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創世の龍が愛した神父と導かれし者の物語  作者: ナギノセン
移ろいの日々 ローテンベルグ編
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第80話 -無欲-

20170820 見直しました。

「まったく騒々しいガキだよ。お前さん、今日取りに来たものを忘れちまってるんじゃないかい?」

「あっ!」

「思い出した様だね、ほんと脳みそ筋肉だねぇお前は」

「うるせぇ。これからは錘を着けるから両腕の負荷が上がるんだったな。ガザリー、悪かったな」

「そう言うことさ」

「だったら尚更こいつは俺が使うことにするぞ」

 ヴォルトは、見た目以上に重量のある青白く光るブロードソードを手に取った。


「それが良いよ。僕には使いこなせないし、宝の持ち腐れになってしまうのも勿体無いからね」

「ガザリー、代金はツケで頼むわ」

 かなりの額になることは明らかで、ヴォルトが一括で払えるものではない。

 彼が錘等の売り込みを手伝うことを考えれば、彼女には回収の見込みが直ぐに計算出来た。

「気長に待ってやるよ。しかしリオン、お前さんはほんと欲が無いね。こいつはうちの店の鍛冶師渾身のオーダーメイドだよ。これだけの業物を見せられたら、多少無理をしても手に入れようとするのが普通だと思うのだけど」

「無理をして使いこなせる人はそれで良いと思いますが、僕にはそこまでの思いも力もありません。スリングショットが使えないのは考えられないから」

「もう二度とお目に掛かれない代物だよ。本当にいいのかい?」

 ガザリーは何故か執拗にリオンを誘惑するようなことを繰り返すがリオンに迷いは無かった。


「そうなのでしょうけど危険を冒してまで戦い方を変える程のものとは思えません」

「取り敢えず手に入れて、どこかで高く売ってしまうとか考えないのかい?」

「商人ならそれが正しいのかもしれませんが、僕は冒険者です。ヴォルトやガザリーさんの好意を穢す様な行為は出来ません」

「まったく、欲と言うものがないのかね、お前には」

「確かに、こいつからはそう言う俗っぽい臭いをあまり感じないな」

「・・・・・・臭いって、何?」

「リオン、お前さ、今まで儲けたなって思ったことあるか?」

「それ位あるよ! セダンの渚亭で、サーシャが料理の鹿肉を一切れ多めに入れてくれた時とか、偶々オークに出くわして討伐クエストが出来たりとか」

 力一杯答えたリオンにヴォルトは顔に手を当てているし、ガザリーはやれやれと言わんばかりに大きな溜め息をついた。


「お前、本気で言ってる? もっとでかいことはないのか? 金貨千枚枚の宝箱を見つけたとか、ああ、お前なら十枚でも良いや」

「そいう言えば―――」

 金貨と言われて、少し前にヒューが活動資金を援助してくれたのを思い出した。

 それは今も彼の革袋に大切に仕舞われている

「おっ、何だ? あるなら勿体振らずにさっさと言えよ」

「宝箱じゃないけど、金貨を四枚程くれるって言われたことはあったよ」

「・・・・・・四枚か、ったく、それで儲かったと思ったんだな?」

「とんでもない! どうしようかと困ったよ。だって大した理由も無くだよ、ありえないでしょう」

「理由も無くかい? それはちょっと理解できないねぇ」

 面白くなさそうに聞いていたガザリーだったが、やり手の商人らしく少し興味を惹かれたようで口を挟んだ。

「いや、先行投資って言われたかな?」

「・・・・・・誰にだい?」

 リオンはヒューの名前を出すべきか考えたが、ガザリーの視線が鋭くなった気がしたので余計な迷惑をヒューに掛けないために黙って置くことにした。


「誰でもいいじゃないですか」

「そうだね、大切なのはそこじゃない。でも気を付けるが良いよ、タダより高いものはないからねぇ」

 ニヤニヤとしたガザリーが言うと何だかとても恐ろしい感じがする。

 ヒューを信用して金貨を貰ったことに何とも言えない気持ちになったリオンが落ち着かない様子を見せるとガザリーは満足そうにヴォルトを見上げる。

「なるほど。私も気に入ったよ」

「ガザリーならそう言うと思ったぜ」

「仕様がない、特別だ。リオン、こっちへ来るがいい」

 彼女は先程剣を持って来た店の奥の倉庫へと彼を招き入れると、躊躇うリオンの背中をヴォルトが無理矢理押し込む。


「ここは?」

「倉庫だよ。壁の下側に掛けてある剣が普通の客用、上側に掛かっているのは上得意様用のやつさ」

 普通の物でもガザリー防具店なので、かなり品質の良い物が揃えてあることが分かる。

 上得意用の物に至っては、どれも刀身に曇り一つなく、冷たい輝きを放つ業物ばかりであった。

「どうして僕を?」

「あの剣はこの部屋の中にあっても五本の指に入る業物だよ。さっき脳筋が言った通り、お前の錘のアイデアで儲けが出るのは間違いない。商人としてお前にお礼をすることは最低限の礼儀さ。どれでもいいから剣を持って行くといい。いや、どれでもは言い過ぎた。適当なのを持って行くがいい」

 ヴォルトが手にしている剣は、この店の威信を掛けたオーダーメイドで、今ここにあるどの剣よりも輝きを放ち改めてその凄味を感じた。

 それに彼女がしっかりと訳を説明した上で示してくれた好意を断る理由もなかったので、リオンは有難く頂戴することにはしたのだが剣の良し悪しなど分からない。


「あのー、適当なのが良く分からないので、ガザリーさんが良いと仰るもので結構ですよ」

「そうか。ならどっちでもいいから選びな」

 彼女は脚立に昇り壁から二本の剣を外した。

 初老の女性とは思えないほど節くれだった右手に持っているのは、鍔や握りにごてごてした装飾があって、見るからに使いづらそうな真っ白な刀身をしたロングソード。

 左手に持っているのは、見事なまでに真黒な刀身をし、おどろおどろしい妖気が出ている気がする明らかに怪しいブロードソード。

「・・・・・・ガザリーさん、遊んでます?」

「さすがに分かったか」

 リオンはヴォルトが彼女をババァと呼ぶ気持ちが良く分かった気がした。


「この白いのは、値段は一番高いが全く実用性のない剣だ。こっちの黒いのは、ルグレシアス公国の闘技場で狂戦士と呼ばれた男の遺品だ。強いぞ」

「・・・・・・」

「冗談はこれくらいにして、こっちのでどうだ?」

 笑いながら彼女が改めて差し出したのは、かなり灰色掛かった刀身をした大きさは標準的なブロードソードだった。


「今までは長剣だったらしいが、お前さんの筋力を生かすには、せめてブロードソード位の重さと耐久性が必要さ。ほら、持ってみな」

 それは、ヴォルトの手にある剣よりは軽かったが、今使っているロングソードに比べれば遥かに重さがあった。

 しかし不思議と手に馴染み、興味を持ったリオンは灰白色の刀身について尋ねた。

「この色は?」

「これは材質がタンタロスだからね。鍛えているうちに色が落ちてしまったが、本来はもっと黒いんだよ。イリドスミンには敵わないけど珍しい材質だ。剣は白刃の物が多いけど、血の色が気にならなくて黒い方が良いってお客もいるんだよ。けっけっけ」

「・・・・・・血の色は良く分からないけど、何となく握り易い気がするかな」

「分かるかい、それはとてもバランスのとれた良い剣だからね。剣の握り手の後ろが少し太くなっているのは、鍛冶師が緻密に前後比重を考えてのことさ」

「うん、これならスリングショットを撃つときも、剣の握りとスリングショットを一緒に構えることがあるんだけど、いい具合に狙えそうだ」

「なら、それにしておきな」

「本当にいいの?」

「ああ、さっきの剣より全然お安いよ。持って行きな」

「本当に!? ありがとうございます! ヴォルトもありがとう!」

「おう、それで明日からのクエストも頼むぜ」

「えっ、これのお世話になることってないだろう?」

「そいつは―――どうかな?」

 ヴォルトが見せた不敵な笑みにリオンは嫌な予感がしたが、いつもの事だと自分に言い聞かせながら新しい剣を受け取った。


「一先ず大事な用は済んだ。リオン、俺はこの出来上がった錘を隊員に届けるから屋敷へ帰るけどお前はどうする?」

「僕は明日の準備がまだ必要だから、もう少し町で買い出しをするよ」

「―――携帯食料か。悪いな」

「それはもういいって。それにこんなにも良い剣を貰って逆に申し訳ないくらいだし」

「なら良かった。じゃあまたな明日な」

「うん、ありがとう。また明日」

 ヴォルトは肉食大巨人の筋肉に物を言わせて、リオンが呆れて見送る中、錘十組とあの剣を軽々と担いで帰って行った。

 リオンもガザリーに改めて礼を言って店を出ると、町の人通りはまばらになっていた。

 高級な店が多いことを覚悟してこの辺りで携帯食料等を調達すれば人目をあまり気にしなくて良いことに気づいた彼は、普段よりかなり高くついたが、落ち着いて携帯食料や包帯、切れかけの薬草類を買い求めることができ、足早に屋敷へと戻って明日に備えた。

いつもお読み頂きまして本当にありがとうございます。

どれだけ説明を入れるか悩みます(笑)

本日もよろしくお願いいたします。

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