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psycho〜親愛なる君へ〜  作者: 山居中次
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雑踏の中のふたり達

 色々な物を買った。


 たこ焼き。


 じゃがバター。


 伸びるおもちゃ。


 スケルトンの抱っこちゃん


 みのりんご希望のさくら棒と言う、ピンクのどでかい麩菓子。


 そして、金魚。


 それらが、我が家のリビングのテーブルの上に並べられて、祭りの余韻を醸し出していた。


 金魚はみのりんの為に、コバが捕った。


 金魚すくいにチャレンジしたはいいけれど、水槽の中で無駄にポイ(紙製の網)を動かして、すぐにダメにしてしまう、みのりんを見かねて、コバが、バトンタッチで、五匹掬い上げた。


「こ、こうやって、み、水面に水平に入れてやると、水の抵抗が少ないから、か、紙が、す、すぐには破れないんだよ」


 そう説明しながら、鮮やかに金魚を掬っていくコバを、みのりんは尊敬の眼差しで見つめていた。


「きゃーコバ凄い五匹も捕ったー。見てキム、サーちゃん。あれ?」


 みのりんが歓喜の声を上げて振り返った時、俺とサイコは、そこには居なかった。


 みのりんとコバが金魚すくいに興じている時、サイコが不意に俺の手を握って、「行こう」と言って引っ張った。


「少しの間、2人きりきりにしてみよう」


 サイコが、真っ直ぐな視線でそう言った。俺はそれに、素直に乗っかった。


「とりあえず、30分は、放置しておか」


 サイコが、イタズラっぽい笑みでそう言って、俺たちは、2人を置いて、祭りの人混みを流れて行った。


 大社の境内。鳥居を潜って、神池を渡って、本殿へと続く中門の所まで流れ着いた俺たちは、とりあえず、そこで2人を待つ事にした。


  門の石段の所に腰を下ろした時、初めて、ここに来るまでの間、俺はサイコの手を握ったままだった事に気が付いた。


「あっ、ごめん」


 思わずとっさに手を離すと、彼女も同じタイミングで、その手を引っ込めた。


「いや、こちらこそ」


 そう小さく呟くと、サイコは切れ長の眼を見開いて、黙りこくってしまった。


 しばらくそのまま、沈黙が続いた。


 しばらくそのまま、俺は祭りの人混みを眺めていた。普段、ほとんど人など居ないこの町に、どっからか、湧いて出なように人が集まる。彼らはいったいどこから来るのだるうか?多分県外からの観光客や、里帰りの一派が多いのだろう。そんな事を思いながら眺めていると、その人混みの中に、見慣れた顔を発見した。


 藤本理恵菜だった。その横に、長身のひょうきんそうな男がいたが、そいつにも、見覚えがあった。確か、常盤竜司と言ったはずだ。


 彼も同じ中学出身である。


 二人とも浴衣を着ている。


「おっ木村じゃん。何してるの?」


 竜司はそう言って、手を大きく振り上げると、ズンズンと理恵菜を連れて、こっちに向かってきた。


「何か、久しぶりじゃん。元気?」


「おっ、おう、まあな」


 中学時代、あまり絡んだ覚えがないのだが、竜司は、フレンドリーに絡んでくる。


 顔見知りはみんな友達。という人種だろうか。


「いやー、理恵菜から、ちょくちょく会うって聞いてたんだ。何か、あれだって、いじめられっ子を助けたんだって?えらいじゃん」


「まっ、まあな」


 何だか、グイグイ来る。その感じに、俺はデジャブを感じる。すると、そのデジャブの正体は、モノの数秒で、顔を出した。


「あっそうそう。お前、高山実たかやまみのると同じ学校だって?」


「えっ常盤、高山のこと知ってるの?」


「おうよ。俺たちゃ従兄妹だ」


 みのりんと竜司が従兄妹。思わず納得した。


 彼女も、顔見知りはみんな友達という人種だ。


「今日、今ちょっとはぐれてるけど、一緒に来てるんだ。よかったら、会ってくか?」


 俺がそう言うと、竜司は「もうさっき会ったよ。あいつ、バカだけど、悪い奴じゃねえからよ。これからもよろしく頼むは」と言って、ゲラゲラと笑い始めた。


「なんか、感じの良い娘だよね。話し安いし」


 笑う竜司の横で、理恵菜がそう言う。


「そうか?」


 竜司は、ヘラヘラと、そう答える。


「ごめんね木村。デートの邪魔して」


 理恵菜が俺の方を向いて、そう言うと、竜司が「デート?」と言って反応して、その時初めて、彼は、サイコの存在に気が付いた。


「初めまして、木村君と同じ学校に通う、藤村彩子と申します。以後、お見知り置きを」


 石段に腰掛けていたサイコが立ち上がり、大人びた態度でそう言うと、深々とお辞儀をした。


「あっ、初めまして、藤本理恵菜です」


 サイコの行動に、理恵菜も思わずかしこまり、つられるように、小さくお辞儀をしたていたが、竜司の方は、そんな空気をもろともせず、「あっ俺、常盤竜司よろしく」と軽いノリで、握手を求めた。


「よろしく」


 サイコがそれに素直に応じると、竜司は急にソワソワとした態度になった。口数も急に減った。


「藤本さんの事は、彼から、少しばかりの噂程度に伺っています。あと、大石弥生さんの事も」


 サイコの口から、弥生の名前が出た事で、理恵菜が驚いた顔になった。


 そんな理恵菜をサイコは、あの鋭い視線で射抜くと、「当時は色々とご苦労と、ご心労なさったようで」と続けた。


 理恵菜が口籠る。言葉が浮かばず、何を喋っていいのか解らないと言ったところだ。


「まあ、彼も今は反省していますし。藤本さんのおかげで、友人を1人救うことができました」


「そうなんだ」


 理恵菜がやっと言葉を発した。


 それを見て、サイコが穏やかに笑う。


 理恵菜は思わず口走った。


「藤村さん、弥生ヤヨに少し似てる」


 サイコのその笑顔に理恵菜は不意に、弥生の面影を見た。


「それは多分、他人の空似でしょう」


 サイコがそう言うと、理恵菜は小さく微笑んで、小さく頷いた。


「じゃあ、あたしたちもう行くね。木村ごめんね。邪魔して」


「いや、いいんだ。別に、藤村とはただのクラスメイトだし」


 そう言うと、理恵菜が少しムッとした表情をした気がした。


 それとは対照的に、竜司は嬉しそうに。


「あっそう。じゃあ、彩子ちゃん今度僕と」


 と、サイコにせまろうとした。


 その時、竜司の脇腹に理恵菜の拳がめり込んだ。


「いってー、なにすんだよ」


「バカ、行くよ」


 理恵菜が鬼の形相で、竜司をにらむと、彼は「はい!!」と言って、大人しくなった。


「ごめんね藤村さん。こんなバカ気にしなくていいから」


 そう言って、理恵菜は竜司を引きずって、また人混みの中に戻って行った。


「大石の事、まだ気にしてたのか」


 俯き加減にトボトボと歩く理恵菜の後ろをバツが悪そうに歩く竜司がそう言うと、理恵菜は黙って、頷いた。


「あんな事になるまで、何も気付いてやれなかった。理恵菜が1人で抱え込んでいるのも気が付かなかった」


 理恵菜は俯いたまま、歩き続ける。祭りの雑踏だけが空しく響く。


「大石を”殺した”のは俺たちなんだな」


 竜司のその一言に、理恵菜は、ほんの一瞬戸惑いの感情を湧き上らせたが、小さくただ、「そうだね」とだけ返した。


 ああ、そうだ、あの娘は、あの時から、私たちの前から消えたんだ。


 何度か、手紙を送ったが、返事は未だにいや、永遠に帰ってこないかもしれない。


「生きなきゃね。あたし達、この傷を抱えて。もう二度と同じ間違いを起こさないように、あの子に会った時に恥ずかしくないように」


「そうだな」


 竜司と理恵菜の2人が人混みに返って行くのを見届けると、俺はすかさずサイコに聞いた。


「なんで、藤本の事が解ったんだ?俺は前に藤本の事は話してないはずだぞ」


「前に、言ってたろ。知り合いにアドバイスを貰ったって」


「でも、それだけで」


「後は直観さ、彼女を一目見た時から、君との深い関わりがあるって思ったんだ」


「深い関わり?」


 俺がそう聞くと、サイコは不敵に笑い「そう、私怨の関わり」と言った。


「まあ、それも大分薄れていたが、そんな関わりを木村正と持っているのは、大石弥生と藤本理恵菜ぐらいなものだろう。君に切りかかったのもあの娘だ」


 俺は黙って頷いた。


「私怨の関わりが薄れたって言ったけど、確かなのか」


「ああ、多分ね。君が変わったからだよ。君が変わったから、彼女たちの私怨は行き場を失い浄化し始めたのだ。だから、小林の件に、藤本理恵菜は、少なからず協力したのだろう」


 サイコの説明に、ふと、あのノートの事を思い出した。あの、「死ね」の文字が消えた怪現象は、そういう事だったのかも知れない。


「関わりは大事にしたほうがいい」


 サイコが俺を見てそう言った。


「元が、私怨の関わりでもか?」


「感情の性質が変わったのさ。もう一度言う。君の心持が変わった事で、相手の心持も変わったのだ」


 彼女がそう口にした途端、いつかのように世界から音が消えて、時が止まった気がした。その全てが止まった世界の中で、サイコだけが際立って見えた。」


「主は言った。私は言っておく。敵を愛し、悪口を言うものに幸福を祈りなさい。そうすれば、沢山の報いがあり、あなたは救われる」


 いつか、教授が教えてくれたキリストの言葉を、サイコがサラサラと解き放った。


「敵意は敵意では抑えられない。敵意は愛で抑えられる。これが永遠の法である。か」


 仏陀の言葉で俺がそう返すと、彼女は優しく微笑んで、「君が愛する事の空しさを悲観的に思わない限り、君は愛される」と言った。


 グンっと、再び世界が動き始めた。サイコの感覚時間の呪縛は突如として解かれ、全てが元のペースで動き始めた時、急にサイコは、白目を向いたかと思うと、ガクンと首を揺らし、その場で崩れ落ちた。


 驚いた俺は、慌ててその体を抱き止めた。


「おっ、おい。サイコ?・・・藤村?・・・彩子?・・・彩子!」


 藤村彩子のの体を抱き、そう呼びかけると、彼女はすぐに意識を取り戻した。


「あ?私、今どうなってた?」


 俺の腕の中で、眼を開けると、彼女はボーとした顔で、そう言った。


「どうなってたって、いきなりぶっ倒れたんだ」


 俺がそう説明してやると、彼女は状況を理解して、「そうか}と小さく呟くと、こう続けた。


「すまない。どうやら、深く入りすぎたようだ」


「ああ、みたいだな。俺も引きずり込まれた」


「でも、私の意志じゃない。こんな事初めてだ。何の前触れもなく感覚時間に落ちるなんて」


 そう言うと、サイコは不思議そうに、眼を泳がせて、宙を仰いだ。


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