面食い女子が好きになったのは普通男子
※最後巻き気味で終わります。力尽きた。
突然ですが、私メンクイなんです。
イケメンだったら二次元でも三次元でも愛せます。多少性格に難ありでも全然大丈夫です。俺様ヤンデレツンデレ拗らせナルシスト電波なんでもござれです。
なのになのに!
私が好きになったのは黒目黒髪中肉中背どこをとっても平々凡々普通男子なんです!!!
一体どうしてこうなった!?
大好物のイケメンが目の前でキラキラしているのにぜんっぜんときめかない。目の端に映った彼の後姿に心が奪われる。彼はどこにでもいるような男の子で私がこよなく愛しているイケメンなんかじゃないのにーー!!
***
新学期、クラス替えのある二年生になり始めて登校した日に私は彼に出会った。
第一印象は有名な猫型ロボットが出てくる作品のちょっとヘタレで泣き虫で、でも射撃の腕はピカイチで布団に入ると三秒で眠れるあの男の子みたいな人だなって思った。(もちろんあの作品で一番好きなのは出来過ぎ系男子くんなんだけど。)
彼───田中篤くんは、その男の子によく似ている。中身ではなく見た目が。
黒髪でメタルフレームの楕円レンズが嵌ったメガネを掛けて、きっちりと制服を着た彼を見た人は「地味」か「優等生」のどちらかにカテゴライズすることだろう。
ちなみに私は「委員長」に入れておいた。
「委員長」はその日ほんとうに委員長になり、私がひっそりガッツポーズしていたのは余談である。
彼と初めて接触したのもその「委員長業務」でのことだった。
見た目はの○太くんそっくりなのに中身は正反対で、成績優秀品行方正の優秀模範生。運動はあまり得意じゃないみたいだけど。
何事もきっちり行う彼はその日もきっちり仕事をこなすために私の元へやってきた。
「杉崎さん、数学の課題提出してくれる?」
朗らかな笑顔から放たれた爆弾に私は木っ端微塵になった。
なぜって? そんなの決まってる。
やってないからだよ!!!
私には趣味がある。いや、生き甲斐と言ってもいい。生命活動に必要なエネルギーとも言えるそれは──。
『イケメン鑑賞』
わたくし、杉崎穂花、根っからの面食い女子でして!!
顔が良ければリアルだろうと平面だろうと関係なくこよなく愛しております。
大手のアイドル事務所、若手のミュージカル俳優、新進気鋭の歌手、その他アーティスト、有名スポーツ選手などにとどまらずアニメ漫画ゲーム、ありとあらゆるジャンルのイケメンが大好物なのですっ!
私には絵心というものが損失しているので自家製産が出来ず悔しい思いをしておりますが、世の中にはあふれんばかりのイケメンが所狭しといるのでまったく問題ありませんね!
その対象は何も手の届かない画面越しのものだけではありません。クラス、学年、学校、教師…いやよく行くパン屋さん、電車で見かけるお方、すれ違った通行人、イケメン大正義の名の下にそのお顔を拝謁することが私の生きる意味なのです……!
もちろんクラスメイトのイケメン情報は常にチェックしているし、それだけではなく私の行動範囲にいるイケメンたちについても日々情報収集を行っている。
ここまで言えばわかってもらえるだろう。
……そう私はほぼ全ての時間を生き甲斐に費やしているのです!
そんな私に、課題などという無粋なものを行う時間はなかった……。
とはいえ。ただのクラスメイトである彼にはなんの関係もないことで、そもそも学生の本分は学びだ。いくら生命維持活動のためとはいえど、守らねばならないルールがある。
なので私は。
「ごめん! 終わってない!」
誠心誠意の詫び、サラリーマンの友、日本の伝統芸、DO☆GE☆ZAを繰り出した。
「えっ!? ちょ、杉崎さん!?」
いきなりどうしたのとあたふたする委員長。その様子は頭を床につけてゴリゴリ押し付けている私にはまったくわからなかったが、“女の子がこんなこと!”とか“周りに見られてるから!”とか“頭を上げてお願い!”などの狼狽え焦っている声でどうやら困っているらしいとわかった。
恐る恐る頭をあげると彼は明らかにほっとしていてなんだか申し訳なくなる。謝っていたのにさらに申し訳なくなるとは一体なにゆえ。
「とりあえず、課題まだ終わってないんだね?」
「いえす」
「わかった。じゃあ僕が手伝うから放課後一緒にやろう」
なんてことだ田中くんは天使か。…いやしかしイケメンではないな。というか私の情報収集が!
──だが元はといえば私が悪いのだ、それにも関わらず付き合ってくれるという大天使(格上げ)を蔑ろにしたらバチが当たる。
「なんだ、篤。杉崎さんの課題手伝ってやるのか?」
「……ぐっ……史哉、急に身体に乗るなよ。ああそうだよ、何か文句あるか」
田中くんにのしかかるように現れたのは我がクラスが誇るNo. 1イケメンの光里史哉くん!!(8月12日生まれO型好きな食べ物はちょっと渋めな芋羊羹!)
「あるともよ! さっき俺が助けてくれって言った時は『ダメだ』の一言で片付けたくせに!」
「お前の要求は手伝いじゃなくて丸写し、だろ。そんなやつに見せてやる課題などない」
不満そうな光里くんに対し歯牙にもかけずバッサリ言い切る田中くん。
おぉう、男前。というか私も丸写しのつもりだったんだけども。まさか一から教えてくれるとかそういうあれなんだろうか…だとしたら田中くんは神か!
「お前、それ男女差別じゃねーのかー?」
「何言ってる。そんな訳ないだろう」
「だって放課後に女子と二人っきりで勉強なんて………下心アリとしか言いようねぇじゃん!」
「は!? ち、違う僕はそういうつもりじゃ」
「慌てるあたりあやし〜なぁ? ──ねぇ、杉崎さん」
「……えっ?」
「ちょっ!」
しまった。田中くんの背後に後光(※幻覚)が見えて思わず拝んでいたから話を全く聞いていなかった。
あれ? なんで田中くん顔が赤くなってるんだろう。
「あ、ごめん。全然話聞いてなかった。えーっと課題のことだよね?」
「そう! そうだよそれしか話してないよ!!」
食い気味に教えてくれる田中くんに、拝む前に考えていたことを伝える。
「光里くんも課題やってないんでしょう? なら、一緒に放課後やれば一石二鳥じゃない?」
これは私にとっても光里くんにとっても、田中くんにとっても良い提案のはずだ。光里くんは課題をクリア出来て、田中くんは二人分の課題を受け取れる。そして私は、課題がクリア出来る上にイケメンの観察まで出来る……!
我ながらなんて素晴らしい提案なんだ!
「あー…、俺はそれでもいいけどよ…」
良いというわりには浮かない顔で田中くんを見やる光里くん。つられるように田中くんの顔を見るとそこにはなんだか複雑そうな表情をした彼が。
「だめ、だった? そうだよね、二人分教えるのは手間だもんね。あ! だったら私、一人でやるしそれでも全然…」
「いいよ! 三人でやろう」
机に乗り出すように勢いよく言う田中くんに思わず身を引いてしまったが、私はオッケーが出たことに安堵した。
よっしゃ、一石二鳥の放課後ライフ! ありがとう神様!
「……なんか、わりぃな」
「…………………気にしないで」
そんな二人の会話は再び拝んでいた私には届かなかった。
***
恙無く訪れた放課後。ちょっとチャラめな光里くんは見た目に反して地頭がいいらしく一度の説明でするすると課題を解いていく。反面、私は数学が大の苦手。国語とか社会は結構好きなのだけどどうしても数学だけは好きになれない。
そんな私に言葉を尽くして教えてくれる田中くんはやはり神だった。
いつしか私の生命線とも言えるほど大好きな『イケメン鑑賞』することも忘れて、田中くんの耳に残る心地よい声が伝える言葉だけが私を満たしていた。
「すごい! 私こんなに数学を理解できたの初めて」
「お疲れ様。杉崎さんはちょっと思い込みが強いみたいだから、そのくせを直せばもっと点数取れるよ」
「ありがとう田中くん。すっごく助かった」
どうやら私は問題文の意味を複雑に解釈してしまうようで、それが苦手意識の原因になっていたらしい。
田中くんにそこを指摘されてからもっと簡単に受け止めることを意識したら面白いくらいに問題が解けた。私はこれから田中くんに足を向けて寝れない。そのくらい感動していると、別の声が耳に届いた。
「おーいお二人さん。俺もいるんだけど」
おっと、私としたことが身近にイケメンがいるのに忘れるなんて。
「……そのまま空気読んで帰れよ……」
「おい、本音漏れてるぞ」
「あっそうそう、光里くんって頭いいんだね。一回解き方聞いただけですらすら解いて」
「そうなんだよ。こいつ頭いいくせに勉強嫌いでさ」
「へぇー。まあ私も勉強は好きじゃないけど。田中くんは見た目通り頭良いね。これからテストのたび田中くんにヘルプ出したくなっちゃうよ〜」
「え、あっ、いや、えっ」
「あははは冗談だよーそんな困った顔しないで!」
「……こりゃ前途多難だなぁ」
***
あの勉強会から田中くんとついでに光里くんとも会話が増えた。前は委員長業務でしか喋ったことがなかったんだけど。イケメンは見てるだけで良かったんだけど。
挨拶とかから始まって、世間話をするようになって、今じゃ趣味(※イケメン鑑賞は趣味ではなく義務である)の話で盛り上がるようになった。
そうやって一つずつ田中くんのことを知っていくたびに、好きな部分が増えていく。
例えば前髪をかき上げる仕草だったり自然と眼鏡を直すとこだったり数学を教えてくれる優しい声、だったり。
気がつけば、光里くんや他のどんなイケメンよりも田中くんが一番カッコよく見えるようになっていて。
これが、恋か。って、自覚した。
…………んだけど。この状態は一体なんだ。
「え、えーっと……光里、くん?」
「なぁに?」
くいっと首を傾げるイケメンしか許されないようなぶりっ子なポーズが嫌に決まる光里くんにわたくし。
壁ドン、されております。
なんで。
いや乙女が憧れるシーン、断トツ一位の壁ドンですけどこれは、あの、全然意味がわかりません!
「どうして、このかの有名な体勢を、私と光里くんで、しているのでしょうか……?」
「んんー? それはねぇ……。
俺だけを、見て欲しいから。
────かな?」
あの。目が全然笑ってなくて怖いんですが。
明らかに嘘ですよねそれ。
どうしてこうなっているのか全くわからない。ただひとつわかるのは、こんな乙女が垂涎ものの美味しい立場にいるのに、目の前に大好物のキラキライケメンがいるのに全然ときめかない。むしろ恐怖さえ覚えている自分がいることだった。
「杉崎さん!!!」
恐怖で動けない私と、そんな私を感情の読めない瞳でじっと見つめてくる光里くんが作り出す可笑しな空気を壊す声。
私の大好きな、声。
「助けて田中くん!」
田中くんは声が届くと速度をあげて駆け寄ってきた。そして私から光里くんを引き剥がすと、レンズの向こうの瞳を冷たく光らせて睨む。
「なにしてんの史哉」
「ハハッ、こんなのただの冗談じゃん」
そのわりには瞳がだいぶ怖かったですが…。
「そんな言い訳、信用するとでも?」
「はいはい。負け犬はさっさと退場しますよ……あ、でもこれだけは言っとくね。
杉崎さん。俺、君が好きだよ」
はっ!!!??!
巨大な爆弾を投下して颯爽と去っていく光里くん。
突然のことに私、ついていけません。いやさっきから全然ついていけてませんけど。
「はぁ〜。あいつに先越されるとは……」
「あの、田中くん、あれは一体どういうこと……?」
片手で髪をぐしゃっとしながら妙に色っぽいため息をつく田中くん。この場で事情がわかっているのは彼しかいない。
「まあ、それは置いといてさ」
え、置いといていいの。置いといちゃうの。
「僕も杉崎さんに言いたいことあるんだ」
「……はぁ」
「僕も、……ううん。
僕は、杉崎さんを初めて見たときから気になってた。最初に喋ってから仲良くなってもっと気になるようになった。
好きです。僕と付き合ってください」
こんなん、容量不足でブラックアウトですわ。
──あれからどうなったって? ふふ。……世界一、かっこいい彼氏が出来ました!
リア充爆発END
キャパオーバーなのに容量不足とはこれいかに。他にもツッコミどころ多数……。
お読みくださりありがとうございました。