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創世の龍が愛した神父と導かれし者の物語  作者: ナギノセン
移ろいの日々 ローテンベルグ編
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第64話 -湿布薬-

20170601 見直しました。


「そうですか―――にしては見事ですね。これだけの折れ方をしていれば普通は骨の位置がずれて添え木をしているだけで痛くて堪らないはずですが、骨は綺麗に納まりあなたはあまり痛がる様子もない。だけど手当をしてもらっている間はかなり痛かったでしょう?」

 マリサに向かってハンスは尋ねた。

「はい。その時は少し手荒にするよと言われて、本当に痛くて痛くて、なぜこんなことをするのかと怒りさえ覚えました」

「ハハハ、それはまた荒療治でしたね」

 マリサを見ながら笑うハンスと笑えないリオン。

 言い訳をするつもりはないが、少し手荒にするとは言ったはずだった。

 ただ彼女の了解も何もなかったことをリオンは夢中で気にしていなかった。


「本当に良かったですね、その場にケガの治療に詳しい方がおられて。この手当がなければ治るのに時間がもっと掛かったでしょうし、下手をしたら歩くことが不自由になったかもしれませんから、その方に感謝しなければいけませんよ」

「えっ? まさか・・・・・・」

「本当ですよ。サーシャ様でしたっけ? この湿布薬も彼女が作られたのですか?」

 マリサがまた何かを言おうとしたので、すぐにリオンが答えた。

「そちらは、グレン家が名代として治めるセダンの修道院で神父をされているレギオン神父様のお手製です」

「なるほど・・・・・・応急手当も大変素晴らしいが、こちらの湿布薬は更に素晴らしい。この表面にはいくつかの違う薬草を塗って効果を高めていますね? どのような配合がなされているのか知りたいくらいです。本当に良く出来ている」

 マリサの足首から剥がし取った湿布薬を手にしたハンスはまじまじと眺めて言った。

 敬愛するレギオンが大きな修道院の神父から手放しで褒められているのは勿論嬉しいのだが、この湿布薬自体そう珍しいものではないリオンには、何がそこまでハンスを感激させているのかが知りたくて、また、薬草の勉強も兼ねて彼の話を聞いてみたくなった。


「神父様、その湿布薬はレギオン神父様が丹精込めて作られているのは存じておりますが、具体的にどのように素晴らしいのでしょうか?」

「これは本当に患者のこと、それに治療をする者のことまで良く考えられている。ここまで考えられているものを私はいまだ見たことがありません!」

 ハンスは見た目より遥かに興奮していて、誰でもいいからこの素晴らしさを説明したかったので喜んでリオンに答えた。

「まず傷の熱を取るために、多分、主にミントの葉が使われているみたいですが、ミントが傷の熱を取るために葉に蓄えた水分を使います。だが貼られているうちに蒸発して効果も薄れます。また乾燥をすると剥がれ落ちやすくもなります。普通に作られている物は葉の水分が蒸発すれば終わりと考えられている。もちろんここで作るものもです。しかしこれは葉の周囲にアロエの葉肉を潰したものを塗り付けてミントの乾燥を防ぎ、効果を持続させると同時に剥がれるのを防ぐよう作られている。これはキダチアロエですか?」

「はい。レギオン神父様が数鉢お育てになられているものです」

「アロエは患者の肌にも優しい。そしてこの湿布薬は、わざわざ使われる部位毎に大きさが違うものを作っておられるのではないですか?」

「おっしゃるとおりです」

「やはりそうでしたか。ではこの切り込みはサーシャ様が入れられたのですか?」

「いえ、それは私がその場で入れました」

 手当自体はリオンとサーシャが行ったのでサーシャがやったと言ってもまったくの嘘にはならないが、湿布薬はレギオンから譲られたリオンのものであり、そのことに嘘を言いたくなかった彼は正直に答えた。


「なるほど、足首に沿って無理なく貼れるように切り込みがなされている。それも湿布薬のアロエ部分が変に重ならないように。これを良く知っている人間しかできない細工で見事です、リオン君」

「いえ、何も考えずに切っただけです」

 彼はレギオンがしていた治療を見様見真似でやっただけなので、本当に何も考えていなかった。

「リオン君、君はレギオン神父をよくご存じなのですか?」

「はい。大変お世話になっております」

「彼はすごい技術をお持ちの薬師のようですね。こんな人を私達がまったく知らないのは何故でしょうね。不思議な事があるものです」

 ハンスは首を傾げているが、リオンに分かるはずがない。

 彼が知るレギオンは、どんな病人が来ても困った顔ひとつ見せたことがない本当に凄い薬師なのだ。

 しかしローテンベルグくらい大きな町の神父ならば、もっと凄いのだろうと彼は普通に思っていた。

 またここまで褒めちぎるのは、お世辞でなければ手当にサーシャが関わったので、ローテンベルグ家への配慮だろう程度にしか考えていなかった。

 その後、色々と話をしながらマリサの手当を終わらせたハンスは、自らの湿布薬を少し恥ずかしそうに棚から出してリオンへと渡した。

「レギオン神父の足元にも及ばないけれど、早く治るから使いなさい」

「ありがとうございます。では僕達はこれで失礼します

「あ、リオン君、よかったら修道院を手伝ってくれませんか?」

 治療が終わり、マリサに肩を貸して部屋を去ろうとするリオへハンスが少し躊躇いながら声を掛けた。


「はい?」

「君達を待たせたことで分かるかもしれませんが、人手が足りていないのです。君のように治療の心得がある者が手伝ってくれるとありがたいのですが」

「ハンス神父様、お誘いは大変嬉しく思いますが、今回の手当をしたのはサーシャ様ですし、湿布薬はレギオン神父様のものです。私は何一つやっておりませんので、とてもお力にはなれそうにはありません」

 現在はサーシャの護衛クエスト中であることから、リオンはにべもなく断ったつもりだったがハンスには通じていないようだった。

「私は諦めないよ、リオン君。フフッ」

「・・・・・・ではハンス神父様、これで失礼致します」

 リオンは急に笑い出したハンスに少し怪しさを感じて強引に話を打ち切ると、寝台に座っていたマリサに肩を貸して立たせ診療室を後にした。

いつも拙作をお読み頂きありがとうございます。

人が増えて行くのを止めるのは難しいですね(笑)

本日もよろしくお願いいたします

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