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psycho〜親愛なる君へ〜  作者: 山居中次
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小さな僕へ。

 風土風俗研究部として、やる事は何もなった。


 文化祭当日。俺達の展示物は、もうすでに図書室入口の掲示板に張り出してある。それを来場者が勝手に見てくれればいいため、特にやる事は何もなかった。


 誰か1人が、その掲示板の前に立って、道行く人に大声で説明すると言う案もあったが「そんな事しても、興味ない奴には退屈なだけだ」との、冷やかし帰宅部の中谷の一言で、その案は却下された。


 俺たちは、第二体育館の前で沼津の干物を売っていた。


 午前と午後の交代制で、各クラスから数人、模擬店の売り子をやる決まりがあった。それで、俺達風研部は、干物を売る事になった。午前が俺とサイコで、午後がコバとみのりんの組み合わせだった。中谷は、焼きそば屋で焼きそばを炒めた。


「沼津の干物、いかがですかー」


 やる気無く、ただ、突っ立って、午後まで時間を潰そうとしている俺とは逆に、サイコは妙に張り切って、大声を出していた。張りのあるよく通る声だった。


 その声に誘われて、それなりに客が群がる。その空気に触発されて、俺まで気が付くと、大きな声を出していた。


「干物~。干物~いかがですか~」


 声を出してみると、実に気持ちが良かった。


 お客さんもそんな俺達によく話しかける。


「ここの干物。毎年楽しみにしてるんだよ」


 感じのいい、初老のオジサンがそう言った。


「へーそうなんですか」


 俺がそう返すと、その人は嬉しそうに、「君たちは1年生かい?」と聞いて来た。


「はい」


「やっぱり。毎年、魚屋は1年生、八百屋は2年生って決まってるって聞いたことあったから」


「そうなんですか?」


 今度は彩子がそう聞いた。


 オジサンは頷くと、「やっぱり、学園祭の模擬店は見ていて気持ちがいいよ。みんな初々しくてね」と言った。


「じゃあ、また来年も来るよ。今度は八百屋でね」


 そう言って、オジサンは帰って行った。


 そんな感じのやり取りも、何と無く楽しい。


 その後も、色々な客が来て、俺と彩子は必死になって接客をした。


 交代の時間まで、後、1時間。


 客足が途切れた時、俺は、彩子にあの事を聞いた。


「サイコ、弥生は、連れて来なかったのか?」


 サイコは、あのネバついた笑みを久々に見せると、「ああ、連れてきたよ」と言った。


 彼女が弥生をこの日連れてくる。そう聞いていたから、俺は、もしかしたら、学校へ向かう電車の中で、もしくは、学校の入口で、サイコに連れられた、大石弥生に会えるかと期待していたが、この日に限って、サイコは、同じ電車に乗っていなかった。それどころか、俺よりも30分も早く来ていて、いつものように、独り、文庫本を読んでいた。


「もう、学園内に放しておいた。まあ、一通り廻ったら、ここにも来るだろう。干物売ってるからって、彼女には言ってあるから、その時私達がみのりん達と交代していたら、図書室に来るように言ってある。みのりん達にも、彼女を案内する様に、言伝ことづてはしておいたよ」


「本当にサイコは何に対しても抜け目が無いな」


 俺はサイコのそんな言動と言うか、能力に改めて関心を覚えた。


 そんな時だった。


「あっ、また、あのオバサン来たよ」


 俺達と一緒に、店に立っていた、若林先生がめんどくさそうな声を上げて、そう言った。


 そのオバサンは、毎年、この学園祭に来ては、模擬店にイチャモンを付けるクレーマーだと、先生は俺達に教えてくれた。


「あの人は相手にしなくていいよ。適当にあしらってくれればいいから」


 先生が、俺達に小言でそう言い終わると同時に、「今年はいいの入ったのかしら?」と小言の様に呟いた。


「いらっしゃいませ。何かお探しですか?」


 オバサンにサイコが素早く対応をした。


「いや、特にはないんだけどね。どれがおすすめ?」


「どれも、美味しいですよ。産地直送ですから」


「おら、そう。でも、このアジの干物、少し高くない?近所のスーパーじゃ、もっと安かったわよ」


 早速オバサンのイチャモンが飛んできた。


 サイコが一瞬、「この事?」と言いたげな眼で、俺と先生を見た。


 俺と先生は、小さく首を横に振って、やめておけのサインをサイコに送ったが、彼女は俺達に向かって、ニヤリと笑うと、直ぐにオバサンの方に向き直って、「それだけ良いものを取り扱っておりますから」と返した。


「本当?」


 疑り深い顔で、オバサンが、サイコを見るが、彼女は全く動じず、「はい、本当です」と返した。そして、「もっと安いのをお探しなのでしたら、コレなんかどうでしょう?」と、同じアジの干物の頭のないやつをオバサンに勧めた。


「これでしたら、お頭が無い分、値段もお安くなっております。見た目では、物足りないと思われるかもしれませんが、身の部分の味は、お頭ありと変わりません。そもそも、アジの干物のメインは頭じゃなくて、身の方でしょう。よっぽどの魚好きじゃない限り、頭は食べませんよね?それを考えたら、このお頭無しでも充分楽しめますし、お得です。ですから、お勧めですけど、いかようにいたしましょう」


 彼女の流れる様な説明に、イチャモンオバサンは何も言い返せないとばかりに、しばし考え込むと、「じゃあ、貴女がそこまで言うなら、これ、三枚頂くわ」と言って。アジのお頭無しを三枚買うと、悔しそうな顔で帰って行った。

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