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第25話 -旅の終わり、そして始まり-

20161218 改訂しました。

「ところでリオン、これってレグミの実よね。どうしてこんな地面に散らばってるの? 勿体ないじゃない」

「ちょっと狙いが外れて、多く落としてしまったんだ」

「狙いが外れて多く? 訳の分からないことを言ってないで早く拾いましょう。クリシュナさんも手伝ってくださいますか。ジャムは無理でも、ちょっとしたソースくらいは作れそうな量があるわ」

 レグミの実は味はいいのだが、本当に果肉が少なくほとんどが種である。

 だから食用には向かず、種が専ら魔力回復薬の原料として使われるのが一般的である。

 薬に使われるは種にある胚珠の部分で、回復薬を一つ作るのに種が一万粒ほど必要となる。

 それらを一週間ほど精製してやっとできあがるもので、リオンやレギオンでもその技術は持っていない。

 大きな都市の回復薬精製を生業とする専門の薬師だけが持つ、門外不出の高等技術である。

 例え持っていても、そのような作業をひたすら行うのは現実的に彼らには無理な話ではあったが。


「ソースって、今日の晩御飯にでも添えるつもり?」

 リオンは、サーシャの考えそうなところを想像して尋ねた。

「正解。できれば隊商のみなさんの分も作れればいいのだけれど、そこまでは時間もなさそうだから、とりあえず私達とヒューさんくらいかな」

「分かった。じゃあ、ここに落ちてる分で十分だね。でも馬車の中でそんな作業をしてまた馬車酔いにならないように気をつけるんだよ」

「はーい、分かりましたー」

 三人が仲良く実を拾い終えたところで、ヒューから出発の声が掛かった。

 その日はハドルの森沿いに敷かれていた街道が森から逸れて、かなり開けた荒地の中で夜営となった。

 その夜もサーシャが腕を振るい、隊商内は終始明るい笑顔で彩られていた。

 夕食後、焚き火の輪から少し離れた場所で日課の錬丹と剣を振っていたリオンのところに、クリシュナがやって来た。

「リオンさん、今日も鍛錬ですか? 毎日見てましたけど本当に頑張られていますね」

「ああ、クリシュナか。まだまだ剣の腕もないからね・・・・・・バカみたいだろう?」

 彼は、少し気後れしながら答えた。


「何がですか?」

「魔力もないのに錬丹をしていることだよ。変に思わないの?」

「いいえ、全く」

 彼女も、もし彼が言う通りの状態なら、錬丹は意味がないと思っている。

 しかし先程の自分の感覚を信じていたので、もう一度勇気を出して尋ねた。

「・・・・・・リオンさん、その錬丹は何時からするようになったのですか?」

「十歳くらいかな。全く魔力は発動しないけれど、体を鍛えるのと同時に必ず続けるようにと、神父様がおっしゃるので。もうすっかり習慣だよ」

「レ―――ギオン神父様と言えば、薬草も神父様から習われたのですよね?」

「そうだよ。さっきのレグミの実を食べるのも、神父様が教えて下さったんだ」

「―――そう、ですか。分かりました。お邪魔をしてすみませんでした」

 クリシュナは、もう一度レギオンに会う必要性を感じた。

 急に去った彼女に、何となく後ろ髪を引かれる思いを感じながらも彼は鍛錬を続けて遅くに眠りについた。

 その後は大きな問題もなく、隊商は予定通り五日目の昼過ぎに目的地へと到着した。


 ローテンベルグはミゼルの兄であるローテンベルグ伯ワルターが治める町で、ミュルツ王国内でも大きい部類に入る。

 伯爵領の中心となるため規模的には地方都市に引けを取らないが、王国の規定上は町のままであった。

 主要な産業は、国境を隔てて存在するドワーフの国や、南の海上からの物資を王都イズミルへ運ぶ中継場所として商業流通が発達している。

 そのため町の門では何人もの衛兵が、常に町への来訪目的や持ち込み荷物の検査を厳しく行っていた。

 ヒューの隊商も例に漏れず、荷物や人員について忙しそうに衛兵へ説明をしたり書類を見せたりそれなりに時間が掛かっていたが、護衛のクリシュナや同行しているだけのリオンらは時間を持て余していた。

「クリシュナは、この護衛が終わったらどうするの?」

 流星号を撫でながらリオンは尋ねた。

「一度、村へ帰るつもりです。ある人との約束もありますし」

「そっか。じゃあここでお別れだね、いろいろありがとう」

「リオンさん、えらくあっさりと言ってくれますね。私と別れるのは寂しくないのですかぁ?」

 金色の髪の美しいエルフが頬を膨らまして上目遣いで彼を見る。

 破壊力抜群である。

「いや、まあ、寂しいけど、だってしょうがないよね。お互いやらなければならないことがあるみたいだし」

「そうですねっ、分かりましたっ! リオンさん、さようならっ!」

 クリシュナは急にプリプリと怒って去って行った。

「ダメねぇリオン。女の子にあんなつれないこと言ってはモテないわよ」

「モテる? そんなこと言われてもよく分からないよ。クリシュナは何をあんなに怒ってるのかな、サーシャ?」

「はあ・・・・・・」

 三人で一番年下ではあるが、サーシャはクリシュナに心から同情をした。

 そんな二人の心情をまったく理解しない黒髪の青年は、美しいエルフとの出会いから別れまでを思い出し、振り回されっぱなしだったと感慨深げに彼女の後ろ姿を見送っていた。

いつもお読みいただきまして本当にありがとうございます。

とうとう今回が第一章の本編の最終話です。

本当の最終話は次回の挿話になります(笑)

ここまで来ても相変わらずの拙作ぶりですがよろしくお願いいたします。


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