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第22話 -風穴-

20161217 改訂しました。

「リオン、お前は相当な腕前の薬師じゃないのか?」

「とんでもないです! 僕は神父様に教えて頂いたことをやっているだけで、ステビアも神父様がご存じだったから使えただけです」

「そんなに謙遜するなよ。酔い止め以外も作れるのだろう?」

「教えて頂いたものは、材料があれば一通りは作れます。でも・・・・・・」

 確かに薬作りにおいては修道院内、いや修道院出身の冒険者を含めて彼の右に出るのは、師であるレギオンだけになった。

 だがその差はいまだ歴然としており、遥か遠く及ばない。 

 それに薬作りの技術を向上させているのも、結局、治療魔法も含めた魔法の使えないコンプレックスから来た代償行為に過ぎない。

 薬作りが多少長けていても魔法にはとても敵わない、と自嘲の念でリオンは口籠ってしまった。


「一通り作れるのか! そいつは大したもんだ。魔法は治療してくれる人が必要だが、薬は持っていれば自分で治せるし、持てる薬の種類は多いに越したこない。つまり作れる薬が多いってのは本当にすごいことだぞ!」

「・・・すごいこと?」

「そりゃそうだろ! 確かに魔法は即効性や症状を選ばない効き目という点では、薬を遥かに凌ぐかもしれない。しかし使い手が必ず必要だ。そしてその使い手はどこにでもいるわけではない。反対に薬はその物を持っていさえすればそれ以外何も必要ない」

 ヒューは、目の前の若者が彼の言葉の意図を理解しているのか確認するために一息を置いた。

「考えてみろよリオン。俺達のような庶民が、もっとも世話になっているのは魔法治療か? いいや薬治療だ。薬は世の人々から本当に必要とされる最も大切な物の一つなんだよ。そしてそれを世に送り出し、大いに人々の役に立っているお前は本当に大した奴だ。もっと自分を評価してもいいと俺なんかは思うぜ」

「・・・・・・ヒューさん、あなたが庶民にはあまり見えませんよ。それにおだててもステビア入りの薬草は出ませんよ」


 あまりにも手放しに褒められたリオンは、照れ隠しに軽口でやり返したが、その表情からは自嘲の影は消え、少し赤味掛かった晴れやかなものになった。

 ヒューは商人であり、打算的な部分があると理解はしていても、話している内容には実感がこもっており、レギオン以外にここまで褒められることは滅多にないので純粋に嬉しかった。

 それに今まで盲目的に魔法が優れていると思い込んでいたところへ、少しだけ風穴が開いたような気がした。


「そうかい、そいつは残念だ。うちの商会は薬も扱っているから、もし手持ちに余りができたら小遣い稼ぎのつもりで一度声を掛けてくれ。飲みやすい薬なら採算は十分だし、本格的に扱いたいからな」

 ヒューは、まだステビア入の薬に未練があるかのように話をしながらも、心の中では別のことを考えていた。

(リオン、お前は例え魔法が使えなくても大した奴だ。グレンも若いながら見どころがあるとお前を認めている。彼からお前のコンプレックスと、それ故自分に厳しく他人に優しいと聞かされていたがもっと自信を持って視野を広くしろ。狭い世界に囚われるな)

 例えヒューが心の言葉を口にしても、今のリオンには残念ながら届かないだろう。

 それを理解しているので、リオンが少しでも受け取れるであろう形で伝えようとしたのだ。


 ヒューとの話を終えたリオンが、サーシャの馬車へ戻ったところで本日の夜営となった。

 もともと可愛くて気立ての良いサーシャは、隊商の旅程に迷惑を掛けたお詫びにその日の料理番を買って出ると率先して調理をし始めた。

 お陰で夜の食事は渚亭とまではもちろんいかないが、質素ながらもいつもの隊商の夜営とは比較にならないおいしいものになり、彼女は一躍人気者となった。

 ここでもヒューは、冗談か本気かわからない逞しい商魂を発揮した。

「サーシャ様、よかったらローテンベルグで料理店をやりませんか。ぜひ私に出資させてください」

 サーシャ本人は満更でもない感じであったが、傍に居たミゼルが上品に笑いながらしっかりと釘を差した。

「ヒュー様、お申し出は大変ありがたいのですが、この度は妾の休養を兼ての里帰りですのでご遠慮を」

「そうでしたね。しかし本当に惜しい。気が変わったら教えてください。いつでも歓迎しますので」

 ヒューは商人らしく、引き際も心得たものである。

 リオンはヒューと話をするミゼルを見て、ふと女性達の肌に少し罰当たりな思いを馳せていた。

 ミゼルは夜だけ馬車から出て来るのだから白くて当然で、綺麗と言えば綺麗だけれどあまり健康そうには見えない。

 サーシャは渚亭の手伝いや流星号の世話で朝も昼も良く出歩いているから健康的な肌の色だ。

 クリシュナはいつも陽に当たっているのに何故かとても白い。

 ミゼルに遜色ないほどだけど、クリシュナの方が明るく透き通って見える。

 何か秘密があるのだろうか。

 たわいもないこと考えながら夜営の火を黒い瞳に映すリオンの夜は何事もなく過ぎて行った。

いつもお読みいただきましてありがとうございます。

本日も拙い内容ですが、何とか書くことができました。

よろしくお願いいたします。

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