コンビニ対談
「そろそろ帰るわ。タダシ、ちょっと付き合えよ」
「うん、解った」
岡田さんは、いつも帰るとき、よく俺をコンビニまで付き合わせる。岡田さんを俺が送っていくと言えばいいのかも知れないが、彼の車に同乗して、コンビニまで行って、ガムやら、アイスやら、時にエロ本などをおごってもらいもらい、その後、また家まで送ってもっらって、そこで別れるのだから、俺が岡田さんを送るという言い方は、どこか間違っているようにも思う。
缶コーヒーをおごってもらって、コンビニの駐車場にて2人で飲んだ。岡田さんが、缶コーヒーを片手に煙草に火をつける。そのまま2人でそこにたむろした。
「お前も吸うか?」
岡田さんが冗談交じりに煙草を差し出してそう言った。
中学の時は、何と無くいきがって吸っていたが、今はもう吸っていない。一度1人になった時から。
「いや、俺、もう辞めたんで」
「そうか。真面目になったじゃん」
岡田さんが嬉しそうに、はにかむ。彼は俺が昔吸っていた事を知っている。
「なあタダシ。学校楽しいか?」
煙草の煙をくゆらせて、岡田さんが親父みたいな口調で、そう聞いてきた。
「楽しいですよ。わりと」
「だろうな。彼女も出来たら、そうだろうな」
「彼女じゃないですって。でも、あいつらと一緒にいると、なんだか落ち着くのは本当です」
本心だ。あいつら、サイコ、みのりん、コバと一緒にいると、何と無く楽しい。楽しいから、学校がかったるくない。
「そうか、じゃあ、昔は?中学の時はつまらなかったのか?」、
「中学の時っすか?かったるかったですね」
「何でだ?」
「何と無くですかね?なんか、何をやってもつまらなくて、なんか常に刺激を求めて、馬鹿やってて、意味もなく反抗して、みんなもそんな感じで、それに置いて行かれるとダサい気がして」
俺がそう話すと、岡田さんは真面目な表情で頷いて、また、「だろうな」と言った。
「俺たちも、俺と義之もそういう時期があったから、よく解るよ。理由もなくつまんなくて、意味もなく大人にたてついた事あったからな」
俺は黙って頷く。
「まあ、お前の場合。ヨッシーが死んだのも大きいのかなって俺は思ってたけど、やっぱり、そんなもんだよな」
岡田さんの言う通り、親父が死んだのも大きいのかも知れない。確かに、悲しさや寂しさはあったが、それよりも、親父が死んで、家庭生活が一変し、更に中学に上がって、新しい友達や、新しい授業など、学校生活も大きく変わったことで、今までの自分と言うものが通用しなくなる気がして、常に新しい自分を求めていた。今振り返ると、そう思える。
「どうかしてたんだと思います。ユッコにも心配掛けたし、クラスメイトも、1人、ダメにしちゃいました」
「ダメにしたって?」
「いじめで、学校来れなくしちゃいました」
そう口にした途端に、涙が溢れて来た。
岡田さんが大きくため息をつく。煙草の煙りによって、それが具現化される。
「いじめ、か」
岡田さんはそう言うと、遠くを見つめて、また1つ煙を吐いた。
「格好悪い奴がいると、馬鹿にしたくなるよな。そこに、大した悪意も無いけど、いや、だからこそ、面白く思えて、そいつの気持ちなんて、どっかに忘れて来ちまう。取り戻そうと思った時には、もう、遅くってな」
「岡田さんも誰かをいじめた事あるんですか?」
俺がそう聞くと、岡田さんは苦笑いで、「そりゃあるぜ、お前なんかより、長く生きてるからな。いじめたり、いじめられたり」と言った。
「いまだにあるかもしれんな」
「まだに?」
岡田さんの発言がとんでもない事の様に思えて、俺はそう聞き返していた。
「社会人だって、いじめはあるぜ」
「本当ですか?」
「ああ、人間ってよ、どうしたって、気の合う奴、会わない奴を選んで差別しちまうんだよ。そうなると、どうしても、相手を悪く見たり、馬鹿にしたくなったりしちまうんだ。大人も子供もそれは変わんねぇ」
「そういう時、岡田さんはどうするんですか?」
「立ち止まる。1度、相手の気持ちを考えて、そして、自分が悪いと思ったら、すぐに謝る」
「そんな事で、いいんですよね」
彼の真っ直ぐな言葉に、そう確認すると、「そんな事だぞ」と岡田さんは、嬉しそうに、そう言った。
「そんな簡単な事、子供でも出来そうなのに、なんで、あの時出来なかったんだろう?」
子供の頃、保育園で、誰かと喧嘩した時は、ものすごく相手を恨んでいたが、先生に、相手の所まで連れられて、一言「ごめんなさいの握手して」と言われるがまま、”それ”をすると、魔法の様に、恨みや妬みが消えていた。
「子供の方が、賢いんだろ。余計な事何も考えないから、自分の良さも、悪さもすぐに受け入れられる」
岡田さんの言葉に、ふと、みのりんの顔が浮かんだ。
みのりんは何も考えていない。
「今の仲間はどうなんだ?いい奴らか?」
みのりんの顔が浮かんだタイミングで、そう聞かれ、俺は思わずはにかんだ。
「いい奴らですよ。俺、昔の事、あいつらに言った事あるんです」
「それで?」
「みのりんは、昔の俺の事は解らないから、気にしないって言ってくれたし。サイコとコバは、共に向き合うって言ってくれました」
そして、サイコは涙を見せた。
ほんの数時間前の事。
その姿を思い出したとたんに、俺は彼女を愛おしく思えた。
「いい奴らじゃん。てか、愛されてるじゃん。共に向き合うって、それ、絶対サイコちゃんお前の事好きだよ」
「そうですか?}
「絶対そうだよ。俺が保証する」
そう言って、岡田さんは、力強く俺の肩を叩いた。
肩を叩かれた俺も、サイコの、藤村彩子の心が、自分に向いている事を、この時期待していた。
「愛してほしい。今、君の目の前にある、過去も、未来も、全て愛してほしい。優しい今のタダシなら、きっと出来るから」
彼女の言葉が蘇る。
岡田さんと別れて、床に付くと、夢と現の境目で、その言葉が鳴っていた。
サイコの、藤村彩子の頬の感触が、まだ手の中に残っていた。
暗がりの中、自分の部屋。
ベッドの上で、俺は、彼女の感覚の残る右手の匂いを嗅いだ。彼女の残り香が、ほんの少し感じられて気がした。




