第38話 -衛兵長の教導-
「衛兵長―――」
「彼にも色々事情があるのだよ。それに無理に手合せをお願いしたのは、こちらなのを忘れてはいけない」
「いや、しかし―――」
「リオン君や、やっぱり外してはくれなかったのだね。まあ、大切な人との約束だからしょうがないかもしれないが、もし錘が原因で、君がケガでもしてしまったら、その大切な人はどう思うのだろうね?」
優しく問いかけられた言葉に、今更気付かされた。
約束を守ることだけに縛られて、他にもっと大事なことに思いが至っていなかった。
「その人は君を信用して、錘を外す時については、君の判断に任せておられるのだと思うよ。約束だから外さないなどと言う考え方ではなく、自分で少しでも外すべきと考えたら、ためらうことなく外しなさい。君の大切な人もきっとわかって下さるよ」
「・・・・・・はい、すみませんでした」
「なーに、年寄のお小言だよ。ものはついでにもう一言いいかな?」
「・・・・・・はい」
「さっきヴォルトとやった時、それを外すべきとは思わなかったのかい?」
「とても外したかったです。でも・・・・・・」
「ああ、分かっている。そう言うことだ、ヴォルト。お前も分かってやりなさい」
「ちっ、分かったよ、衛兵長。おい、お前、次はそれを外して来い。そうしたら今回のことは許してやる」
「―――ヴォルトさん」
「・・・・・・ヴォルトだ」
「ありがとう、ヴォルト」
「約束したぞ、リオン」
ヴォルトは、照れ臭そうに横を向いていた。
「あー、今日は疲れたな。じゃあ、俺は帰るわ」
ヴォルトはそう言って、さっさと衛兵舎へと帰って行った。
「お前、リオンっていうのか。あのヴォルトと互角にやり合うなんてすごいな」
「まったくだ、うちに欲しいくらいだ」
「それにヴォルトより性格も穏やかそうだし」
「ははは、違いない」
「それよりケガはなかったか?」
成り行きを見守っていた衛兵達が、口々にリオンに話し掛けてきた。
「突然訓練に参加させて頂いて、こんなことになってしまってすみませんでした。ケガはしていません。ご心配お掛けしました」
彼は、訓練を中断させたことに頭を下げた。
「だったら本当によかった。でも言っては悪いが、君は基礎がまったくなっていない。しかしヴォルトの攻撃をほぼ凌いでいた動きには、目を見張るものがあった。我々の中でも、あいつをあそこまで防ぎきれる者は、衛兵長以外、ほとんどいない。君の技量から考えると、たまたま捌けていたのか、それともあいつの剣が見えていたのか、測りかねるのだが?」
訓練を始める前に、リオンを部外者と言った衛兵が、態度を変えて聞いて来た。
「たまたまですよ。ヴォルトさんも手加減をして下さっていたみたいです」
真面目に話すと後が長くなりそうなので、リオンは少し誤魔化した。
「それでも大したものだ。あの重い剣戟を捌くのだから、君の腕力も相当だな。やなりその腕に付けている錘によるものかな」
ヴォルトも帰ったし、ここに居る必要はないから帰りたい。
しかし話が終わりそうにない。
リオンは、仕方なくもうしばらく付き合うことにした。
「そうだと思います」
「どの位の重さがあるものなんだい? 良ければ見せて貰えるかな?」
もう好きなようにさせて早く終わらそうと考えて外すと、衛兵達が我先にと寄って来て、飛んできた刃により革が裂けた部分を見て口々に騒ぎ出した。
「やはり、フルプレートアーマーの一部のような作りだな」
「しかし、この薄さにしてとんでもない重量感。並の金属ではあるまい」
「リオン君、これをどうやって手に入れたのだい?」
「ある方から、いつも身に着けているようにと言われて渡されているだけで、それ以外何も知らないのです」
「その方はどのような方だい? 鉱山関係者かドワーフ族とかかな?」
「いえ、クルス教の神父様です」
「神父様? 本当に? まさかこのフルプレートは、その方の持ち物なのかな?」
「こらこら、お前たち、人の詮索はその位にしておきなさい。リオン君もすまなかったね。この者達も、あのヴォルトと渡り合った君に好意を持ったので、つい馴れ馴れしくしてしまったようだ。後で注意をしておくのであまり気を悪くしないで欲しい」
「いえ、コーネルさん。僕の方こそ皆さんの訓練をお邪魔してすみませんでした」
「もう気にしなくていいよ。ヴォルトも言っていたように、また来て欲しいからね」
「ああ、我々も君ならいつでも大歓迎だ」
衛兵長が、タイミング良く割り込んでくれてやっと解放された。
衛兵達の大歓迎は、多分にヴォルトの相手をする者が出来たからだろうと苦笑しながら、リオンは訓練所を後にした。
いつも拙作をお読み頂きまして本当にありがとうございます。
やはり亀の甲より年の功です。お陰で纏まりがついたような気がします(笑)
本日もよろしくお願いいたします




