第24話 -困惑-
20161221 改訂しました。
「うん、おいしいね。気持ちがスッキリするよ」
「そうですね、生では初めて食べましたけど私もそう感じます。ところでリオンさん、そのスリングショットはいつから使われているのですか? 大当たりでしたよね」
「あ、まあ、そうかな」
彼女は彼の隣に座わってレグミの実を食べながら、腕前を褒めてくれる。
狙い通りではなかったとは今更言い辛い。
それに彼としては、薬草と同じく魔法が使えないコンプレックス克服のための攻撃手段なので、なるべく当たり障りのない答えを心掛けた。
「二年くらい前、冒険者を始めて間もない頃だよ。クエストで一緒になった冒険者の中に魔法が使えない人がいたんだ。その人は飛んでいる鳥をスリングショットで見事に落としたんだ―――僕も魔法が使えなくてちょうど間接攻撃の手段を探していた時のことだよ」
「えっ・・・・・・魔法が使えない? まったく?」
「うん、まったく。神父様や他の冒険者と色々試しては見たんだけどね。そもそも魔力がないらしいんだ」
努めて明るく答えるリオンに、そんなはずはないとクリシュナは思った。
先程スリングショットを撃つときに、微かに魔力の波動らしきものを感じた気がしたのだ。
しかしレギオンが側にいて、魔力がないと言っている。
あの神父が感じられないはずはないと思うが、力を失った彼を買い被っているのかもしれない。
「言ってなかったというか言う必要がなかったからね。僕はまったく魔法が使えないんだ」
少し寂しそう微笑むリオンを見て、クリシュナは心から後悔した。
彼がとても気にしているのを痛いほど感じたからだ。
エルフは生まれた時から誰でも巧みに魔法を使えることと、彼女が知っている人間の冒険者達はほぼ何らかの魔法が使えたため、魔法がまったく使えない者の存在をすっかり失念していた。
彼女の心は、後悔と彼が魔法を使えないことへの違和感と、それにも増して言いようのない理解不能な感情が入り混じり自然と涙が浮かんでしまった。
「ごめん―――な、さい」
「えっ? クリシュナが泣く話じゃないだろう? それにもう慣れたよ」
「・・・・・・うそつき」
「ん?」
「―――いいえ、何でもない・・・・・・です。本当に―――ごめんさない」
「うん、分かった。だから泣かないで」
魔力がないことを今更嘆いてもしようがない。
でも顔には出てしまうのだろう。
クリシュナに悟られて、彼女が自らの発言を後悔して泣いてしまった。
しかし何故彼女が泣いているのだろう、どちらかと言えば泣きたいのは彼の方である。
まだ彼女とはそれほど親しいわけではない。
ならば彼女が他人の痛みを感じられる優しい女の子ということか。
女の子はやっぱり良く分からない。
結局悩んだ末にありきたりの結論へ達したリオンへ災難が近づいていた。
クリシュナが落ち着いた頃合いを見計らったようにサーシャが腰に手を当ててやって来たのだ。
「リオン~、クリシュナさんを泣かせたの~? 何やってるのあなたは~?」
「いや、サーシャ、猫なで声が逆に恐いからやめて。お願い、話を聞いて」
凍てついた微笑みで迫ってくるサーシャに、リオンは後ずさりをしてひたすら言い訳と許しを請う。
「本当、何もしてないから。レグミの実が落ちていっぱい当たったけど、あまり痛くはなかったし。クリシュナもおいしいって言ってくれたから。それより流星を放っておいて大丈夫なの?」
彼は訳のわからないことを口にして、何とか誤魔化そうとする。
本当の理由を教えるのはまずい。
話がぶり返すだけで何もいいことはないのだ。
「クリシュナさん、大丈夫? リオンに何かされたの?」
いや、何もしてないし、されたのはむしろこっちですとは言えず、クリシュナの返事を祈るように待つ。
「心配かけてごめんなさい、サーシャさん。ちょっとレグミの実を一気に口に入れたら、酸っぱさが鼻にツンと来て涙が出てしまいました」
サーシャが周囲にあまり落ちていないレグミの実の種を数えてから、ふーんという感じで彼を睨む。
リオンは、本当に何もしてないとの素振りで手と首をバタバタと左右に激しく振った。
「ま、クリシュナさんがそう言うならいいでしょ。でもリオン、気をつけなさいよ」
一体何に気をつけろと言うのだ、サーシャよ。
でも口には出せない。
リオンは大きく頷いた。
「本当に違うのよ、サーシャさん。私が勝手に泣き出しただけなの」
「はいはい、わかりましたわかりました」
彼は何とか無罪(?)放免を勝ち取った。
いつも拙作をお読みいただきましてありがとうございます。




