第72話 -処断-
20170812 見直しました。
グレンはセダンに戻ると、まず修道院でレギオンに会った。
寒くなるとキャサリンの咳がひどくなるのだが、その薬はリオンが処方をしていた。
そのことを、偶然にもリオン本人から聞かされて知ったが、リオンはローテンベルグにいる。
また、ザインが罰によりセダンを暫く離れることになるのだが、ザインの一番の心配はキャサリンの体調である。
これらからグレンは、今まで通り薬を分けて貰えるようレギオンへ頼むために修道院を訪れていた。
その際にリオンがセダンへ戻ったら彼女に薬を渡し続けたいと考えていることレギオンへ伝えると、快く今まで通り薬を分けると約束してくれたのでグレンは一つだが心の重荷が取れてからキャサリンの家へと向かえた。
彼女は港町で逞しく育った女性らしく、気風が良くて大雑把で向こう見ずな性格であったが、年老いて息子と暮らすようになってからは性格も角が取れて優しくなっていた。
騒動でのザインの行動を知ってから勿論覚悟をしていたが、それでも一年間の苦役はショックだったようでグレンに縋り付いて泣いていた。
グレンもザインがなるべく早く帰って来れるよう力を尽くすと約束をして慰めるしかできず、ようやく彼女が少し落ち着いたのを確認すると、グレンは館で謹慎をしているザインの所を目指した。
ザインが居る部屋の入口には、ワルターが特別に寄越した二名の警備兵を配しているが、当初から抵抗や逃亡の素振りも一切なかったザインには必要がないものでセダン外部の者への警戒であることを知っている者は少ない。
そのためグレンが通るのを警備兵が遮ることはなく、普通に扉を開けて中へ入るとワルターとの話を包み隠さず彼へ告げた。
「御配慮ありがとうございます。ご迷惑をお掛けしますが、母をお願い出来ますか?」
「勿論だ。だから、必ず無事に帰って来て欲しい」
「はい。何度も申しますが、ここ最近、母は寒くなると咳が益々ひどくなっています。私がおりませんので、その・・・・・・薬のことが心配で・・・・・・」
「サーシャが渡していたやつのことだね?」
「どうしてそれをご存知で?」
「私も最近知ったのだよ。お前とキャサリンの面倒を見ると誓っていたのに、まったく何を見ていたのやら情けないのと同時に、リオンに感謝しているよ」
「リオン? サーシャ様ではないのですか?」
「そうか、ザインにも知らせてなかったのか。まったく我が娘ながら秘密主義にも程があるな」
グレンは、サーシャの心配りを親としては寂しく感じながら、商人としては嬉しく思うという複雑な心情を抱いた。
「あの薬は、修道院にいたリオンから分けて貰っていたらしい」
「えっ? あれはの薬は本当に良く効くと母も申しておりましたので、てっきりローテンベルグ家の伝手で、何処かから手に入れて頂いていると思っておりました」
「確かにローテンベルグはそちら方面に強い家だから、そう考えたのに無理はないが」
「リオンと言えば、偶に渚亭に来ていた若者でしたね?」
「ああ、何回かお前に会ったことがあると彼も言っていたよ」
「そうですか・・・・・・彼が」
「その彼の意図を汲んで、レギオン神父が彼の不在中は薬を分けて下さる。だから何も心配しなくていい」
「レギオン神父が―――ありがとうございます」
「礼ならリオンへ直接言いなさい」
「―――はい、必ず」
ザインはグレンへ力強く頷いた。
「これでお前の心配は無くなったということだね? では私の方からだが、向こうで見どころのある者がいれば労役が終わったら私の元へ来させなさい。悪いようにはしないから」
「それは一体?」
「考えていることは二つある。一つは、これからも交易経路を拡大するに当たり、ドワーフ国との国境の地理に明るい者は大変役に立つから是非欲しい。それがお前の眼鏡に適う者ならなお安心だ。もう一つは、お前が労役後の彼らの働き口を斡旋できることが広まれば鉱山内でも決して軽くは見られまい。私の名前はあちらでは多少知れているはずだから遠慮なく出すが良い」
「旦那様―――お礼の言い様もございません」
「いや、原因を考えれば謝らなければならないのは私の方だ。本当に申し訳ない。馬鹿な娘を許して欲しい」
途中で止めても無駄なことは良く知っていたので、グレンが頭を深々と下げるのを待ってからザインはグレンの身体を優しく起こした。
「どうぞお顔をお上げください。しかしサーシャ様にもご心労をお掛けすることになります」
「あの子の身から出た錆だ」
少し勝気だが根はとても優しい金色の髪をした少女をザインが心配すると、グレンは吐き捨てるように言った。
「―――まだまだ世間知らずな娘には、いい経験になっただろう」
「旦那様は役者としての才能は乏しい様でございますね。そんな憎まれ口を仰らなくてもサーシャ様への溺愛ぶりは町でも有名ですよ」
「それは本当か!? 誰だ一体、その様ないい加減な噂を流しているのは」
「・・・・・・私から申し上げるのもどうかと思われますが、まぎれもない真実でしょう」
渚亭で働く彼女の護衛を言いつけられていたザインの言い分にはグレンも思わず言葉に詰まる。
警備兵達も笑いをかみ殺すのに必死である。
その日から三日後、ザインの姿がセダンから消えた。
いつもお読み頂きましてありがとうございます。
脱線終了、次回から本線に戻ります(笑)。
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