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第4話 -冷や汗のクエスト報酬-

281017 改訂しました。

「―――リオンさん、ひょっとして倒したオークの中に一匹、かなり大柄なのがいましたか?」

「すごいな、アリサさん。耳だけでそこまで分かるなんて。確かに群のリーダーと思われる大きいのがいました」

 彼の答えにアリサの表情が少し強張った。

「・・・・・・あのね、それはオークではないみたいですよ」

「はい?」

「それは―――オークの上位種、ハイオークです」

「・・・・・・」

 アリサはリオンが出したオークの耳の一つを指差して説明を続ける。

「その耳はこれですよね? 明らかに他のものより二回りは大きいし、泥に汚れて分かりにくかったかもしれないけれど、よく見れば他のものより赤味掛かってますよね?」

 そう言われれば、あのオークに弾を当てた時にとても堅いと感じたことや、剣を払いに来た速度も明らかに想定以上だったのを思い出した。

 おいおい、体はしっかり洗ってくれよ、などとオークに頼めるはずもない。

 知らぬ間にかなり分の悪い命懸けの勝負に出ていたことへ、彼は首筋に嫌な汗が浮かぶのを感じた。

 しかしそのような事情など与り知らないアリサは、半ば独り言を混じえながら説明を続ける。

 彼女はその胸と同じくらい、いやそれ以上に豊かな見識と高い事務処理能力を持ち、一癖も二癖もある冒険者たちから高い評価を受けていた。

「リオンさん、香草採取クエスト中の自由討伐でしたよね? クエスト自体が遂行できなくなるような危険を冒すのは決して褒められた行為ではありませんよ。今のリオンさんにハイオーク討伐はまだ少し危険なのでは?」

 彼女の口調は諭すように丁寧であった。

 ハイオークは、オークとオーガとの交配、あるいは突然変異などと言われて種としての起源は良く分かっていないが、Eクラスの冒険者相当の魔物である。

 Fクラスになったばかりの彼にはまだ荷が重く、大いに生命の危険があった。

 それもハイオークだけでなく、別にオークが四匹もいたのだからアリサが彼を心配するのは無理もない。

 彼女は修道院出身者の冒険者に対して特に優しいのだ、と彼は思っている。


「はい。すみません」

 軽率な行動を反省し、リオンは素直に謝った。

「とにかく無事帰って来られて本当に良かったです。どこもケガとかしていませんよね?」

 つい先程、急に事務的となった態度が少し柔らかくなったような気がした。

「はい。まだまだ弱いことは分かっているので、周囲に罠を巡らせて戦い、何とかケガもなく勝てましたから」

「ハイオーク一匹とオーク四匹を無傷でですか・・・・・・リオンさん、すごいです!!」

 まさか五匹のオーク、それも一匹はハイオークを相手にまともに戦ったと勘違いされては堪ったもんじゃない。

 早く訂正しないとえらいことになる。

「ちょっと待ってアリサさん! 剣を交えたのは手負いの一匹だけで、それ以外はまともに戦ってさえいないから!!」

「そうなんですか? それでもリオンさんのクラスを考えると十分な戦果ですよ! ハイオークを倒せるなんて、実はもうEクラスの実力があるのかもしれませんね!!」

 明らかに聞き流されている感がある。

 それに瞳も少し熱っぽく潤んでいるような・・・・・・。

 リオンは、何を言っても徒労に終わりそうな彼女への説明を早々にあきらめた。

「でもあまり無茶はしないでくださいね。それでは報酬ですが、クエスト分も合わせて銅貨二十枚になります。カウンターの方へお越しください」

「あれ? さっきより五枚増えてますよ」

「ハイオークが、今日の相場では一匹につき銅貨八枚だからです」

「ああ・・・・・・分かりました、じゃあそれでお願いします」

 やはり今日はついている。

 あまり喜ぶとアリサにまた怒られそうなので、何食わぬ顔で作業が終わるのを彼は待った。


 彼女は検品台に置かれた物を持ってカウンター後ろにある部屋へと入り、しばらくしてから戻って来た。

「ではカードをお返しします。それと報酬金額、クエスト等の記録に間違いがないことを確認してからサインをお願いします」

 彼女は奥の部屋から持って来たノートを開く。

 それは冒険者名簿と題されたノートで、セダンに滞在している冒険者ごとに様々な記録が残されている。

 これに基づいてギルドが冒険者のクラスを決めるので、とても大切なものだ。

 彼は野太い字で書かれた今回のクエストの内容を確認した。

 この国では貴族や商人以外の識字率は高くなかったが、レギオン神父が必ず子供達に読み書きを教えていたので、修道院出身者は読み書きに苦労していない。

 ちなみにギルドでは、字が読めない冒険者のためにアリサが記録を読み上げている光景がよく見られた。

「あれ? 今日はアリサさんが書かれてないですよね。残念です、アリサさんの綺麗な字は好きなんですけど」

「えっ、好きって!? そんなの早く言ってくださいよぉ。それならアリサが自分で書いたのにぃ。でもクラス石の交換とかも早くしないと、リオンさんを待たせるのも悪いかなと思って。もぉ、それなら石の交換をカザスさんにしてもらえばよかったな・・・・・・」

 彼女が態度を急変させ両手を組んでモジモジしていると、カウンターの後ろから迫力に満ちた大きな声が飛んで来た。

「汚ねぇ字で悪かったな!」

 ギルドの長のカザスである。

 彼もかつては冒険者であったが、この町の名代であるグレンに請われて冒険者ギルドの長に就任して以来、町やギルドの発展とリオン達のような若者の育成に力を注いでいる。

「いえっ、そういう意味じゃありません、カザスさん!」

 生真面目なリオンは、姿を見せてもいないカザスに焦って声を掛けた。

「分かってる分かってる、まったくお前は誰にでも優しいからどうにも脇が甘くていけねぇ。くれぐれも女には気をつけろよ。ほら、アリサも次がつかえているだろう。急げよ」

「はい、カザスさん。リオンさん、記録とか大丈夫でしたかぁ?」

 またまた上目遣いで尋ねてくるアリサに困惑しながら、彼は急いで目を通す。

「はい、大丈夫です」

 次にカードのクラス石が単なる黒石から輝きのある黒曜石に戻っているのと、クエスト遂行状態の石が無くなっているのを確認し、報酬の銅貨と一緒に胸のポケットへしっかりと入れる。

 そして今日も無事に終えて本当に良かったとの思いを込めて、ノートの確認欄にサインをした。

「いつも期限内にクエストを完遂してくださってありがとうございます。もうお帰りですよね、アリサは残念ですぅ。絶対っ、また来てくださいね!」

 そりゃ普通は来るだろうとは賢明にも言わずに、曖昧に笑ってリオンはギルドを後にした。

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