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創世の龍が愛した神父と導かれし者の物語  作者: ナギノセン
移ろいの日々 ローテンベルグ編
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第46話 -大剣初体験-

 ガザリーは、反対側の留め具も外したところで一瞬動きが止まる。

「さっき言ったことを少し訂正するよ」

「何のことだ?」

 ヴォルトが彼女の手元を覗き込んで尋ねた。

「細工が無いって言ったけど、どうも削られているだけで何か紋様があったみたいだね。それにこの黒い汚れは煤だ。どうして煤が着いたのか分からないが、結構使われていた形跡があるね」

「ふーん、まあ鎧だし使って何ぼだろう?」

「そうなんだけどね・・・・・・」

「まだ何か気になるのか?」

「いや、多分気のせいだろう。さっさと直すよ」

 彼女は部屋の奥にある戸棚から三種類の革を取り出してリオンの前に置いた。

「どれがいい?」

 どの革も、色は裂けてしまった革を明るくしたような焦茶色だったが、触った感じでは、それぞれ厚みと硬さが微妙に異なった。

「水が染み込まなくて、しなやかなやつはどれですか?」

「これだね。しかし意外だったね、頑丈なのを選ぶと思っていたのだけれど」

「これは薬草入れなんです。だから物の出し入れがしやすい革が良いので」

「でもこの裂け目は、剣によるものだろう? 防具としても使ってるんじゃないのかい?」

「偶々です」

「そうなのかい。まあ、硬い金属だからそこそこの武器は防げるだろうけど、面積が小さいから無理はしないほうがいいね」

「はい」

「じゃあ、これに合うように革の裁断やら縫製が必要だから暫く預かるよ。そうだね、ちょっと重さに手こずりそうだから四日、いや五日後にでも来ておくれ」

「あの、お手伝いに来ましょうか?」

 先程の光景を思い出して、申し訳ないので言ってみた。

「冗談じゃない。お前さんみたいなでかい男が、四六時中、店の中にいたら邪魔で仕様がない。お客も入って来やしない。結構だよ」

 そこまで言わなくてもと思うが、狭い店だから無理はない、とリオンは頷いた。

「それと修理の間、もう片方は外しておくんだよ」

「どうしてですか?」

レギオンから理由も無く外さない様に言われているので、彼には聞く必要があった。

「そんなことも分からないのかい。やっぱり、バカなのかいお前さん? 筋肉のバランスがおかしくなってもいいなら着けておきな」

「なるほど、教えて頂いてありがとうございます」

「バカだけど素直なのは良いことだよ」

 褒められてるのか貶されてるのか、まあ、両方だろう。

「用は済んだな? じゃあ帰るぞ」

 ヴォルトは、もう店を出て行こうとしていた。

「じゃあ、すみませんが五日後に取りに来ますのでよろしくお願いします」

「安心して任せておきな。しっかりとお代を忘れずに持って来るんだよ」

 この人は最後までお金の心配をしているな、まあ、無理はないか。

 少し手付でも払ったらよかったかと思ったものの、既にヴォルトは店を出て歩き始めていたので、挨拶もそこそこに急いでリオンもヴォルトの後を追った。

 彼は、大股で闊歩してかなり前を歩いており、追いつく頃には広場に辿り着いていた。


「そんなに急いでどうしたんですか?」

「戻ったら衛兵舎に付き合え」

「どうしてです?」

「お前、今なら俺の大剣(ファルシオン)が使えるだろう?」

「使えるかは分かりませんが、持つくらいなら出来ると思います」

「よしっ、決まった! お前が大剣、俺が長剣、訓練の時と反対で手合せしようぜ」

「えっ、またですか?」

「何だ、文句があるのか?」

「いつもいきなりだなぁと思って」

「確認したいことがあるんだよ。いいから付き合え」

「何を確認したいのですか?」

「面倒くせえから後で説明するわ。暗くなる前に始めるぞ。急げ」

 そう言うと、彼はいきなり走り出し、広場を突っ切り坂道を一気に駆け上がって行った。


 リオンは、両足と右手に錘を着けており、とても彼に付いて行けるスピードでは走れないが、可能な限りの速さで後を追った。

 屋敷の門では、まずヴォルトが坂道の勢いそのままに衛兵の制止も聞かず通過した。

 例え衛兵仲間とは言え、入退所の確認は免除されない決まりなのだが、ヴォルトの勢いを恐れて制止できなかった衛兵を責める者はいなかった。

 すぐ後ろから来たリオンは、形だけだが、門で帰所の報告を兼ねた挨拶をした。

「サーシャ様の付き人リオンです。ただいま町から戻りました」

「ご苦労。さっきヴォルトが凄い勢いで走って行ったが、奴と一緒だったのか?」

「ええ、まだこれから衛兵舎で手合せをすることになりました」

「これから? またえらい奴に気に入られたな」

 リオンの口から乾いた笑いが出た。

「はは、いつもあんな調子ですか?」

「まあな。もう通っていいぞ。早く行かないと奴が癇癪を起して、後でこっちにもとばっちりが来そうだからな」

 ここまで厄介者の地位を確立していることに、リオンはある意味、ヴォルトを尊敬しそうになった。

 衛兵の言葉に従って衛兵舎へ急ぐと、ヴォルトが大剣と長剣を倉庫から取り出して、石畳の上に置いているところだった。


「おい、足にも錘を着けてるのは知っているが、それでも遅すぎるぞ。どこで油売ってやがった」

「真っ直ぐここに来ましたよ。右手だけ錘があって、走りにくいんですよ。それにヴォルト速すぎです」

 門番との遣り取りなど教える必要はない。

「ふんっ、まあいい、とっとと始めるぞ。言ったようにお前は大剣な。そうそう右手の錘を外すのを忘れるな」

 両手に錘を着けずに剣を持つのは久しぶりだった。

 ただ、普段の長剣なら軽くも感じるのだろうが、今持つのは、この異常とも言える大きさと重さの大剣だ。

 当たり前だが、何も軽く感じないし、持っているのが精一杯の重さだ。

 それに驚くほどバランスが悪い。とてつもなく悪すぎる。

 本当にこれを、さっきヴォルトはあんなに軽々と使っていたのだろうか。

 別の剣じゃないのかと疑いたくなるくらいに、リオンには重く感じた。

「軽く素振りでもしてみろ」

「軽くって、無理・・・・・・です」

 何とか持って構えているだけなので、一先ず振り上げて右肩に刀身を乗せる。

「やっぱりいきなりは無理か」

「それはそうですよ!」

 お前と一緒にするな、筋肉バカ、と喉まで出そうになったリオンだが、ガザリーに言わせれば、どっちも大して違わない筋肉バカだということに全く気付いていない。

いつもお読み頂きましてありがとうございます。

本日は拙作だけでなくサブタイトルも逝ってますが(笑)よろしくお願いいたします。

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