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psycho〜親愛なる君へ〜  作者: 山居中次
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仲間達

  コバは、安藤さやかに幼稚と言われた時から、学校で、一言も喋る事が出来なくなった。けれど、不思議と、家に帰ると、言葉がでる。だから、コバの患っている症状にコバの両親も、担任も、気がつくまで、半年ほど掛かったのだと言う。


 無理もない。家では普通に話す息子が、学校で、そんな症状を発症しているなんて、コバの両親も想像もしなかっただろうし、コバの担任も、思春期のふてくされ程度に思っていたのだから。


「ぶ、ぶ、部分失語症だって言われたんだ。か、か、カウンセラーの先生が、教えてくれた。い、色んな、ば、ば、ば、場面で、しゃ、喋れなくなる病気だって」


  「でも、コバ。今は喋れてる。つっかえてるけど、喋れてる」


 みのりんが、瞳に涙を浮かべてそう言った。


「れ、練習したんだ。しゃ、しゃ、喋れるように」


「よく頑張ったね。コバ、偉いよ。でも、酷いよ、さやかって子。コバはその子のために色々したのに」


(コバは、何故か、喋れなくなった原因の女子の名前まで、喋っていた。サイコの圧が、そうさせたのかも知れない。だから、俺たちは、安藤彩の名前を知る事が、出来た。)


「正論だよ。その子の言った事は」


 泣き声混じりにコバを庇護するみのりんに対して、サイコが平然と、そう言った。


「サーちゃん、何が正論なの?コバはそのせいで傷ついて、喋れなくなったんだよ。それでも頑張って、今はつっかえて、吃ってるけど、喋れる様になったんだよ」


 みのりんが、そう言って、本気で怒り出すが、サイコは動じずに、淡々としたテンションのまま、言葉をこう返した。


「誰かの為にと思ってした事が、必ずしも、そのヒトを満足させるとは限らない」


「でも、コバの気持ちを解ってあげても良かったじゃんか?」


  サイコの言葉に、みのりんが、その向こう側にいるであろう、“あの日の安藤さやかに抗議した。それを見て、サイコは鼻で笑うと、こう言った。


「いつまでも、幼稚な小林に対して、安藤彩は、それを指摘した。ただ、それだけの事だ。決して間違っているとは、私は思わない」


「たけど、やっぱりコバは、可哀想だ」


「俺は、よく解らない」


 サイコとみのりん、そしてコバが、俺の方を見る。


「確かにコバの喋れなくなった原因がそれだったにしても、その子にとって、コバの行動が不快なものだったのならば、その子が悪いとは言い切れない」


 俺の言葉に、みのりんは、ますます悲しい顔をして、更に腕をくんで、考えるポーズを取り始めた。


「似てるんだ。俺の場合と」


「似てるって?」


 みのりんが俺にそう聞いた。


「俺の時も、そうだった。ちょっと違うけど。あの時、俺はふざけて、弥生の事をナンパしたんだ。そしたら、あいつ、怯えた眼で、俺のこと好きじゃないって言ったんだ。それが、その時は凄く腹が立って、それで、馬鹿みたいに、イジメに走ったんだ」


 弥生も、あやかも、自分の気持ちを素直に言っただけだった。その結果、弥生は、イジメのターゲットに、さやかは、図らずとも、コバから、言葉を奪ってしまったのだ。今の俺には、そう思えた。


「正論は、時にヒトを傷つける。正しく有ると言う事は、自分ではなく、誰かに合わせると言う事だ」


 サイコの言葉に、俺たちは何も言えずにその場で固まった。


「ぼ、ぼ、ぼ、僕は、や、や、やっぱり、間違ってたんだ。僕のした事が、あ、あ、安藤さんには、うっとうしかった。く、く、く、苦痛だったんだから」


 コバが、突然そう呟く。


「コバ、それは違うよ。コバは、安藤さんの為を思ってやったんだから、コバは何も悪くないよ」


 みのりんが、そう言って、コバに寄り添った。


「そうさ、小林、君は悪くない」


 サイコは、今度は、みのりんと共に、コバを庇護した。


「さっきも言ったように、正論は時にヒトを傷つける。それは、正論ですら、結局は個人論でしかないからだ。君の正義が、安藤彩の個人論にそぐわなかっただけの事だ。だけと、今は、君の正義を解ってくれる仲間がここにいる。君は決して間違っていた訳でわない」


 そう言うと、サイコは最後に「小林、今までよく一人で頑張った」と、言った。


「ありがとう。なんだか楽になれた気がする」


 コバが、どもらずにそう言った。


「約束通り、君に、マダラナーダの物語を読んでもらうよ。私は、君の事を知る事が出来たのだから、これでフェアになるはずだ」


「やったー」


 サイコの言葉に、コバではなく、みのりんが、歓喜の声を上げた。


「風研部うるさい」


 読書部の顧問、田島良子先生が、みのりんに向かって怒鳴り、それに追い打ちを掛ける様に、読書部員一同が俺たちに向かって、鋭い視線を向けて来た。それに便乗する様に、図書室に溜まっている他の文化部達も、俺たちに視線を向けていた。


「みなさん、どうもすみません」


 みのりんが、反省の見えない、ニコニコ笑顔で、形であやまる。

「チッ」

 文化部の誰かが、舌打ちをした。


 ちょうど、その時だった。図書室のドアが開いて、若林先生が入って来た。


「おっ、良かった。今日は、中山先生がいなくて、休部だから、もう、帰ってるかと思ったよ」


  そう言って、若林先生は、ニコニコと俺たちを見ると、「今日も、活動してたのかい?」と質問を投げかけた。


「自主活動です」


 サイコが、大人の顔で、そう答えた。


「今日は、コバの歓迎会なんです」


 みのりんも屈託のない笑顔でそう答え、コバが、ぎこちなく、会釈をする。


「おっ本当だ、小林君もいる」


 先生は、嬉しそうに、そう言うと、「あっそうだ、小林君、きみ、二学期から、うちのクラス。6組に来ないかい?」と言い始めた。


 何でも、今年は例年にない程、脱落者の数が多くて、本来ならば、進級時に行われるクラス替えが、学期更新時に行われるのだと言う。


「いやー。うちの学校の伝統じゃないんだけどさ、今年はいつも以上にに辞める子が多くってさ、夏休み明けには、クラス替えが必要なんだ。なんせ、5クラス分の退学者数だからね」


 先生は、残念そうな顔でそう言って、改めて、コバにクラス編入の誘いをした。


「コバ、そうしなよ。ウチらとも、こうして、仲良くなれたんだから、同じくらすなら、きっと面白いよ」


 みのりんも、引き続きの嬉しそうな屈託のない笑顔で、コバを誘う。


「きみにとっても、その方がいいと僕は思うんだ」


 先生は知っている。コバの事情を知っている。だから、こうして、彼を俺たちと引き合せようとしてくれている。


「コバ、来いよ。俺たちのクラスに」


 俺も、コバに誘いを掛ける。


 コバが小さく頷いて、「ぼ、ぼ、僕もそうしたい」と言った。


「じゃあ、小林君は、二学期から、うちの、1年6組でいいんだね」


 先生が、笑顔で最終確認をすると、コバは、また小さく頷いた。


「やったー。2学期から、コバもクラスメイトだ」


 みのりんが、笑顔を弾けさせて、そう言いながらはしゃぐと、図書部の島田がまた、にらんだ。


 コバの、俺たちのクラスへの合流が決まると、若林先生は、今度はサイコの方をむいて、「あっ、そうだ、本当は、藤村さんに用事があったんだ」と言って、小脇に抱えていた絵本を、サイコに差し出した。


「中山先生から、昨日預かっててね。君に渡すように頼まれたんだ」


「なんです?この絵本」


 サイコはそう言って、その絵本を受け取ると、パラパラとページをめくって、中身の確認を行った。


「その絵本の作者が、君の知り合いらしいんだけど、心当たりあるかな?」


「知り合い?」


 そう言って、サイコは、絵本の表紙を見て、作者名と、タイトルを読み上げた。


「いっしょにあそぼ。浅川美雪」


 読み上げて見ても、心当たりを見出せない彼女は、首をかしげると、「浅川美雪なんて人知りませんが」と若林先生に向かって答えた。


「ああ、そうか。これ、ペンネームだ。確か、本名は真鍋美雪さんだったかな?」


「えっ、美雪先生の本ですか?」


 サイコではなく、みのりんが食いついて、サイコから、絵本を奪うと、サイコがしたのと同じように、ペラペラとページをめくって、中身を確認して、「美雪先生作家になれたんだ」としみじみと言った。


「高山さんは、知ってるの?」


「はい、小学校の時の担任です」


 みのりんが、若林先生に嬉しそうに答えて、「サーちゃんも、学校は違うけど、美雪先生に教わったんです。ねっ、サーちゃん」とサイコの方を向いてそう言った。


 サイコが、小さく頷いて、「でも、どうして私にこの本を?」と先生に向かってボソリと言った。


「中山先生が言ったたんだけどね、君の為に描いたんだって。その、浅川美雪って人」


 若林先生が、そう答えると、みのりんが、サイコに絵本を返した。サイコは、みのりんから、絵本を受け取ると、もう一度、絵本のページを ペラペラとめくり始めた。


 絵本の最後のページ。本来なら、あとがきが書かれてるであろう所に、一言こう記してあったのを、サイコは見つけた。


 親愛なる君へ。


 今、君のそばで、誰かが、優しく微笑んでいますように。


「大切にします。この絵本」


 そう言って、絵本を閉じると、サイコはそれを大事そうに、胸に抱えた。


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