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第19話 -呼び捨て-

20161217 改訂しました。

「クリシュナさん? やはりまだ体調が優れないのですか? それとも何かお困りですか? 今ならセダンからそう遠くはないので、急いでグレン様に相談に行ってきましょうか?」

 リオンは、サーシャの件もあったため、かなり神経質になっていた。

 もし何か問題が発生しているのであれば、早く解決しなければならない。

 しかし彼の言葉を聞いたクリシュナは、びっくりして顔を上げた。

「えっ!!? ちっ、違います違います!! そんな大袈裟な話じゃないんですーーーっ」

「本当に?」

「はいっ!!」

「それなら良いのですが」

 彼女らしいはきはきとした様子にとりあえず彼は安心した。

「クリシュナさんに元気がないと心配になりますから、頼りないかもしれませんが何でも遠慮なく言ってくださいね」

「・・・・・・心配してもらっているのですか?」

 彼女はエメラルドの綺麗な瞳を零れそうなほど大きく拡げていた。


「当たり前です! これでも同じ隊商で旅ができて、とても心強く思ってるのですよ。サーシャとも共通の知り合いですし。それに神父様からも傷の手当をお願いされていますし―――」

 彼は、今朝の傷の手当を思い出し顔が熱くなってきた。

 絆創膏を貼る時、傷の痛さを我慢しているのか、なぜか彼女は目を思いっきりつむって唇を突き出すのだ。

 考え様によっては口づけを求めているとも見える表情に、彼の胸の鼓動は早鐘を打つようであった。

「・・・・・・」

「・・・・・・」

 二人とも顔を赤くして、お互いあらぬ方向を見た不自然な沈黙ののち、彼女が悲壮感さえ漂いそうな表情を見せて声を絞り出した。

「リ、リオンさんは、全然頼りなくないです・・・・・・」

「はい?」

「さっき、そう仰っていたから・・・・・・」

 彼女の気遣いが嬉しくもあり、それでも情けなくも感じたリオンは少し頭を掻いた。


「ははは、まったく―――クリシュナさんにも気を遣わせているようでは、やっぱりまだまだですね。でもありがとうございます。どうやら少し気が緩んでいたようなので、気持ちを入れ替えることにします」

 彼は、グレンやカザス、そしてレギオンの期待を裏切らないように自らを戒める。

 しかしクリシュナは、良く分からないが先程よりもっと顔が赤くなり、体を左右にもじもじさせている。

「―――い、いいです・・・・・・か?」

「はい?」

「私も、―――が、い、いいです・・・・・・」

「えっと、クリシュナさん?」

「クリシュナです・・・・・・」

「それは知ってます。クリシュナさんですよね?」

「そうではなくって!」

 彼女の消え入りそうな声が、徐々に大きくなると同時に、何だか怒っているような雰囲気に思えて彼は困惑した。

「私も、『クリシュナ』と呼んでもらいたいのですっ!」

「はい?」

「リオンさん、サーシャさんのことは『サーシャ』と呼びますよね。私も『クリシュナ』がいいのです!」

「・・・・・・」

「だめ―――ですか?」

 彼は頭が真っ白になり、つい立ち止まってしまった。

 えらく思い詰めた表情で話し出したので、どんな内容かとかなり構えていたところへまったく予想だにしない不意打ちを受け、思考がついて行かなかった。


「ブルっ!」

「ああ、ごめん流星」

 リオンが動かなくなったので、厳しく張った手綱を流星号が窮屈そうに引っ張った。

 我に返った彼は急いで歩き出す。

 えーっと、彼女は何て言ったっけ?

 クリシュナと呼んで欲しいだっけ? 

 呼び捨て? 昨日今日知り合った、それもこんな綺麗な年上の女の人を?

 少なくとも、神父様の教えでは正しいことではない。

 それに聞き間違いかもしれない。

 生真面目な彼は、止せばいいのに確認をした。

「・・・・・・クリシュナさん?」

「・・・・・・クリシュナです」

「・・・・・・『クリシュナ』と呼んで欲しいと言いましたか?」

「恥ずかしいので改めて聞き返さないでください! リオンさんの意地悪っ!!」

 彼女は先程に輪を掛けて顔を赤くして怒っている。

 意地悪って言われても、聞き間違いでは済まされないのでしようがない。

「クリシュナさんとは会ったばかりで、呼び捨てができるほど親しくなったとは思っていないのですが?」

「リオンさん、さっきは何でも遠慮なくって言いました」

「あ、そういう意味ではないのですが―――」

「親しくならないとダメ・・・・・・ですか?」

 今にも泣き出しそうな悲しい顔で彼女が尋ねた。


「いえ、その、サーシャ以外に女の人を呼び捨てにしたことがないというか、そんなに親しい人はそもそもいないのですが―――」

「あっ、そうなんですね!」

 何故か彼女のご機嫌が少しだけ治った。

 しかし心底困った彼は再び言わなくても良いことを口にしてしまう。

「クリシュナさん、僕より多分年上ですよね。女性に年齢のことを言うのは良くないと知っているのですが、神父様のお教えで年上の方には敬語で接しなさいと言われているので」

「人間の年にしたら十六歳ですっっ!」

 彼女は頬を膨らませて横を向いてしまった。

 彼もさすがに、エルフの年ではいくつだよ、とは言わず静かに頷いた。

「―――分かりました。年のことはひとまず置いておいて、それほど親しくないのに、僕なんかが呼び捨てにして大丈夫なのですか。あなたはエルフで、僕はそれこそ素性も知れない様な人間ですよ?」

 彼は、エルフが気難しくプライドの非常に高い種族と聞いていたので、クリシュナに限ればその様には見えないのだが、それでも少し厳しい口調で確認をした。


「その様な言い方はよしてくださいっ。もし私がエルフということを気にされているのであれば、それは関係ありません。自分が孤児であるということを気にされているのであれば、レ―――ギオン神父様が悲しまれるので、それも止めてください」

「・・・・・・すみません。言い過ぎました」

 深い悲しみを湛えた碧の瞳に見透かされ、彼は自分の言動を少し後悔した。

 そして彼女がいい加減な気持ちではなかったことも思い知った。

「分かりました。クリシュナ・・・・・・でいいんですよね?」

「あっ!」

 驚きと嬉しさで一瞬大きく目を見開き、その後大輪の花が咲いた様に笑顔を見せた彼女はとても美しかった。

いつもお読みいただきましてありがとうございます。

何故か収拾がつかない方向にいこうとするのを、何とかまとめて最後まで書き上げることだけを念頭に創っておりますので、至らぬところが多々あり、毎度毎度申し訳ありませんが、よろしくお願いいたします。


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