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創世の龍が愛した神父と導かれし者の物語  作者: ナギノセン
移ろいの日々 ローテンベルグ編
98/682

第94話 -試食-

20170914 見直しました。

「みんな、冷めちゃうからそろそろ食べようよー」

 ヴォルト一家のコンラード母さんが、何時まで経っても始まらない夕餉に業を煮やして登場だ。

 しかしヴォルト父さんは、気がつけば一人で既にイノシシ肉へと喰らいついている。

 どこへ行っても肉食大巨人ぶりは変わらない。

「そう言えば、モグッ、サンド、コンラー モグッ ド、お前ら、体調は、大丈夫、モグッ なのか」

「食うか喋るかどっちかにしろよ」

「僕もコンラーモグッドなんて名前じゃないよー」

「普段と比べてどんな感じだ?」

 肉を飲み込んだヴォルトが改めて尋ねた。


「まだ、力が少し入りにくいな」

「同じく僕もだよ」

 二人とも、右手を握ったり開いたりと同じ様な動作をして答える。

「その点、宿を取ってもらったのは本当にありがたかったな。おっさんに感謝だ」

「野営とは全く回復度合いが違うからねー」

「二人共、今日はしっかり休養しろよ。料理の方も、もう少しましな肉を用意してくれていたら良かったんだが、任務中だから贅沢は言えんな」

「だったら、自前で用意しなければならない僕が注文しようか?」

 リオンが気を利かせる。


「いや、それは止めておけ。お前も一応衛兵見習いだ。じじいは、ああ見えてこう言うところにはうるさいからな」

「……だね」

 そしてヴォルトもね、とリオンは心で付け加える。

「何か言いたそうだな」

「いや何も――けど注文出来ないのなら、今持っているのはどうかな?」

「お前の携帯食料か?」

「そうだよ」

「此処に来るまでは、お前だけ自前で用意しているのが心苦しくて話をしにくかったのだが、実はすごく気になっていたんだ」

「だったら聞いてくれれば良かったのに」

 リオンはヴォルトの食いつき振りに笑いながら腰の革袋を外して机に置いた。


「お前の携帯食料は、冒険者用の物でもないだろう?」

「良く気づいたね」

「そりゃ俺たちの物と全く違うからな。結構柔らかそうな肉があったよな? あれで良く傷まないな?」

「これはサーシャが特別に作ってくれた物なんだ。その辺りもかなり考えているんだよ」

「そう、これだこれ」

「―――本当に携帯食料か? とても凝っているみたいだが」

「結構水分を残っているねー。これで良く日持ちがするよね」

 リオンが残っていたシカ肉の燻製と調味料を机に広げるとヴォルト達の目が輝き 三者三様の感想を漏した。


「周りに殺菌効果の高い薬草を巻いて作ってくれているからだよ。でも今日がギリギリくらいって彼女は言っていたかな」

「五日間持つのか。大したものだ」

 ヴォルトが素直に感心を示すと、リオンは自分のことが褒められたかのように喜んで嬉しそうに説明を始めた。

「味も大したものだと思うよ。何たってサーシャ自慢の渚亭の味だから、折り紙付きだよ」

「渚亭?」

「そうか、ローテンベルグだと月見亭の方が分かりやすかったかな?」

「月見亭は町でも評判の店だ。何度か行ったことはあるが、お嬢ちゃんとどう関係しているんだ?」

「実は――」

 リオンが、ダイク家と月見亭、渚亭のことをヴォルトらに説明をすると、肉食大巨人の目が更に輝いた。


「じゃあ、試させて貰おうか。これだけ期待させて空振りは勘弁だぜ」

 ヴォルトを皮切りに、他の二人も鹿肉に手を出した。

「何だこれは!?、本当に携帯食料か? 無茶苦茶美味いぞ!」

「まったくだ。俺達のとは比べ物にならないな」

「へー、サーシャ様って料理の名人だったんだねー」

「いやそれだけではきっと無理だ。リオンが薬草の効果を教えているからじゃないか?」

「そうでもないよ。少しは教えたけど、彼女がほとんど自分で考えたものだよ」

「だったら尚更大したものだな、あのお嬢ちゃんは」

「でもこれは時間が経ってるから、相当味が落ちている状態だと思うよ」

「これでか?」

 サンドが驚きの表情を浮かべる。


「どうしても腐らさないために薬草の量を増やしているから、余計な味が移っちゃってるね。一日目に食べたのが一番新鮮で美味しかったと思うよ。いや、三日目も意外と熟成して味が乗っていたかも?」

「それを是非とも食ってみたかったぜ!」

 ヴォルトの悲痛な叫びが料理への感想のすべてだ。

 帰ったらサーシャへ必ず伝えようとリオンは考えた。

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