、ルーシャとライザのことじゃないよ?
「そうですね、取り敢えず皆さん、ロロイドの実を2つずつお持ちください」
僕のその言葉に、その場にいた全員(もちろん僕たち3人を除く)が壇上に近付いてロロイドの実を2個ずつ手に取る。
何故、手に持たされるのかは疑問に思っていない様子だ。
死のイメージに直結する行動には、素直に従ってくれるんだよね。
「では、皆さん。どうぞ召し上がってください。勿体ないから残さないでくださいね。そして・・・死んでください」
僕の言葉を合図に、一斉にロロイドの実に噛り付く店主と客たち。
殺された少女同様、一心不乱に実を食べる。
暫くすると、一人目が呻き声を上げながら血を吐き出した。
そして一人、また一人と、口やら目、鼻といった様々な場所から血を噴き出し、踊る様に倒れていく。
明るい輪舞でもBGMに流したら、似合いそうな光景だね。
バタバタと倒れていった店主と客たちは、暫くの間小さな断末魔をあげていたが、その内食堂内に動くものはいなくなった。
先ほどまでは騒がしかったから、静けさが心地いい。
「なるほど、即効性の猛毒。危険な果物ですが、これは面白いですね。残りは貰っておきましょう」
僕は食堂の床に倒れている死体を軽快なステップで避けながらステージに近付き、ロロイドの実が入った木箱を収納魔法に仕舞う。
これだけ毒性が強ければ、今後いろいろと利用できそうだ。
思わぬ収穫だね。
「シュウ様!逃げましょう!」
そんな一人得をした気分になっていた僕だったんだけど、ルーシャが焦ったように声を掛けて来た。
目の前の光景に言葉を失っていた状態から、我に返ったらしい。
「逃げる?どうしてですか?」
「他の客が入ってきたら、犯人扱いされますよ!」
ルーシャが僕に対して、珍しく少し荒い口調で言う。
よっぽど焦ってるんだね。
「犯人扱いというか、事実、犯人なんですけどね。・・・でも、集団自殺に見えませんかね?」
「こんなところで集団自殺する理由がありません!」
ルーシャが僕の意見を容赦なく切り捨てる。
理由か・・・何かないかな?
「例えば、自らのクズっぷりに耐えられなくなって、自殺したとか」
「シュウ様、それ無理がある」
ライザが冷静に突っ込んでくる。
ルーシャと違い焦ってはいない様だが、その目は檻の中で死んでいる獣人の少女を悲しそうに見つめていた。
・・・そうだね、ここにいるのも二人にとって気分が悪いだろう。
「分かりました、では裏口から出ましょう」
そのまま二人を引き連れて、食堂の裏口に回る。
途中で厨房を抜けたけど、人はいなかった。
店員は店主の後ろに控えていたゴロツキたちで全員だったんだろう。
そのまま裏手の厩舎に回り、馬を引く。
街中なので、騎乗は出来ない。
「シュウ様、このまま街を出ましょう。長居は無用です」
ルーシャがそう言ってくるが、まだ街は出れない。
もう一人残ってるんだよね、クズが。
「少し待ってください。街を出る前にやっておくことがあります」
それはあの八百屋の主人だ。
愛想良い振りしてたけど、あいつ僕が亜人を連れていると知っていて、あの食堂を紹介したな。
しかも、恐らくはロロイドの実をあの食堂に卸したのも、あの八百屋だ。
木箱に書いてある名前が、あの八百屋のものと同じだったし。
うん、さっさと殺そう。
僕たちが中央通りに戻ると、店先で閉店準備をしている八百屋店主がいた。
少し離れた場所に立ってそれを見つめていた僕と、店主の目が合う。
店主は驚いた様にこちらを見て固まった。
「おや、随分驚いてますね。じゃあ、貴方はこうしましょう。・・・ロロイドの実の在庫があったら、可能な限り食べてください。お腹を空かせた小さい子供が間違って口に入れると、危ないですからね」
そう僕が呟くと、店主は片づけを放り出して店の奥に入っていく。
暫くすると、店主の名前らしきものを叫ぶ女性の悲鳴が店の奥から響いた。
僕はそれを聞いてから、後ろの二人を振り返る。
「では、街を出ましょうか。野菜と果物も手に入ったし、面白いものも手に入りました。・・・でも、お二人には不快な思いをさせてしまいましたね。僕が食堂でご飯を食べてみたいって我が侭を言ったばかりに」
どうも、食欲に関してはブレーキの利きが悪いみたいだね、僕は。
今後は気を付けないと。
「いえ、とんでもございません。シュウ様は私たちを守ってくださいました」
「この街の人間の態度は予想してたよ。気にしないで」
二人がそれぞれ返してくる。
うん、今回は二人の優しさに素直に甘えよう。
次からは、気を付けます。
僕たちは、そのまま入って来た正門へと向かう。
警備兵は街に泊まらない僕たちを特に訝しむこともなく、追い払うかの如く投げやりな態度で手続きを進める。
そして僕たちは、ソリシアの街を後にした。
次話予約登録済みです。
・27日金曜日23時 第6話
・28日土曜日23時 第7話
・29日日曜日23時 第8話
よろしくお願いいたします。
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