7.職業、村長のじじぃ現る
勇者と名のる顔だけの取り柄の奴が襲来から、早数日。
俺はデータ修復とフィギュア修復に追われていた。
くっそ!あのバカ勇者(仮)のおかげで色々失ったじゃねーか!!
泣くぞ!!マジでギャン泣きするぞ!!
てか、あいつ追っ払ったあとにマジでギャン泣きして久々家族に怒られたわ!!
まあ、怒られたっというより罵詈雑言という苦情がドアの向こうから響き渡り俺の涙が引っこんだのだ。
黙ってドアを見つめていると最後に思っきりドアを蹴られた。
正直、蹴破られるかという勢いだった。
そして、俺はその後無言でPCを立ち上げ同じフィギュアがどこかに無いか探しまわり半日かけて探しだした。
迷わず注文カートに入れ、家族が誰も家に居ない時間を指定し即座にゲームを立ち上げた。
そして、俺は最低限の睡眠と水分を摂取しながら無双に入ろうとしていたそんなとこに……
俺がちょっとだけトイレに行ったすきに……
「オイコラ!誰だよお前!?」
「わしのことかのぉ?」
「お前しか居ねぇだろーが!じじぃ!」
「最近の若者は威勢がいいのぉ」
「……。」
俺は悟った。
いきなり、見知らぬ普通のじじぃが部屋に居たから驚いたがよく考えればわかる事じゃないか。
だって、俺の立ち上げっぱなしのPCの画面が何も写ってないんだもの。
真っ暗なんだもの!!
「ちょっと、お前さんや」
「……何?」
「お茶をもらえんかの?」
「……その前に俺の質問に答えろ」
「何かいの?」
「どっから、入ってきた?そして、お前は伝説の魔法使いとかいう設定か?」
「えぇとじゃな、あの四角いのから入ったぞ。ほっほっほっ」
のんきに笑ってんじゃねー!!
また、俺のセーブデータがピンチじゃねーか!!
何でセーブするポイントの直前でこいつ等くるの!?
また、やり直しとか流石に萎えるからやめてくれ!!
てか
「どちら様ですか?」
「わしは村長じゃ」
「は?」
「耳が遠いのかの?若いのに苦労しとるんじゃないのか?」
「おい、伝説の魔法使いという設定は?」
「なんの話をしておるんじゃ。わしは水の都と呼ばれとるソルジェンテの村長じゃ。」
「……。」
そ、村長だと……!?
今まで魔王とか王子とかそういうファンタジーな奴らしか来なかったのに、ここに来て村長!?
いや、でも村長の設定で水の都とか言っちゃってるあたりファンタジーの類に出てくる村長なのか?
普通なら言わねぇよなぁ。
いや、俺が知らないだけで海外なら有り得るのか?
「お茶はまだかいのぉ?」
「……ない」
せめてもの抵抗だ。
部屋から出て台所に行けばお茶はあるが、このじじぃの言う事を聞くのはなんかやだ。
「仕方がないのぉ。わしがいれてやろう。」
おい。
いまこのじじぃ何て言った?
いれてやろう、だと?
え?どうやっていれんの?
水筒とか持ってる感じしないんだけど?
「よっこいせと。」
そんな、じじぃ丸出しの掛け声と共に謎の巾着が出てきた。
「どこじゃったかのぉ。」
そういうと巾着に手を突っ込むじじぃ。
「これか?いや違うのぉ……お!これじゃこれ!」
嬉しそうに巾着から急須を取り出すじじぃ……
巾着から急須を……
どうなってんの!?
「お前さんにもご馳走してやろう」
そういうと巾着から湯のみを2つとお茶っ葉まで出てくる。
「あー、お湯はえーと……お!あったわい。」
さらに、やかんとランプが出てきた。
「ウォーター」
じじぃがさらっと呪文を唱え、やかんに水が注がれていく。
「ファイヤー」
またもやさらっと呪文を唱え、ランプに火がつく。
「水が沸くまでちょっと待っておくれ。」
「は、はぁ……。」
な、何なのこのじじぃ……。
え?何あの青いたぬきが持ってそうなポケットと同じ原理みたいな巾着は?
しかも、村長とか言っときながら普通に魔法使ってんだけど……。
やっぱり、魔法使い……っておい!
また、ペース持ってかれてるぞ!!
確りしろ、俺。
そうだ、普通に考えて魔法なんてあるわけ無いじゃないか。
きっと、マジックだ。
村長兼マジシャンとかいう肩書なんだよ、このじじぃ。
「何を難しい顔をしておる。お茶がはいったぞ。」
「どうも……。」
俺が頭の中でツッコんでる間に、じじぃ特性のお茶ができたらしい。
……毒もられてないだろーな。
「はよせんと、冷めてしまうぞ。」
「あ、あぁ……。」
進められて飲まないわけにもいかず、飲んでみた。
っ!?
な、なんなんだこれ!?
「めっちゃ、うまい!!!!」
「そうか、そうか。このお茶はな、わが村のソルジェンテが誇る水を使って育てたものでなぁ。近隣の村にも好評なのじゃよ。国王様に献上しても恥ずかしくない品じゃ。」
「へぇ。」
「他にも種類があるんじゃが、まだ収穫時期じゃなくて手元にないんじゃ。」
「ふーん。」
お茶を褒めたら村自慢が始まった。
しまった、じじぃがこういう話をしだしたら長いんだよなぁ……
と、思っていた俺。
予想が的中し、かれこれじじぃの話を四時間聞いている。
そして、今ようやくじじぃの話が終わった。
「ソルジェンテの事はよく分かった(気がする)けど、ちょっと質問していい?」
「なんじゃ?まだまだ、わしは伝えたい事があるからのぉ。何でもききなさい。」
「湯のみとか取り出してた巾着はどうなってる?んで、魔法使いじゃないとか言ってたけどあの水と火はどっから出てきた。」
「なんじゃ、そんな話か。巾着は魔法で見た目より容量だけ大きくなる様にしてあるんじゃ。火と水は魔法じゃよ。わしは職業は村長じゃが、魔法が使えないとは一言も言っておらんぞ。わしはホントは、村長じゃなくて昔は魔法学者を目指しておったんじゃ。」
あ、ヤバい。
何かじじぃのスイッチはいった。
「じゃが、今は村長として立派になろうと頑張っておる。ソルジェンテは、いい村でのぉ。」
あー、だめだー……。
昔話と村自慢のコンボだ。
俺がこのじじぃから解放されたのは、六時間後だった。
続く……




