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創世の龍が愛した神父と導かれし者の物語  作者: ナギノセン
移ろいの日々 ローテンベルグ編
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第59話 -侍女のケガ-

 リオンは余所者であることを自覚しているからこそ進んで宿直室に居を移し、多少屋敷が騒がしかろうと衛兵達から頼まれでもしない限り関わるつもりなど無かった。

 だが彼の視界にサーシャが屋敷から必死に走ってくるのを確認すると、すぐに裸馬の流星号の鬣を軽く握って跨り、彼女の側まで駆け寄って馬上のまま話し掛けた。

「サーシャ! 一体どうしたの!?」

「リオン! お願いっ、すぐに屋敷の図書室へ来て! 早く!!」

「サーシャ! 落ち着いて! 何があったの!?」

「お願いっ、早くっ!!」

 彼女は息を切らしながら馬上のリオンのズボンの裾を強く掴んだ。

 切羽詰まった様子の彼女の指を解いてからリオンは馬を降りると、その小さな両肩を左右の掌で落ち着かせるようにゆっくりと強く掴み、正面に向き合うようにした。

「サーシャ。分かったから、まず何があったのか教えてくれるかな」

「あっ、ごめんなさい・・・・・・マリサが屋敷でケガをしてしまったの―――」

 肩に乗せられた彼の掌の温かさと力強さに彼女も落ち着きを取り戻して話しを始めた。


 今朝のことである。

 いつもどおり使用人達が屋敷の各部屋の清掃を行っていた。

 普段はあまり使用されない図書室のような場所は五日に一度行うことになっており、それが今日であった。

 キーンの指示で図書室を担当していたマリサが脚立を使って八段組の書架の上から二段目を拭いていたところ、その棚が外れて彼女はバランスを崩して脚立から落下した。

 幸い書架自体は固定されており倒れては来なかったが、木製の棚と二段目に収納されていた二十冊近くの分厚い本が落下し、彼女がその下敷きになっていたところを物音に気付いた使用人に助けられた。

「で、ケガをしたところが薬草関係の書架で、そこを最近読んだのは僕だけ。つまり、僕が本を正しく整理して片付けなかった、または、本棚に細工をしたと疑われ、そのせいでマリサさんがケガをしたと思われている訳だね?」

「そうなの! 絶対そんなことはないって言っても、マリサ以外、誰も信じてくれないの!!」

 リオンは腹立たしさを通り越して呆れさえ感じていた。

 キーンのいつかの追い出してやる宣言を受けたのは覚えていたが、そのための布石がこれだとしたら何ともありきたりな嫌がらせに思えたのだ。

 それとも考え過ぎで本当に事故と思わなくもないが、いずれにしても先日のヒューの危惧が、形は違えど的中したと言えなくもなかった。


「事情は分かったよ。ところでケガをしたマリサさんはどうなっているの?」

「治療のために動かそうとしたけれど、骨が折れているみたいですごく痛がって動かせずにいるの。まだ、図書室にいると思うのだけど・・・・・・」

「で、サーシャはこのことを僕に知らせて、屋敷に来いと言うけれど、僕にどうして欲しいの? こうなると僕はきっと近いうちにこの屋敷には居られなくなるだろうし、今は誰も僕が行くことを望んでいないんじゃないかな―――」

「私はリオンのせいじゃないことを知ってるわ! だからみんなを説得するから、そんな悲しいことは言わないで!!」

「ありがとう、サーシャは優しいね。でもね、他の人達が僕を快く思っていないのは事実だから。それに同じようなことが今後も起こらないとも限らないし、これは君に迷惑を掛けないために屋敷から出るいい機会なんだと思うよ。実はヒューさんにも心配されていたことなんだ」

 彼は、彼女に余計な心配をさせないために今まで話すことがなかったヒューの見立てや配慮を教えた。


「リオンが、私のことをそこまで思っていてくれたなんて知らずに本当にごめんなさい。私は何も分かっていなかったのね・・・・・・」

「サーシャ、これは僕がグレン様から受けたクエストでの出来事だから、例え僕がしんどくて辛くても、君は何も気にしなくていいんだよ。だって楽なクエストなんてないのだから」

「でも・・・・・・私のせいでリオンがここからいなくなるなんて、私はどうすれば―――」

 彼女が申し訳なさで泣きそうになっていたのでリオンは慌てて慰めた。

 このまま彼女が彼のことを庇い続ければ、間違いなく屋敷内での立場が悪くなるのは明白で、彼はそのようなことは決して望んでいない。

 そのためすぐにでも屋敷を出る決心を固めたのだが、彼女の気持ちを落ち着かせると同時に今後の彼女への風当たりが少しでも和らぐようにすることを思いつき口にした。

「まだ僕が出て行くと決まったわけではないから、今はできることからやろう。マリサさんは、多分骨折をしているんだよね? 僕はそのつもりで準備をして図書室へ向かうからサーシャは先に戻っていて」

 そう言うと彼は流星号を急いで宿直室へと走らせ、添え木や包帯、鎮痛用の薬草など必要と思われるものを揃えると屋敷の図書室へ直ぐに駆けつけた。

いつも拙作をお読み頂きありがとうございます。

先程、前話を修正しました。ご迷惑をお掛けしました。

本話は、前話よりはましに書けたと思います。

よろしくお願いいたします。

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