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ムカつくクズは、殺します。  作者: 阿佐貫康英
3/8

第3話 盗賊にムカつきました

※ご注意

残酷なシーンがあります。

今、僕は街道の真ん中に立っている。

ここは異世界。

あのタナトスと名乗る女神様と会話していた白い空間から、彼女が転送魔法で送ってくれたんだ。


空を見上げれば、燦々と輝く太陽と抜ける様な青い空。

街道沿いには木々が生い茂り、雑多な野生の植物が花を咲かせている。

植物はどこかで見たことがあるようなものばかりで、ここが元の世界と言われても信じてしまいそうだ。


季節は日本で言うところの春くらいかな。

ぽかぽかと暖かく、絶好のハイキング日和。

ハイキングなんて学校行事でしか行ったことないけどさ。

空気も綺麗で、本当に気持ちがいい。



・・・目の前に立つむさ苦しい男たちがいなければ、だけど。



「おい、兄ちゃん。これを見られたからには、ただでは帰せねえなぁ」


「なあなあ、こいつ結構綺麗な顔つきしてるぜ。そっちの趣味の奴に売れるんじゃねえか?」


「そんな客探すの、めんどくせぇよ。さっさと身ぐるみ剥いで殺しちまおうぜ」


ちゃんとお風呂入ってる?って聞きたくなるくらい汚らしい格好をした男たちが、僕の前で好き勝手なことを言っている。



タナトスさんからこの世界に送ってもらった時、僕は最初森の中にいた。

一瞬、この森から出れるのか?って不安に思ったけど、少し進むと森が開けている場所があって、街道がすぐに見つかったんだ。

今思えば、あの時ちゃんと周りを確認してから街道に出ればよかったんだけど、僕は初めての異世界に浮かれてたのかな。


ぴょんっと街道に飛び出したら、そこにはいかにもガラの悪そうな男たちがいたんだ。

かなり大きな馬車(というよりは木で出来た車輪付きのコンテナみたいなやつ)を引き連れてる集団。

総勢10人。全員武装してて、何人かは剣を抜いていた。


と言っても、僕に対して剣を抜いていたわけじゃない。

男たちは、一人の男性を囲んでいた。

地面に倒れてピクリとも動かない男性。

倒れたその周りには血が広がっている。

あの量じゃ、確実に死んでいるだろう。


そんな思わぬ街道の光景を眺めていた僕に、男たちの一人が気付いたんだ。

そして、この状況さ。



「こいつ、かなり上等な生地の服着てるじゃねえかよ。財布の中身も期待できるんじゃねえか?」


タナトスさんに貰った服は肌触りが良い。

ハッキリ言って、元の世界で着てた服(僕の服はいつも安物の古着だったけどさ)よりも全然上等な質感だ。

この男たちがそれに注目するのも分かる。

ただ、財布は持ってないんだけどね。

お金は収納魔法(インベントリって言うらしい)に入ってるから。


「こいつ、一言も喋らねえぜ。ビビっちゃって、可哀想によー、へっへっへ」


うん、僕はまだ一言も発していない。

ただ、それは状況を確認してただけで、ビビってるわけじゃないんだけどね。

いや、強がりじゃないんだ。

剣を持った人間を前にしても、僕は一切危機感を抱けないんだよ。

タナトスさんの言った通り、僕は壊れているのかな?


「オッサンに続いて、ガキか。今日はツイてるよな。臨時収入が、連続でやってくるとはよぉ」


足元に倒れている男性を蹴飛ばしながら、男の一人が言ってくる。

オッサンって、倒れて死んでいる人のことを指してるんだろうな。

て言うか、僕からすれば貴方たちも十分オッサンなんだけどね。

男たちは無精ひげボーボーで、外見からの年齢の推測は難しいけどさ。


「テメエ、何とか言えよ、おい」


僕から一番近くにいた男が、剣を突きつけながら僕に言ってくる。

余りに反応を返さない僕に業を煮やした様だ。

そうだね、状況の確認は済んだし、そろそろ話を進めるか。


「そこに倒れている方は、貴方たちが殺したんですか?」


「ああん?当たり前ぇだろうが。財布を持った死体が空から降って来たと思ったのか?ケッケッケ」


目の前の男が楽しげに笑う。

つられて、後ろにいる男たちも笑っている様だ。

いや、その冗談、僕は全然面白くないんだけど・・・。

異世界では鉄板のジョークなのか?


でもまあ、聞きたい情報はこれだけだ。

早々に事実確認も終了。

こいつらは金目当てでこの人を殺した、クズってわけだね。


「そうですか、つまり貴方たちは盗賊というわけですね」


「おいおい、盗賊たあ人聞きが悪いこと言うじゃねえかよ。俺たちは奴隷商様だぜ?」


奴隷商?

奴隷売買が商売として成り立っている世界なのか?


「へっへっへ、正確には“違法”奴隷商だけどなぁ」


「しかも、副業で盗賊もやってるぜぇ。ぎゃはははは」


後ろにいる男たちがそう言いながら、ケタケタ楽し気に笑っている。


何だよ、結局盗賊なんじゃないか。

自分たちで違法ってわざわざ付けるくらいだから、正規の奴隷商ってやつもいるんだな。

まあ、別に人は平等であるべきとか、差別をなくそうとか、そう言った考えは持ってないから、奴隷がいたところで問題はないけどさ。


「分かりました。じゃあ、貴方たちを殺しても何の問題も無さそうですね。安心しました」


「はあ?テメエ、頭イカレてんのか?丸腰でこの人数に勝てるわきゃねえだろうが!」


目の前の男が剣を振り回しながら言ってくる。

僕の言葉に怒っているというより、呆れたような表情だ。


そりゃ普通はそうだよね。

1対10だ。丸腰じゃ、絶対に勝てない。

タナトスさんにサービスで肉体の基本性能も上げて貰ったけど、精々1対1の喧嘩なら勝てるくらいの強化だろうし。


でも、この状況は僕にとっても好都合だ。

早速、タナトスさんに貰った恩恵ギフトの性能試験をすることが出来る。

相手はクズだから、何の気兼ねもいらないし。

ちょっと、楽しくなっちゃうね。


「そうですね、出来るか出来ないか、試してみましょうか」


「おい、そいつさっさと殺せよ。イカレてるんじゃ、奴隷としても売れねえよ」


後ろにいた男の一人が声を掛けてくる。

僕の言葉を真剣に取り合う気など全くない様だ。

他の男たちも、僕のことを馬鹿にしたような目で見つめてきている。


なんだろう、ちょっと、意外だ。

テメエぶっ殺してやる!とか言って集団で襲い掛かって来ると予想していたから。

この世界の盗賊って、結構冷静なんだな。

違法とは言え、商売人だからか?


「そうだな。・・・たく、動くなよ。下手に動くと、一発で死ねねぇから、痛ぇぞ」


目の前の男が、剣を大きく振りかぶる。

僕のことを袈裟懸けに切り付けようとしているのだろう。

素人目に見ても剣の腕は悪そうだけど、鎧も付けてない僕じゃ、一撃食らえば大変なことになるだろうね。


こんなところで殺されたら、タナトスさんに怒られそうだし、さっさと試すか。


「その剣で自分の心臓を刺してください」


僕がそう呟くと、剣を振りかぶった男の腕がピタリと止まる。

クルッと器用に剣の柄を逆手に持ち替える男。

そして、一気に振り下ろした。


ズブッと言った音を立てて、剣が腹部から突き上げる様に男の身体に刺さっていく。

あの角度なら、心臓も確実に貫いているだろう。

一緒に肺も傷つけたのか、男は咳き込みながら血を吐き出す。

その顔は、自分で自分のしたことが分からないといった表情だ。

そしてそのまま、男は倒れていった。


「・・・ふむ、なるほど、肋骨があるから幅の広い剣で直接左胸を刺すのは難しいですよね。だから、お腹から上に向かって刺したんですか」


男の死に様を見ながら、僕は感心してしまった。

僕のイメージでは左胸に突き立てる感じだったから。

これはこの男の知識による補正か?それともタナトスさんによる補正なのかな?

なんか、後者な気がするけど。


足元に倒れた男を観察していた目を、その後ろに立つ男たちへ向けると、こちらも全員何が起きているのか分からないと言った表情だった。

我に返って集団で襲って来られたりしたら、ゆっくり実験が出来ないし、さっさと次に進もう。


「じゃあ、貴方とそこの体格の大きな貴方。お互いの首を刎ねてください」


僕が指定した二人の男が、剣を抜きお互いに向き合う。

そして、お互いの首筋へ向けて剣を振り抜いた。


刎ね飛ばされた首が宙を舞う。ただし、一個だ。

体格の大きな方の男は、剣が首に半分刺さったまま倒れた。

首が半分以上切れているので、死んではいるだろう。


「そうか、首を刎ね飛ばされた方の人には、こっちの大きな人の首を飛ばすほどの剣の腕は無かったんですね。うーん、二人で殺し合わせるのは、場合によっては失敗しそうですね、気を付けないと」


「テ、テメエ!こ、これは一体何なんだ!」


いきなり仲間が自殺したり、殺し合ったり。

その異常な光景から、最初に我に返ったらしい男が叫んできた。

上等そうなローブに身を包んだ背の高い男。

剣を僕に向けているが、切っ先が明らかに震えている。


人を金目当てで殺すのは平気でも、自分の理解の及ばないことは恐ろしいか。

そこら辺の理屈は僕にはわからないけど、そう言うもんなのかな。


「何だと言われましても、貴方たちを殺す実験中なんですが」


「じ、実験だと!?」


「ええ、そうです、実験です。せっかくですから、貴方は最後にしましょう。では、次は貴方と貴方。自分の首の骨を自分で折ってください」


次に僕が指定した二人が、剣を放り出して、自らの顎と後頭部を掴む。

次の瞬間、メキィ!と乾いた音を立てて首が180度回転し、二人の男が倒れた。


「へぇ、想像以上にアッサリ折れましたね。首の筋肉の抵抗さえなければ、人の首を折るのにそんなに腕力って必要ないんでしょうかね?」


これで5人。

残った5人の男たちが恐慌状態に陥っているのが分かる。

しかし、逃げ出せば次のターゲットになるとでも思っているのか、動こうとはしない。

単に恐怖で足が竦んでいるだけかもしれないけど。


「じゃあ、次ですね。貴方と貴方。心臓の鼓動を停止してください」


僕がそう言った途端、指定した二人が胸を苦しそうに抑えながら地面に倒れ、暫く痙攣を続けた後、ピクリとも動かなくなった。


「不随意筋でも問題ないか。やっぱり、僕のイメージ通りになる設定にしてくれたんですね、タナトスさんは」


先程までの5人は、僕の命令に従う形で死んでもらった。

でも、今度の二人は心臓の鼓動だ。

例え命令に従う意思があっても、不随意筋の心臓は自分の意思では止められないはず。・・・でも、止まった。

と言うことは、僕の命令に従っているというより、僕のイメージが具現化されているって考えた方が良さそうだな。


じゃあ、こういうのはどうだろう。


「では、次は貴方と貴方。頭が爆発します」


ボンッ。僕の言葉が終わると同時に、二人の頭が内部から弾け飛ぶように破裂する。

首から上が木っ端みじんだ。

残された二つの胴体は、膝から崩れ落ちる様に倒れた。


「なるほど、爆発物が無くても爆発する、か。イメージが明確なら、結果に対する原因は要らないんですね。因果の法則がいろいろ狂いそうですけど、まあ神様であるタナトスさんが何とかしてるんでしょう、きっと」


僕は最後に残った男、唯一我に返って僕に話しかけて来た男に向き直る。

男は見ていて可哀想になるくらい顔面を蒼白にしてガタガタと震えている。

無理もないよね、不思議現象によって自分の仲間がどんどん死んでいったんだから。


「さて・・・」


「た、頼む、こ、殺さないでくれ。な、何でもするから。・・・あ、有り金もすべて渡す。なんだったら、警備兵に自首もする。だ、だから、命だけはどうかっ・・・」


剣を放り出して、両手を上げる男。

降参の合図はどの世界でも同じようだ。


でもね、お金はタナトスさんから結構貰ってるから特に必要ないんだよな。

まあ、あって困る物じゃないから貰うけどさ。

それに、僕は世直しをしたい訳じゃないから、自首とか別にどうでもいいし。


「うーん。でも、貴方、あそこに倒れている男性を金銭目的で殺したんですよね?」


人を殺した奴が、自分は死にたくないって言うのってどうなのよ?

自分で情けないと思わないのかな?


「お、俺は手を出してない。仲間がやったんだ!」


うわー、出たよ。

実行犯じゃないから無実発言。

直接手を下したかどうかなんて関係ないよ。

殺した集団に所属してたなら、その時点でアウトだよね。


僕が呆れた様に半眼で男を眺めていると、男が何かに気付いた様に顔に引きつった笑みを浮かべる。


「そ、そうだ。兄さん、女いらないか?俺たちは奴隷商なんだ。あの馬車の中には上物の女が二人入っている。それを兄さんにやるよ。奴隷の従属魔法もちゃんとかけてあるし、二人とも兄さんの命令は何でも聞くぜ!」


女性?奴隷の?

誰か捕まっているなら、助けておいて損はないかな?


「・・・分かりました。取り敢えず、その二人に会わせてください」


「へ、へいっ!」


男はこれで命が助かったと思ったんだろうね。

満面の笑みを浮かべながら、小走りで木製のコンテナまで走って行く。

そして、扉にかかっていた南京錠を外し、ギギギと音を立てながら扉を開けた。


僕は男に続いてコンテナに入る。

採光のための小さな穴が開いた薄暗いコンテナの中には、二人の人物が力なく座り込んでいた。

二人ともボロボロのローブを頭からすっぽりと被っており顔は見えないが、確かにその上から確認できる身体つきは女性のものだ。


「おい、お前ら。フードを取って、この方にご挨拶しろ!」


男が偉そうに二人の女性に命令する。

すると、二人はそろそろとフードを脱いで、僕に頭を下げる。


一人はサラサラとした金色のロングヘア―で白い磁器の様な滑らかな肌をした美しい女性。

少しタナトスさんを思い起こさせるが、こちらの女性はまだまだ少女らしさを残している可愛らしいと表現した方が良い顔だ。

そして、タナトスさんと決定的に違う点は顔の両サイド。

金糸の様な髪から飛び出しているのは尖った長い耳。


この人はエルフだ。

身体つきも華奢で背もあまり高くない。

剣と魔法の世界だし、いるかもとは思っていたけど、実際に会うと感動するね。


そしてもう一人。

こちらは青みがかった黒髪をベリーショートにしたボーイッシュな感じの女性。

エルフの女性よりも背は高いけど、年齢は逆に若い感じだろうか。

こちらもかなりの美形だが、美少年としても通用しそうなキリッとした顔をしている。

そしてその頭頂部。そこには三角形のフサフサとした犬みたいな耳が付いている。


この子は獣人だ。

僕はケモナーではないけど、ちょっとあの耳は撫でてみたいな。

犬とかを撫でるのは好きなんだよね。


「ど、どうですかい?二人とも、相当な美形でしょ?・・・亜人なのがマイナス点かもしれませんが、アッチの方は人間の女と変わりません。それに亜人の方が美形が多いのは、兄さんも知ってるでしょう?そんな亜人の中でもこの二人は特に上物ですよ。・・・しかもですね、実はこの二人はまだ、生娘なんですよ!高く売るために部下には絶対に手を出さないように言ってありましたからね。・・・奴隷で美人で生娘、なかなかいませんよ!」


僕に気に入って貰って何とか助かろうとしているのか、必死に喋りながら二人の女性を猛プッシュしてくる男。

いつの間にか敬語になってるし、なんか気持ち悪いな、こいつ。

しかも、仲間を部下とか言っちゃってる。

じゃあ、こいつがリーダーってことじゃないか、あの集団の


それになあ、この子たちが生娘だってそんなに強調されても。

僕は女性を強制的に手籠めにする趣味はないんだよね。

それに処女信仰も持ってないしさ。


「ふーん、で、奴隷の従属魔法って何ですか?」


僕の質問に、男が不思議そうな表情を浮かべる。

この世界では常識的な知識なんだろうか?


「兄さんは奴隷を見るのは初めてで?金持ちそうなのに、珍しいですね。・・・従属魔法は、奴隷の行動を制限するための魔法ですよ。従属魔法によって自らが奴隷の主人になれば、奴隷は反抗的な態度をとることも、命令に逆らうことも一切出来なくなります。もちろん、逃げ出すことも出来やしません」


随分と恐ろしい魔法だ。

自由意思を奪うってことじゃないか。

タナトスさんは、神様でも自由意思は束縛出来ないって言ってたのに。


「今この子たちの主人は?」


「今は俺です。一応俺があの集団のリーダー・・・ゴホッ、ゴホン・・・って、そんなことはどうでもいいことでしたね、がははは。さ、今から俺の持っている主人の権限を渡しますから」


自分でリーダーって白状しちゃったよ、こいつ。

じゃあ、例え手を下してなくても、あの男性を殺したのはこいつの命令ってことだね。

必死に誤魔化そうとして笑ってるけど、相当な馬鹿だなこいつ。


「サービスで期間無制限にしときますんで、たっぷり楽しんでくださいよ」


なんかポン引きみたいなセリフを口にしながら、魔法陣らしきものが描かかれた羊皮紙を持ってくる男。


「さあ、これに手を置いてください」


僕は男の顔をちらりと窺う。

死にたくない一心で、何とか僕に満足して貰おうとしている様だ。

この魔法陣に何らかの小細工をする余裕はないだろう。

まあ、してあっても別にいいんだけどさ。


僕が魔法陣に手を乗せると、男が小さく呪文を唱える。

呪文と共に描かれた魔法陣が輝き出し、羊皮紙を離れ空中に浮かび上がる。

暫く空中で光りながら回転していた魔法陣は、パッと一際強く輝くと、そのまま僕の胸の中に吸い込まれていった。


「これで終了です。・・・おう、お前ら、お前らの主人は誰か答えてみろ」


男が少女たちに問いかけると、エルフの少女が男を睨み付ける。


「この方よ。・・・もう、あんたみたいな下種野郎じゃないわ!」


エルフの女性が僕に恭しく頭を下げた後、盗賊の男に対して吐き捨てる様に答えた。

なるほど、この男に対する反抗的な態度。

確かに、僕に主人の権限が移ったらしい。


「下種野郎だとぅ?・・・チッ、まあいいさ。精々この方に可愛がって貰うんだな!」


既に僕のものになってしまった奴隷に手を上げるのは不味いと思っているのか、男が悔し気に言い返すにとどめる。


可愛がって貰う、か・・・この男が僕に何を期待してるのか知らないけど、僕は別にこの二人を虐待するつもりはない。

街に着いたらさっさと解放するつもりだし。

ちょっとこの世界についての知識を教えて欲しいだけなんだよね。


「じゃあ、兄さん、俺はこれでお役御免ってことで良いですかね?」


お役御免か、確かにそうだね。

コンテナから降りて早々に立ち去ろうとしている男に、僕は声を掛ける。


「ええ、良いですよ。ここら辺の死体を片付けたら、その後、自分で首を刎ねてください」


僕のその言葉に、男がポカンとした表情を浮かべた。

発言の意図を探る様に僕を見つめてくるが、死体を片付ける素振りは見せない。


ありゃ、駄目か、やっぱり。

通用するのは死のイメージに付随する行動だけらしい。

殺す前に、ここを片付けて貰おうと思ったんだけど、そう上手くはいかないか。

イメージを変えよう。


「では、後片付けは僕がしますよ。さようなら、貴方は呼吸を止めてください」


僕の命令を聞いた瞬間、男の顔が青ざめる。

胸を押さえ、肩を上下に揺らす。

必死に息をしようとしているんだろう。

でも、息は吸えない。

僕がもう吸えないことをイメージしてしまったから。


暫くすると男が地面に倒れ、エビぞりになりながら痙攣し始める。

そして、ふっと糸が切れた操り人形のように、その動きを止めた。


「さて、10人分、いや11人分ですか。死体を片付けないといけませんね。・・・あ、女性に力仕事を頼むのは大変申し訳ないんですが、手伝って貰えますか?」


地面に降り立った僕がコンテナの中を振り返ると、エルフと獣人の少女二人が顔に驚愕の表情を浮かべていた。

男の死に様に驚いたんだろうね。

でも、従属魔法で縛られているからか、素直にコンテナを降りてくる。


そして、主人と奴隷という微妙な間柄となった僕たちは、会話をすることもなく黙々と死体を片付けた。



明日日曜日に2話分予約投稿済みです。

・22日日曜日 21時 第4話

・22日日曜日 23時 第5話

よろしくお願いいたします。



「ゴーレムヒーロー 正義?何それ、美味しいの?」という作品も書いております。

http://ncode.syosetu.com/n1966ds/

よろしければ、そちらもご覧ください。

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