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②ボーイミーツクーマⅡ(すたこらさっさっさー)

少年は考える。


「ふまっ」


必死で考える。


「ふまっふっ」


生き残るための術を、必死で……。


「ふまっ、ふっ、まっ、ふまっふっ」

「お前ちょっとうるせえ!」

「ふまぁ!?」


道ともいえない道なため、もちろん整備なんてされていない。

でこぼこのがたがたで、走る身としても掴まっている身としても辛い。

『白』が身体に伝わる振動のために声を出してしまうことも、少年が余裕なく『白』に怒鳴ってしまうことも仕方のない事だろう。


ちなみに少年は何か打開策を見つけ出そうとしているが、未だに何も思いついていない。


とりあえずポーチの中に入っていた石で目眩しくらいは出来るだろうと手を伸ばす。

しかし開けたままだったポーチの中身は先程の茂みダイビングの際に、固定されてた魔力補給の試験管を除いて全て無くなっていた。


絶体絶命、という言葉が脳裏によぎるが、頭を振って振り払う。

その際、本気で落ちそうになった『白』が叫び声を上げた。


少年はこのままでは本当に死んでしまう、と通り過ぎる木に爪を突き立て、思い切り手を引く。


爪が割れ、あるいは剥がれ、手から広がる激痛に少年は表情を歪めた。


なにも自暴自棄に陥り、自傷行為に走った訳ではない。


少年の得意とする魔法は『陣魔法』と呼ばれるものだ。

陣魔法とは、魔力を込めて陣を描き、発動させるために血を塗りつけることで、陣と込めた魔力量に応じた魔法を発動させることが出来るというもの。


爪によってつけられた小さな傷は『陣』となり、割れた爪から流れた血は『陣』にかかった。

手順は整っている。

たとえ陣が横一文字という簡素なものでも、込めた魔力量が無駄に多く陣に釣り合っていないとしても、そして発動するのが暴発という形だとしても。


絶対に、何かは発動する。


「頼みますから何か起こって下さい!割とマジで!」


念じる。


そして。

傷つけた木を中心に、森全体に轟音が響き渡る。


……。


それだけ。


「うわぁぁぁ!ちくしょう!」

「グガ?グギャアァァァァァ!グギャアァァァァァ!」


『ただ凄まじく大きな音が鳴るだけ』という魔法が発動した。


一瞬、音に気を取られキョトンと熊が立ち止まったが、それで少年が取れた距離はすぐに詰められる程度のものでしかなかった。

むしろバカにされたと思ったのか、熊は怒り狂い火球をバンバン飛ばしてきた。


そこで少年に一筋の光のように名案が思い浮かぶ。

頭の上の『白』を血に塗れていない方の手で強引に掴み前に持ってくる。


「変身!こういう時こその変身だ!剣になれ剣に!分かるか?」

「ふまぁ?ふまぁ!」

「分かるの?分からないの?どっち!?でも分かってる!お前なら出来るはずだって!」

「ふまっ!ふんまぁぁぁ!」


少年の祈りが通じたのか、『白』は剣になった。

白い柄に、同じく白い剣身。

体長の数倍もある一メートルくらいの白く輝く剣が少年の手に握られていた。

柄の端に細い尻尾と毛玉がついているのはご愛嬌だろう。


少年は振り向き、白い柄を強く握りしめる。

少年の強い敵意に満ちた眼光が通じたのか、熊も警戒し立ち止まる。


両者は互いに動かない。

先に動いた方が負ける、そんな雰囲気が漂っている。

そんな緊張感の中、少年の心の内は凄まじく荒れていた。


(うあああああ!ミスったミスったミスったああああああ!ミスったっていうか失敗したああああああ!)


少年はもう一度柄を強く握る。

ギュム。

柔らかい反応が返ってきた。ぬいぐるみのようだ。

……。

この剣に殺傷能力はない。

殺傷能力どころか攻撃力がない。肩たたきすらまともに出来ないだろう。

木剣の方がまだマシだ。


しかし泣き言を言ってもどうにもならない。

せめてもの救いは、相対する熊の知能がなまじ高いだけに、見た目だけは強そうな剣を見て不用意に近づこうとしてこないことだろう。


(あーもうこの毛玉は!)


少年はこの状況の全てを『白』に押し付けていたが、少年の利き手は痛みのために使い物にならず、そもそも少年は剣など握ったことは無かった。

もしもこの白い剣が普通の剣として使えていたとしたら無謀に熊に立ち向かった少年は見るも無惨に引き裂かれていたことだろう。


じりじりと熊に悟られない程度に距離を広げていく。

あともうちょっとあともうちょっと、なんて心の中で呟き、急ぎながら慌てずゆっくりという器用ことをしていた。


このまま逃げ切れるーー!?なんて上手くはいかない。

しびれを切らした熊が火球を飛ばす。

それを合図に少年は体を翻し、また走り出す。

もちろん熊も追ってくる。


大きさだけ無駄にある白い剣はすぐに『白』に戻り、頭の上に掴まっていた。


正直、既に少年の体力は限界に近かった。

魔力の方も、先程の効率を全く考えない1発で残り僅かだ。

むしろ今まで生きていたことの方が奇跡に近い程である。


実際は熊に出会ってから10分も経っていないのだが、少年的には一時間以上走っている気すらしていた。

死んだおじいちゃんおばあちゃんが見えた気がした。

両親や、兄や妹や、お隣さん一家が見えた気がした。

楽しい思い出、悲しい思い出、今までのことが流れゆく景色とともに見えた気がした。


「いやこれ見えちゃいけないヤツぅぅぅぅ!」

「ふまぁぁぁぁ!」

「うっわ!」


『白』の叫び声にも似た声で我に返り、眼前に迫っていた木をギリギリ避ける。


「グギャブアッ!?」


ドシンという音がし振り返ると、熊が木に思い切りぶつかっていた。

鼻を打ったのか、とても苦しんでいるように見えた。


「今のうちに……」

「クガァ! ギャア!グッバァアアア!!!」


怒り狂った熊があちこちに火球を撒き散らす。

少年を見ていないのか、全く見当違いの方向にも飛ばしている。

しかし狙いが分からないだけに、背を向けて走るのは自殺行為だと、少年はそう判断した。


「でも、このままここにいても何も変わらない……」


ちらちら後ろを見ながら、後ろ向きに進んでいるが、速度は普通に歩くよりも遅い。

どうしようか迷っている間に、辺りは火に包まれていた。

火に囲まれ、これ以上熊から逃げることすら難しくなっていた。


うわぁと少年は絶望に染まった声を出し、『白』も『白』で『あ、終わった』的な鳴き声を発した。


がむしゃらに火球をばら撒く行為に飽きたのか、それとも単に必要が無いと理解したのかは分からないが、熊は口を閉じる。

起立していた状態から普通の熊のように四足歩行に戻り、まるで恐怖を煽るようにのっそりのっそり少年達に近付いてくる。


目の前には熊、右左後ろには真っ赤に燃え盛る炎。

あとどうでもいいが上には『白』。


あ。

ひらめく。


「契約しよう」

「ふま?」

「確か僕には契術師の才能があった気がする」


そう、きっとあるはず。

なぜなら幼い頃に契術師になれと、契術師である父親に強要された事があったから。

まあ、少年はそれに反抗して陣魔法を選んだわけだが。


契術とは、魔獣アニマと契約し、使役する一種の魔法のことだ。

契約した魔獣アニマには契術師の力が上乗せされ、魔力供給なども契術師によって行われるため、百パーセントに近い、またはそれ以上の力を行使することが出来る。

戦闘力を数値で表すことが出来たのならば、その計算は単なる足し算ではない。契術師と魔獣アニマで掛け算のように跳ね上がるのだ。


もちろん、誰しもが契術師になれる訳では無い。

そこには才能の有無がある。

そして少年には才能があった。


実際は契術師になるには才能があっても、他の魔法と同じく相応の努力が必要なのだが、心が通じあっている魔獣アニマがいるのなら別だ。

契術師に一番必要なのは魔獣アニマ魔獣アニマが無ければ始まらない。


通常、魔獣アニマは人と相容れるものではなく、人を害すものなのだ。

ーーそう、目の前の熊のように。

魔獣アニマに懐かれる。

それが契術師になるために一番大切なものなのだ。


だから少年は言った。

契約しよう、と。

そして魔獣アニマはそれにこう答えた。


「ふ「グギャアァァァァァ!」

「ですよね!」

「……ふま?」


少年は熊の振り下ろした腕を横に倒れることで避けた。


「あぁ!流石に敵対してる魔獣アニマと契約するってのは無理があったか!」

「ふまっ!ふまっ!」

「ちょ、頭の上で暴れんな!落ちるぞ!」

「ふまぁぁぁぁああああああ!」


『白』は『もういい!』というようにそっぽを向き、少年の首にマフラーのようなものになって巻き付いた。


そして少年は、その普通の動物では有り得ない芸当を見て、一つの答えにたどり着く。


「お前 魔獣アニマじゃん!」

「ふまぁぁぁぁ!?」


『忘れてたのかよ!』という叫び声が燃え盛る森の中で響いた。


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