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第2話 -辛勝-

20170827 見直しました。

 リオンは狙い通りの結果に喜び一瞬立ち上がりそうになるが、思い描いていたほどの戦果はなかったことがすぐに判明した。

 先頭のオークはうめき声をあげながら突然痛みが走った左肩を見たところ、今までなかった尖った黒い石が少し突き刺さっており、それを泥で汚れた醜い顔をしかめながらいとも簡単に引き抜き忌々し気に投げ捨てたのだ。

 この群の最大戦闘力をかなり削げるつもりで放った鋭い黒曜石の弾が、あまり効果がなかったことに彼は驚く。

 だが傷口は深かったようで、とめどもなく赤黒い血流が噴き出している。

 攻撃を受けたオークは警戒の言葉らしきものを発して何か伝える身振をすると、後ろに続くオーク達が武器を構えて臨戦態勢に入った。

 この群のリーダは、やはりあの大柄なやつのようだ。

 リオンはそこまで見届けて、スリングショットを腰のベルトへ戻しながら枕代わりにしていた切り株の右側へ立ち上がった。

 

 周辺には簡単な罠をいくつか準備している。

 彼が立つ場所の左右斜め前には腰ほどの深さがある落とし穴を掘り、最初に剣を交えて戦うのは真正面の敵だけに絞れるようにした。

 少し後ろにある茂みには、足元にロープを張り巡らせてある。

 形勢が悪くなり始めたら攻撃に押されたふりをしてそこへ誘い込み、敵の足を引っ掛けて転倒させるつもりだ。

 茂みの右側にある木にも枝伝いで二本のロープが結ばれている。

 そのロープを辿ると落とし穴の右にある木の枝へと続き、その先には彼の体くらいある切り株が括り付けられている。

 ロープを切れば落とし穴のすぐ側に落ちる仕掛けとなっていた。

 これらを準備し、満を持して彼はオーク達の前へ姿を現した。


 先頭の大柄なオークリーダーは、いきなり目の前に現れた人間が左肩の痛みの元凶であることを即座に理解し、すぐに周囲を見回した。

 大抵の場合、人間達はパーティと呼ばれる数人単位で行動をしており、目の前の人間にも仲間がいることを警戒したのだ。

 しかし他に人間がいる気配は感じられなかった。

 オークリーダーは、汚れた顔の干からびた唇を吊り上げて喜悦の唸り声を発する。

 この人間は彼等五体にたった一人で挑み、リーダーである自分へ不快な痛みを与える暴挙に出た愚か者である。

 是が非でも相応の報いを与える必要がある、などと小難しく考えたからではない。

 単に絶対的優位を確信し、あたかも猫が鼠をいたぶる嗜虐性を満たすのと同じように、目の前の人間が苦しみのたうちながら愚かな行為を後悔し許しを請う様を想像しただけである。

 もちろんどれだけ哀願をされても許す気は無かった。

 オークリーダーは、邪な考えを実行するために後ろの四体へリオンを取り囲むように指示をした。

 相手は一人、取り囲んでしまえばどうとでもなる。

 数の優位から最初の警戒心も薄れ、オーク達は不用意に歩みを進める。

 リオンも油断を誘うために恐れたふりをして少しだけ後ずさり、何とか勇気を振り絞って両手で長剣を構えている態を装った。

 そして左右から近づいて来る短剣を握ったオーク達が落とし穴に落ちる瞬間を辛抱強く待つ。


 彼の正面に居たオークリーダーが、あと少しで彼と剣先を交える距離まで近づいた時、突然大きな音をさせて左右の視界から配下の二匹のオークが消えたことに気を取られてしまった。

 その瞬間、リオンはオークリーダーのケガをしている左肩へ長剣を向け、少しだけ溜めを見せてから突き出した。

 オークリーダーは痛めた肩の影響で左手の盾をうまく持ち上げられず、右手の錆びた長剣で攻撃を受けざるを得なかった。

 既に痛めているところを見せ掛けの突きで狙い、本能的に盾でかばう行動を誘導したのだが、想定外の剣による防御がなされたことに彼は少し驚かされる。

 それでも彼の左目はオークリーダーの動きをしっかりと捉えており、長剣を先程とは打って変わって素早く敵の剣の下へとくぐらせた。

 今、彼の剣先にはがら空きとなった敵の太く逞しい首元が晒されている。

 そこへ渾身の力を込めて彼は剣を突き立て、両手首を返して傷口が開くように剣を引き抜いた。

 何が起こったのかも理解できないまま喉を切り裂かれたオークリーダーは彼の方へ倒れ込んで来る。

 しかしリオンはそれに勢いよく肩から体当たりをして、左の落とし穴から出てこようとしていたオークの上へかぶさるように倒した。

 そして勢いそのままに右の落とし穴から上半身を出していたオークの首を横なぎに一閃し、すぐさま身を翻し右後ろの木に張ってあるロープの一本を切って、群列の四番目にいた棍棒を持つオークの頭上へ切り株を命中させることに成功する。

 思いもしなかった頭上からの攻撃を受けたオークは膝を着き、前のめりに倒れて気絶をしたがまだ完全に無力化はできていない。

 更にその後ろ、群の最後尾には混乱をして立ち止まっているが、棍棒を構えているオークがもう一匹いる。

 左の落とし穴に落ちたオークを見ると、リーダーの体を跳ね除け、彼を睨みながら両手右足を穴の淵に掛けてまさに出てこようとしている。

 彼は残り三匹のうち、このオークを先に倒すべきと判断しすぐに駆け寄って、右上段から袈裟切りにして再び穴へと蹴落とす。

 息をつく暇もないままに、残り二匹に備えて長剣を構え直すと切り株を頭に受けたオークはまだ気絶していたが、最後尾のオークは戦意を喪失したらしく森の中へ逃走しようとしていた。


 仲間を呼ばれてはマズいっ!

 リオンはすぐに剣を地面へと突き刺し、腰からスリングショットを取り出して構えた。

 弦にはオークリーダーに使ったものより平な黒曜石の弾を番える。

 彼はオークの下半身を左眼で捉えた後、一瞬の迷いもなく弾を放った。

 狙いは違わず右太腿に命中し、オークは勢いよく転倒する。

 彼は地面に刺した剣をすぐさま引き抜くと、太腿と転倒の痛みで悶絶するオークへ素早く近づき、背後から剣を突き刺して絶命させ無意識に大きく息を吐いた。

 その後、気絶しているオークの所へ取って返し、無抵抗なものの命を奪うことに一瞬ためらいを覚えた。

 しかしすぐに自嘲の思いがよぎる。

 魔力もない落ちこぼれがたまたま運良く勝てただけで、一体何様のつもりだ、と。

 彼は、それらを打ち消すかのように気絶しているオークの喉笛を勢いよく掻き切った。

 五匹のオークとの戦闘が終わり、後は必要な作業を機械的に始める。

 まずは黒曜石の弾を回収した。

 それは魔法の使えない彼が持つ唯一の間接攻撃武器であり、長剣以上に大切なものだった。

 弾は倒したオーク達の傍に落ちており、大切にそれらを布で拭いて元のポケットにしまう。

 次にオーク達の左耳を切り取り、腰の防水防臭機能を持つ皮のなめし袋へ入れた。

 魔物を倒してその左耳を冒険者ギルドに持ち込めば、自由討伐クエストとして報酬が発生するからだ。

 そして最後は戦闘のために周囲へ置いていた大切な荷物を拾い集めた。

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