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psycho〜親愛なる君へ〜  作者: 山居中次
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マダラナーダの物語

  昔々砂漠の広がる、ある国に、マダラナーダという娘がいました。


  彼女はとても信心深い娘で、いつも神様にお祈りをしていました。その神様はシーダラルタと言いました。


  マダラナーダの家はとても貧しくて、病気のお父さんと、出稼ぎのお母さんがいました。


「マダラナーダ、毎朝、シーダラルタ様にお祈りをしなさい。そうすれば、お母さんはまた、お金を稼いで、暗い夜でも、お月様の導きで帰って来る事が出来るから。毎朝お祈りすれば、私たちは、いつか幸せになれる。いつも神様は見ているからね」


  マダラナーダは、言われた通りに、毎朝お祈りしました。すると、毎晩お母さんは沢山のお金を持って帰って来ました。


  ところがどうでしょう、ある朝、出掛けて行ったお母さんがその日は帰って来ませんでした。次の日も、そのまた次の日も、お母さんは帰って来ません。マダラナーダはずっとお祈りを続けました。


「シーダラルタ様、どうかお母さんを帰してください」


  そんな風にお祈りをしているうちに、病気のお父さんが死んでしまいました。


  彼女は一人ぼっちになってしまいました。


  そんなある日、国の王様と家来がマダラナーダの家にやって来ました。


「ここか、娼婦アミダラの家というのは?」


「はい、左様で御座います王様」


  マダラナーダは王様に聞きました。


「娼婦とはどういう事ですか、母は何を」

  王様の変わりに家来が答えます。


「お前の母アミダラは、男達に、愛を売っていたのだよ。これは、我が国では、掟に反する行為だ。シーダラルタの神を侮辱する行為だ」


「そんな、何かの間違いです。私達は、毎朝お祈りをしてきました。だから、もし、母が、本当に愛を売っていたとしても、神様はお許しに」


  すると王様は怒りました。


「お祈りだと、ふざけるな!お前たち家族は、税金をまったく国に納めていないではないか。ただ、祈るだけでは駄目だ。ちゃんと形として示さなければ、神のご加護などあるものか、我輩は神の代行者として、この国を治めているのだぞ、その我輩が駄目だというなら駄目なのだ」


「そんな」


  マダラナーダは泣き出しました。


「よし、連れて行け」


「はい」


  泣きじゃくるマダラナーダの腕を、王様の命令で、家来が、つかみました。


「私を何処へ連れて行くのです」


  怯えながら、マダラナーダは王様に聞きました。


「お前はこれから娼婦として働くのだ」


「そんな、それは掟に反します」


「神の代行者の我輩が言うのだから問題は無い」


  王様はそう言って、高笑いすると、マダラナーダを連れて行きました。


  マダラナーダは、王様の言う通りに、男達に愛を売りました。


  来る日も来る日も、彼女は男達に金貨3枚で愛を売りながら、泣いていました。


  男達から、もらった金貨は、全て、王様に取られてしまって、マダラナーダの元には何も残りませんでした。


「もう、死んでしまいたい。神様なんか信じない」

 

  ある日、男達に愛を売った身体を川で浄めていたマダラナーダは、そう呟いて、川の中へ入って行きました。その時です。


「死んではいけない。神を信じるのを辞めてはいけない」


  マダラナーダが、川の深みへと歩くのを引き止める様に、後ろから声がしました。振り返ると、髪の長い美しい瞳をした青年が、立っていました。


「神を信じるのを辞めてはいけない。信じるのを辞めてしまえば、あなたを見守る者がいなくなる」


  美しい青年はそう言いました。


「信じたけれど裏切られた。私は娼婦にまで堕ちた」


  マダラナーダがそういうと、青年は静かに頷いて、言いました。


「もっと詳しく、聞かせてくれないか?私で良ければ、力を貸しましょう」


  青年の優しい言葉と瞳にマダラナーダは心を開いて、これまであった全てを語りました。


  青年はまた、優しく頷いて言いました。


「あなたは間違っていない。間違っているのは王様の方だ。信じ方を間違った者は、何も信じていないのと同じだ」


「信じ方?」


「私と一緒に来なさい。あなたは、ここにいてはならない」


  青年は優しく、手を差し伸べました。


「あなたは誰?」


  マダラナーダがそういうと、青年は、優しく微笑んで答えました。


「私の名はクリス。あなたと同じ、シーダラルタの神を信じる者です」


  クリスの手を取り、マダラナーダは言いました。


「クリス、私をここから連れ出して」


  クリスは、マダラナーダを抱きよせると、「もう心配ない。一緒に行こう」と言いました。


  マダラナーダは、クリスと共に、旅に出ました。


  クリスは、行く先々で、マダラナーダの時と同じ様に悩める人々に、優しい言葉を掛けて行きました。

  病気の人には、優しくその身体をさすってあげました。するとその人は、たちまち元気になりました。

  お腹を空かせた子供には、一切れのパンをあげました。するとその子は、笑顔になりました。


  そんなクリスの優しさに、人々が集まりました。人々は、クリスからもらった優しさを、お互いで、分け合いました。マダラナーダもまた、人々と共に優しさを分け合いました。


  マダラナーダには、仲間が出来たのです。


  彼女はもう、一人ぼっちではなくなりました。


  その頃、マダラナーダがいた王国の王様は、必死で、彼女を捜していました。


「あの娼婦、いったい何処に逃げたのか?神の代行者である我輩から逃げるとは、神に逆らうのと同じことよ」


「王様、あの娼婦、クリスとかいう怪しげな男と隣国の村で暮らしておりました」


  王様の命令で、彼女を捜していた家来が、そう言いました。


「クリス?その者は何者だ」


「はい、その男は、娼婦、罪人、孤児、病人などに、声を掛けてたぶらかし、かの村で、共に生活している模様であります。男は、その中で、村長むらおさの様に振る舞っている模様。村人の中には、クリスこそ、神の代行者だと言う者さえおります」


「何⁉︎神の代行者だと!」


  王様は、怒り狂いました。


「直ちにその男を捕らえろ。そして、磔刑に掛けるのだ!」


「ははぁ」


  家来は再び、クリスの村に向かいました。


  さて、どうして、家来は、マダラナーダとクリスの居場所が解ったのでしょう?クリスの村に身をよせていた、罪人の懐に、3枚の金貨がありました。彼は、王様の家来にクリスを売ったのです。


  大勢の仲間が見守る中で、クリスは王様に捕らえられてしまいました。


「何も心配ない。あなたが信じていれば、神はあなたを必ず導いてくれる」


  クリスがマダラナーダに掛けた最後の言葉でした。


  クリスはその日の内に磔刑に掛けられて、死んでしまいました。


  愛する人を失い、マダラナーダは泣きました。村の人々も同じように泣きました。そして、あのクリスを売った罪人も大粒の涙を流して、泣きました。


「俺は、何という大罪を犯してしまったのだろうか。あの人は俺に本当に良くしてくれたのに、俺はほんの出来心で、あの人を裏切ってしまった。あの人を死に至らしめた痛みは今、俺のこの胸に疼く痛みなのか?」


  罪人はそう叫ぶと、自分の舌を噛み切って死にました。


  マダラナーダは、そんな罪人の死にも涙しました。クリスのくれた優しさは、確かに彼女の中で育っていました。そして、その優しさは、他の村人達の中にもありました。みんなの中にクリスは今も生きています。


「さあ、みんな行きましょう。私達の優しさを求めている人達の所へ」


  マダラナーダと村人は、再び、旅に出ました。彼女達を導く様に、赤い月が夜空に浮かんでいました。

夢を見ていた。僕達は、僕らを解ってもらえる誰かに出逢うために、旅を続ける。そんな夢を。

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