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創世の龍が愛した神父と導かれし者の物語  作者: ナギノセン
移ろいの日々 ローテンベルグ編
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第51話 -図書室-

「いえ、以後お気を付け頂けましたらよろしゅうございますかと」

 キーンが軽く頭を下げる。

「マリサ、キーンから鍵を受け取りなさい。まずは図書室へ行きます」

「はい、サーシャ様」

 マリサが鍵を受け取ると、用は済んだとばかりに、サーシャはキーンを見ることもなく、使用人建物から屋敷の本館にある図書室へと向かって歩き出した。

 リオンとマリサは、キーンに一礼をしてからその場を離れた。

 使用人建物から本館へと入ったところで、サーシャが急に立ち止まり、振り返って尋ねた。

「二人とも怒ってない?」

「どうして?」

 マリサより先に歩いていたリオンが聞く。

「キーンさんへの偉そうな態度のまま命令をして、勝手に歩き出したから、二人が気分を害したかもしれないと心配していたの」

 申し訳なさそうにサーシャが口にした。

「何もお気になさることはございません。あの場では、自然なお振舞いでしたし、そのうちお慣れになられます」

 マリサが、特に感情を込めることもなく答える。

「そうなの? 別に慣れたいと思わないわ」

 サーシャは、げんなりとした表情になった。

「ここに居る間は、我慢するしかないんじゃないかな?」

「本当に早くセダンへ帰りたいわ。好きなお料理もできないし、変な格好はさせられるし、もう、気が滅入ってしまう」

「確かに、サーシャの料理が食べられないのは少し残念だね。でも、その・・・・・・変な格好―――ではないと思うよ」

 鼻の頭を掻きながらリオンが口にした。


「どうしたのリオン? こんなの全然私らしくない服よ。これでまた階段の昇り降りもしなくちゃいけないし、今日は宿直室まで歩くのよ。動きにくいったら」

 そう言ってサーシャは、足首まであるドレスの裾を両手で膝まで持ち上げる。

「サーシャ様、はしたないです。お止め下さい」

「マリサ、これが本当の私なの。サーシャ・ダイクなのよ。分かる?」

 渚亭の看板娘は、ローテンベルグ家の血縁と言われ、型にはめられて鬱憤が堪っているのだ。

「使用人としては、分かるとはお答えしかねます」

 マリサはあくまで機械的に答えた。

 するとサーシャは、見る見る不機嫌そうな表情に変わった。

「しかし、窮屈な思いをされていることは大変良く分かりました。大したことは出来ませんが、せめて服装はミゼル様にもご納得頂ける装いで、もう少し動きやすいものを選ぶよう心掛けます」

「分かってくれてありがとう、マリサ!」

 少しだったが共感を示してくれたマリサに、嬉しさからサーシャは飛びついた。

「サーシャ様、お止め下さい。お召し物が汚れてしまいます」

「いいわよ、どうせ慣れない格好でバタバタ歩いているから、もう手遅れでしょ?」

 確かにサーシャが階段を上がる時に、裾を踏ん付けていたことをリオンは見ていた。


「それより、早く行きましょう」

「そうだね。行こうか」

 その言葉を合図に、マリサが先頭で歩き出し、サーシャ、リオンの順に後に続いて、二階の左手一番奥の部屋の前へやって来た。

 マリサは、キーンから借りた金色の鍵で、重厚な扉の鍵を開け図書室へと先に入り、窓際のカーテンを開けた。

 サーシャとリオンも続いて入り、明るくなった部屋を見回す。

 部屋の大きさは、サーシャの部屋二分くらいあり、すべての壁際には、床から天井までの高さがある本棚がびっしりと隙間なく並んでいた。

 床には大理石が敷かれ、中央には八人くらいは余裕で本を読める大きさの机があり、あまり使われていないらしき椅子は、窓際に四脚ずつ重ねて革紐で括られて積まれていた。

 書籍独特の紙とインクの匂いと、少しだけカビっぽい臭いがしたが、リオンは嫌いではなかった。

 埃を吸ったらしいサーシャが咳をする。

「少しお待ち下さい。窓も開けます。本を傷めないために、どなたかがご使用になる日と掃除の日以外は、日の光も入れませんし、空気を入れ替えることもありませんので」

 マリサが四つある窓を手際よく開けると、気持ちのいい風が入って来て、室内の淀んだ空気を一気に浚って行った。


「色々な本があるわね。こっちは史書が中心ね。ミュルツ王国史、それに、クルス教皇国、ルグレシアス王国の史書もあるわ。ルグレシアスは、今は公国だから、結構古い本ね」

 サーシャは珍しそうに物色を始めたが、リオンは何連も書架があったので、薬草関係の書籍探しの手を付けられずにいた。

 その様子を見かねたマリサが、リオンに声を掛ける。

「何をお探しですか? そう言えば、こちらへ来られた初日に、ワルター様から入室の許可を頂いておられたのでしたね。凄いですね、リオンさん」

「グレン様がその様に取り計らって下さっただけで、僕は何もしてませんよ。そうでなければ、とてもここに入れるような身分でもありませんので」

「そんなことはないのよ。リオンにこのクエストを受けて貰うために、お父様が用意した取って置きの奥の手だったのだから」

「・・・・・・聞いてないよ?」

 初めて明かされた事実に、リオンは目を丸くした。

「だって、流星号があそこまでおとなしく従う人ってそういないのよ? あのバカ騒ぎの発端の馬丁も、良く噛まれていたわ。今となってはいい気味よ」

 ローテンベルグへ来てから、サーシャの性格が荒み始めているようだった。

「えっ? 流星ってすごく大人しいよ? あの騒ぎの時もすごく怯えていたし」

「・・・・・・リオン、あなたも見たでしょ? あの()に、何人が骨を折られたり、ケガをさせられたのよ?」

いつもお読み頂きありがとうございます。

やっと考えている道筋に戻せそうで一安心です(笑)

本日もよろしくお願いいたします。

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