第23話 -レグミの実-
20161218 改訂しました。
旅も三日目となり、サーシャの料理が奏功したらしく隊商内に一体感が生まれていた。
昨日までは朝の挨拶も表面的であったが、今日は隊商の者達から進んで挨拶をしてきてくれて、中には『今日もおいしい料理頼むよ』など軽口を叩く者もいるくらいに親密度は増していた。
今日はハドルの森の外周沿いに進み、ちょうど森が途切れた場所くらいが夜営の目的地となる。
この旅で最も森に近く、魔物との遭遇確率が一番高い場所を進むので比較的安全な昼の間に通過できるよう行程は組まれていたが、クリシュナ達護衛の任を負う者は常に隊商の左側にあって森への警戒を怠らなかった。
リオンも同様に馬車の左側を歩きながら、流星号の手綱を厳しく握っていた。
時折、周囲を警戒するために位置を変えるクリシュナと言葉を交わし、森を見るとリスなどの小動物の影を目にして少し安堵の息をつく。
昼を過ぎた頃、ヒューが街道のすぐ脇にまとまって休憩が取れるくらいの広場を見つけ、隊商に一時停止を指示した。
リオンも馬車を止めて流星号を撫でてやりながら、ハドルの森の端を見ると赤い実がなっている木を見つける。
レグミの実である。
彼は良く知ってる木の実がたわわわに実っていることを確認し、傍にいたサーシャへ流星号の手綱を任せると森へと走った。
レグミは小指の爪くらいの小さな実で、一房に二、三粒くらい実がなっている。
簡単に取れそうな下の方は、まだ陽が十分には当たっていないようで青いものが多いが、上の方には完熟して今にも落ちそうなものが多く見られた。
木の周りをウロウロとするリオンを見かけたクリシュナが、街道と森との境を警戒する振りをして彼の側へとやって来た。
「リオンさん、何をしているのですか?」
「ああ、クリシュナ。レグミの実を見てるんだよ」
「これって、魔力回復薬の原料ですよね」
「良く知ってるね。あれは薬というより飴っていったほうがいいような感じだけど、そうだよ」
「生でも食べられるのですか?」
「普通はあまり食べないらしいね、果肉もほとんどないから。けど僕は結構好きだよ。少し酸っぱくて疲れが取れる気がするんだ。昔、神父様に食べるように言われてから、生っているのを見ればいつも食べてるよ」
「じゃあ、今から食べるんですか!?」
彼女はすごく興味があるようで、最初から彼もそのつもりだった。
「そうだよ、おいしそうなのを物色していたところ。一緒に食べる?」
「うん! 私も食べたいっ!」
クリシュナは両手を形のいい胸の前でしっかり握って、瞳を輝かせている。
自称妹は本当にかわいいと思う。
でも修道院の子供達に感じるのとは少し違う。
良く分からないが、リオンはいつもより頑張れそうな気がした。
「じゃあ採ろっか」
「どれがいいのかな?」
彼女は、すぐ手が届きそうなところに生っている少し青い実に手を伸ばした。
「それはまだ早いよ。ものすごく固くて酸っぱいのが好きなら止めはしないけど」
「えー、やっぱり甘いのがいいです。でも甘そうなのって赤いやつですよね。結構上のほうには生ってるけど、この木って枝が柔らかいから上までは登れませんよね?」
「そうだね」
彼女と話をしながら彼は、腰からスリングショットを取り出し、右手で構え左手でポケットから平たい石を取り出した。
この石弾は、標的を切ることを目的に周囲を可能な限り薄く研磨した扇形をしている。
レグミの実が生っている木の枝が的なので、さほど攻撃力も早さもいらないが正確さは必要だ。。
枝周りにある実を傷つけないように細心の注意を払い、左手の石弾の角度を調整して狙いをつけ、枝の付け根から伐採するように弾を放った。
石弾は風切音とともにリオンの狙った枝だけでなく、更にその上にある枝を四本ほど刈り取り、盛大に実の雨を彼らの頭上に降らせた。
「わあっ、リオンさん! すごいですっ!!」
「・・・・・・」
予定では実が付いた一本の枝がさらっと落ちてくるはずだったが、足元には実がほぼ外れた枝が五本と、枝についていたであろう大量の赤い実が撒き散らされていた。
クリシュナはリオンのスリングショットの腕前に目を見開きながら、足元の実を一つ取って齧った。
「あっ、おいしい! 爽やかな酸味が拡がります」
「ははは、そう、よかった・・・・・・」
本当は一本だけ狙っていたので予想外の結果だとは今更言えない。
どうやら少し力が入ってしまったみたいだ。
でも彼女が喜んでくれて良かった。
彼もその場に座り、落ちた実を拾って食べ始めた。
いつもお読みいただきましてありがとうございます。
本章(第1章)も終盤が近づいて来ました。
想定より話が長くなっています。もちろん次章以降まだまだ続く予定です(笑)
どうか拙作にお付き合いをお願いいたします。




