第53話 -家族-
「お二人は、本当に仲がおよろしいですね。宿直室へ行くのも結構ですが、そろそろお昼時ですので、そちらの方も考えないと」
その言葉に、サーシャが目を輝かせる。
「じゃあ、宿直室で私が作るわ。だから、何か材料を屋敷の厨房から持って来れるかしら?」
「では行って見ましょう」
彼らは厨房へと向かった。
「ところで、サーシャに一つお願いがあるんだ」
移動しながら、ヴォルトに言われたことを思い出してサーシャに聞くことにした。
「一体どうしたの?」
「昨日、サーシャに予定が入ったでしょ? それで時間が空いたので、たまたま衛兵達の訓練に参加することになったんだ」
「そうだったの。ゴメンね。お母様が出掛ける時分になって、急にお買い物に行きましょうって強引に誘うものだから。セダンではお店の手伝いとか、お母様の好きなお洋服が店にあまりなかったから、一緒に行けなかったのだけれど、ローテンベルグでは嬉しそうに誘いに来られるので、断り切れなくて」
「全然大丈夫だよ。だって、サーシャはミゼル様の付き添いでここにいるのだから、当然だよ」
「また同じようなことがあるかもしれないけど、本当にゴメンね」
「分かってるよ。それで、僕からもさっき言ったお願いなんだけど、三日に一度、サーシャとの予定が入っていない日だけでいいから、衛兵の訓練に参加したいんだ」
「訓練に?」
「うん。衛兵の一人と知り合ったんだけれど、彼は、非番にも訓練に参加をしているんだ。それに付き合いたいと思って」
「その人、非番の日にも訓練に出ているの? 変わった人ね、他にやることがないのかしら?」
確かに変人には違いない、体力も行動も。
「そう言えば、彼が非番なのに訓練に参加した後で、鳥の足を丸ごと買い食いして歩いているのは見たよ」
リオンは、豪快に食い散らかしていたヴォルトを思い出し、少し笑みを浮かべる。
「どうしてそこまで知っているの? ああ、そっか、一緒に町へ出たのね」
彼女は、珍しいものを見るように彼を見た。
「違うよ。僕も用事で町へ出て、その時に偶然会ったんだ」
「なんだ。リオンにお友達が出来たのかと思って、驚いたのに残念」
「何故驚かれるのか、よく分からないんだけれど?」
「だって、リオンたら何でも一人でやっちゃって、他人を頼らないし、お友達も必要なさそうな雰囲気なんですもの」
「そんなことはないよ。セダンに戻れば、セトもカイトもいるじゃないか」
「でも彼等は、修道院で一緒に育った家族みたいなものでしょう?」
「確かに・・・・・・」
「だから驚いたの」
なるほど、言われてみればそうなのかもしれない。
セダンでは、遊ぶのにも何をするにも、周りには修道院の仲間が常にいた。
彼女に言われて気付いたが、修道院を出て、別々に生活するようになってから、自然と彼等を友達と思うようになったみたいだ。
「セト達は、友達か家族かと聞かれれば、間違いなく家族だね」
「どうして友達って思うようになったのか不思議ね。離れて暮らすようになって、情が薄れたのが原因なら、少し寂しいな」
「そうじゃないよ。もし彼等が困っていれば、真っ先に駆け付けて、何があっても必ず助けるよ。レギオン神父様がなされるように」
「そう、それなのよ! そこも友達がいない大きな原因よ。レギオン神父様がリオンの中で、他の人を寄せ付けない圧倒的な位置を占めているの。本当に大好きなのよねー」
怪しい笑みを浮かべるサーシャに、リオンは顔を引き攣らせる。
「神父様は、尊敬してやまない師であり、父でもある。カイトは、やっぱり弟と思っているかな。でも、セトは同い年で、冒険者としてライバルになったから、兄弟って考えなくなったんだね、きっと」
「そんなリオンに、とうとうお友達と呼べる存在が出来ました。ありがとうございます、クルス神様」
彼女は、ピンクのドレスの胸の前で十字を切った。
一瞬、大きく空いている肩と胸の辺りにドキッとした。
「・・・・・・サーシャ。君、いつからそんな敬虔なクルス教徒になったの? セダンでも礼拝に来ている姿は、ほとんど見てないけど?」
「いいのよ、そんなことは。雰囲気よ、雰囲気」
「クルス神に怒られるぞ」
あまり熱心な教徒ではないリオンが言っても、まったく説得力はない。
「本当に仲がおよろしいですね、お二人は」
そうだった。マリサさんが居たのだ。
彼女は侍女らしく控え目なので、すっかり存在を忘れていた。
いつも拙作をお読み頂きましてありがとうございます。
もう少し寄り道をさせることにしました(笑)
本日もよろしくお願いいたします。




