表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
創世の龍が愛した神父と導かれし者の物語  作者: ナギノセン
移ろいの日々 ローテンベルグ編
58/682

第54話 -馬屋の悪態-

「セダンで初めてお友達になってくれたのが、リオンだったから。あの時は、初めての場所ですごく心細かったのよ。大人達の中に一人でいたところに、リオンが優しく声を掛けてくれたの」

 あたかも深窓のご令嬢が、突然外の世界へ放り出されたかのような言い振りに、リオンは思いきり首を傾げる。

 彼の記憶では、サーシャはグレンの名代就任で、セダンへ五年前にやって来た。

 彼が彼女と知り合ったのは、グレン達が屋敷の下見に来た時に、大人達に混じって掃除を手伝っていた時だった。

 今も変わらないが、彼女は人見知りすることもなく彼に話し掛けて来た。

 彼も、年下の者には優しくするようレギオンに教えられていたので、一人だけいた女の子の話相手をしてやり、二人はすぐに仲良くなった。


「リオンさんは昔から優しい方なのですね」

「・・・・・・いえ、そうでもないです」

 訂正すると後が面倒なので、サーシャの美しい思い出に協力する。

「サーシャ様、ここを曲がると厨房へ行けます」

 マリサが、屋敷本館と別館の区切りとなる廊下の角に立ち、声を掛ける。

「じゃあ、私達はお昼ご飯の材料を調達するから、リオンは先に宿直室へ行っておいて。マリサ、彼に鍵をお願い」

「はい。リオンさん、これを」

 マリサから鍵を受け取り、リオンは一人宿直室へと向かった。

 夏の盛りが近い昼時だったので、少し歩いただけで汗だくになりながら、宿直室がある建物の前にやって来た。

 小屋と言った方がふさわしい小さな建物で、隣にある馬屋の方が遥かに大きい。

 鍵を開けて宿直室へ入ろうとした時、馬屋の方から悪態をついている男の大きな声が聞こえて来た。


「―――まったく、こんなどうしようもない馬の世話、何で俺がやらないといけないんだっ。くそっ、腹が立つ」

 ピシッと鞭打つ音が聞こえ、聞き覚えのある馬の嘶きが聞こえた。

「―――俺はローテンベルグ家の馬の世話がお役目であって、余所者の馬なんて見たくないんだよ。ほら、さっさと食えよ。飼葉を貰えるだけありがたいと思えっ」

 様子が気になったので、覗いてみると―――やはり流星号だった。

 さっきの悪態は、側にいる少し腰が曲がった男のようである。

「こんにちは」

「誰だい、あんた?」

 男はリオンを怪しむように、顔を上下させて値踏みするように見る。

「先日からお屋敷(こちら)でお世話になっている者です。その馬の持ち主の知り合いです」

「ああ、セダンの・・・・・・」

 流星号が、リオンを見て馬屋の仕切りの中で嬉しそうに興奮して動き回る。

「こら、静かにしろっ」

 男が、手に持った鞭で再び流星号を叩こうとした。

「止めてください」

 すぐに男と流星号の間に割って入り、激しくしなった鞭を右腕で受け、激痛が走った。

 リオンは、錘を着けていないことをすっかり忘れており、無意識に防御では頼っていたことを知った。


「余所者は邪魔をするな。ここは俺が管理する馬屋だ」

「それでも叩くほどのことではないでしょう」

「うるさい。これは俺のやり方だ。口出しするな」

「リオン、さっきから何を揉めているの?」

 宿直室の扉が開けっ放しなのにリオンが居なかったので、声の聞こえた方へ来たサーシャが、馬屋を覗きながら声を掛けた。

「ごめん、サーシャ。流星の声が聞こえてここに来たのだけれど、どうしてもこの人が流星を鞭打つって聞かないから、話をしていたところだよ」

「鞭打つ!? どういうこと!?」

「この馬が仕切りの中で暴れて騒がしいので、他の馬に悪影響が出ています。そこで教育をしていたところに、この若いのが入って来たのです」

 馬丁は、勿論、流星号の持ち主であるサーシャのことを知っており、リオンに対する態度とはまったく違った。

「流星号が暴れて? どこが?」

 流星号はリオンに撫でられて、気持ち良さそうに目を細め尻尾を振り、大人しくしている。

「いやっ、さっきまではあんなに―――」

 馬丁は、目を白黒させてしどろもどろに説明をしたが、最後は聞こえなくなっていた。


 彼女は、流星号の側に来て声高に告げる。

「これは、サーシャ・ダイク、つまり私の馬です。そして彼は、御者のリオンです。流星号が他の馬に迷惑を掛けていたのであれば謝ります。しかし、いわれのない鞭は到底承服できません。説明をしなさい!」

 流星号の体に鞭の痕をいくつか発見し、彼女は怒り心頭に発していた。

 その剣幕に、馬丁もさすがに青ざめた。

「サーシャ様、いけません」

 その様子をまずいと感じたマリサが、慌ててサーシャを止めに入る。

 ただでさえ、余所者と使用人達に疎んじられているのに、このままでは更に溝を深くしてしまう。

「マリサ、どうして!?」

「お気持ちは分かりますが、彼の言い分も冷静になって聞いて下さい。頭ごなしでは、彼も委縮して言いたいことも言えず、サーシャ様もご判断を誤ることになり兼ねません」

「そうだね、マリサさんの言う通りだ。サーシャ、少し落ち着こうよ」

 すっかり大人しくなった流星号やリオンを見て、彼女は自分だけ怒っていることが馬鹿らしくなってきた。


「本当に何で私だけが怒っているの? 元はと言えば、リオン! 流星号! あなたたちのせいでしょ!」

 リオンは、弱り果てて怒られ仲間の馬を見た。

 もちろんそんな気持ちは分かって貰えないと思っていたのだが―――。

「きゃっ、何をするの!」

 流星号が、サーシャの顔を嬉しそうにペロペロと舐め始めたのだ。

「流星も、冷静になれって言ってるんだよ」

「―――分かったわ」

 サーシャは、一つ息をついてから馬丁に向き直り、今度は冷静に話し掛けた。

「先程は、少し感情的になってしまったようです。改めて聞きますが、何故、流星号の背中に鞭の痕があるのですか?」

いつも拙作をお読み頂きましてありがとうございます。

先週末辺りから、性懲りもなくイラストを描いており、本編の方の更新が遅れがちになっておりました。

何とかラフ位までは描けましたので、色塗りが終わればタイミングを見て掲載致します。何卒、ご容赦をお願いします(笑)

本日もよろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ