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第12話 -暴れ馬騒動の顛末-

281020 改訂しました。

「クリシュナさん、僕は向こうで人が待っていますのでここで失礼しますね」

「あ、はい、重ね重ねありがとうございました」

 丁寧に頭を下げるクリシュナに手を振ってリオンはカザスの元へ向かった。

「どうしました?」

「すまない。少し話があるのだが、今、大丈夫か?」

「ええ、何ですか?」

「さっきギルドで警備隊員の検査の後、俺はすぐにグレン様のところへ事情を聴きに行ったんだが、どうやら執事さんが思い込みで暴走しちまって悪巧みに利用されたらしい」

「暴走ですか?」

「そうだ。殺されたのは執事さんだけで自業自得と言えなくもない状況だが、立場が立場だけにそれでは済まされそうにない」

「ローテンベルグ家の人でしたよね?」

「そうだ」

 カザスが急に協力的になって動いた理由もそこあった。

「あの人は貴族に仕えることこそ至上として、グレン様のような商人上がりの下で働くのは腹に据えかねていたらしいからな」

 それはリオンもサーシャからたまに聞かされていた。

 グレンの方針であっても彼女が渚亭を手伝うことは名代家の令嬢たる者のすることではない、あさましいことだ、といつも口にしていたらしい。


「リオンはグレン様の護衛をしているザインを知っているな?」

「―――あまり親しくはありませんが」

 ザインはグレンに付いてよく町を出ているので滅多に会うことはない。

 リオンより身長が高く、締まった体と輝く銀色の髪と瞳が印象的な男である。

 馬の乗り方はザインから教わったのだが、切れ長の目から出る鋭い眼光でいつも睨まれていた記憶があり、取っ付きにくい感じが強かった。

「サーシャ様が琥珀の玉のある革の腕輪をしていたのも知っていたか?」

「ええ、気づいたのは昨日ですが。あれは冒険者の石をつけた剣帯ですよね」

「そうだ。ザインが冒険者だった時の石を付けたものだ」

 そう言うとカザスはグレンから聞いた話を始めた。


 ザインはかつて冒険者をしていたが、グレンの護衛となる時に廃業して冒険者カードの琥珀石を剣帯に付けていた。

 サーシャが渚亭で働き始めた頃は、たまに彼女の素性を知らない者が絡んでくることがあり、グレンの命で護衛をしていたザインがかなり厳しく追い払っていた。

 彼のいることが知れ渡り早々に彼女へ絡む者はいなくなったので、グレンも安心してザインを自身の護衛に戻したのだが、一週間程前、久しぶりに彼女へ絡んできた余所者がいた。

 多少あしらい方を覚えたサーシャが頑張って何とか穏便にお帰りいただいたらしいが、その話を聞いたグレンが慌ててザインを再び彼女の護衛に付けたのである。

 しかしサーシャの方が、いつまでもザインに頼っているのはグレンの安全上も良くないと考え、冒険者の石を持っていれば多少は威嚇効果になるかもしれないから貸して欲しいと彼に頼んだ。

 ザインもその考えは理解できたので、吊り下げていた革紐の剣帯を外して彼女の左手首に巻き着けてやった。

 その時、彼女は身に着けていたローテンベルグ家の家紋が入った銀の腕輪を右手首から外し、彼に石を借りる代わりとして渡したのだ。

 彼は当然受け取るはずもなく立ち去ろうとしたところ、彼女は彼の服のポケットに腕輪を押し込んで渚亭の厨房へと戻った。

 彼も厨房まで追い掛けて彼女の仕事を邪魔するわけにもいかず、そのまま屋敷へ帰ると彼の部屋にある鍵付きの木箱でひとまず大切に保管することにした。

 それには無理に開けようとしたら小さな刃が出る仕掛けが施されていた。


 彼は折を見てグレンに説明をして返そうと考えていたのだが、運悪くその日のうちにグレンの随行をして隣町へ行くことになり返しそびれてしまった。

 その後、執事がサーシャの右手からローテンベルグ家の腕輪がなくなり、左手には琥珀の石がついたみすぼらしい革の腕輪が着けられているのを見咎めて、色々詰問したらしい。

 彼女はザインに何度も助けられて心から感謝していることや、革の腕輪は頼んで借り受けていることを説明した。

 しかし、ザインは使用人なので主人の娘を守るのは当然の責務で何も感謝する必要はない、と一蹴されてしまう。

 更に冒険者ごときの腕輪を喜んで身に着けるなど、しょせんは商人上がりの名代の娘なので仕方のないことか、などと彼女だけでなくグレンをも貶めた。

 その上で彼が名代家の執事をしている以上、ふさわしくない行動は必ず改めてもらう、ときつく告げたとのことだ。

 どうやら執事は彼女から話を聞いた時に、ザインから彼女の腕輪を奪えれば、ザインには腕輪紛失の責任が追及でき、彼女には軽率な行動について猛省を促せると思いついたらしい。

 折良くザインが不在となり、彼の部屋を手下の馬丁に捜させて腕輪を入手したまでは良かったのだが、町へ帰って来たザインが馬丁の不審さに気づいて手荒に聞き出し、グレンの知るところとなった。

 グレンはすぐに執事を叱責し馬丁を解雇した。

 働き口を失った馬丁は、逆恨みから今回の強盗殺人の原因となる暴れ馬騒動を起こした。

 カザスがグレンから聞いた内容は、大まかにこのような感じであった。

「それで僕にどのような御用ですか?」

「―――それは私から話そう」

 カザスの話に集中していたらしく、リオンが気づかないうちにグレンとサーシャが側へとやって来ていた。

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